国際会議の準備
茂が一人、鬼王神社に向かっていたころ、中道商店街のパティオでは着々と『国際会議』の準備が進められていた。
芝生広場は、パティオの敷地の半分を占め、丁度サッカーのピッチの半分くらいの広さがある。後の半分は畑やお花が植えられ、奥にももやさくらのお家であるそれはそれは綺麗な白い洋館が建っている。
──今夜は満月、空には満天の星がきらめく、パティオには開閉式の屋根もあるのだが開けてある。四方のビルの屋上にある反射鏡は、うまいこと角度を調節して月明かりを集光し、芝生広場の丁度真ん中を照らしていた。
照らされているのは木製の超長テーブルと2つの超長椅子、そして、野外キッチン。四方には松明が焚かれ、穏やかな光を照らしていた。
普段は広場の地下に収納されているこれらの設備は、洋館の地下にあるコントロールルームで制御し、出したり入れたりできる。
──この町の砦とも言える中道商店街のパティオは、ごんちゃんのアイディア、もしくは遊び心がいっぱいつまった施設なのだ。
その木製の超長テーブルにシュ、シュ、シュ…次々ととすみれおばあちゃんの作った野菜の炊き合わせやら、豚の角煮やら、焼き魚、魚介の天ぷら、山菜の天ぷら、刺し身に、牛蒡と牛肉の炒め煮…それはそれは美味しそうな大皿料理が、湯気とともに現れた。
そして、とっておきの出汁をつかったお雑煮の鍋はコンロに現れた──白い洋館のキッチンですみれおばあちゃんがつくった料理を、ももが瞬時に移動させているのだ。
同時にパティオの入り口シャッターが開けられ、次々と町民が入ってきた。
それをごんちゃんが迎えている。
「ワン シャンハオ」
最初に入って来たのが、中国拳法の一つ・
「グーテン アーベント」
次はドイツ人のアレクサンダー佐藤、ソーセージ屋ダンケの主人である──手には自慢のドイツソーセージののった大皿を持っていた。
「アンニョン ハシムニカ」
韓国人のパクさんだ。テコンドーの名手だ──勿論キムチを持ってきた。
「ドーブルイ ヴェーチェル」
ロシア人のアブリコーソフさんもやってきた。柔道の達人で手に持ってるのはウォッカだ。
「ナマステー」
インド人のグンドルフさんも来た。数学を教えている大学教授でこの町の四賢人の一人だ──手には勿論バターチキンカレーのはいった鍋を持っている。
「ボス ノイテ」
ブラジル人のガブリエルさんは佐々木工務店で工場長をしている──岩塩で焼いたお肉の刺さった串、シュラスコを手にしている。
「グッド イブニング」
日本酒バーを経営しているアメリカ人のボブさんだ。米国陸軍精鋭部隊にいたことがある猛者だ。日本酒にするかバドワイザーにするか迷ったあげく、4ダース入ったバドワイザーを箱ごと担いで持ってきた。
──と、この町に住む外国人が次々と差し入れを手にやってくるのだ、集まってくるのは日本人も含めると総勢50名ほど、この町の習慣で挨拶はその国の言葉で交わされる。
「こんばんはー」ごんちゃんは一人一人に日本語で応える。
この町は随分と前から外国人を手厚く迎えてきた。本物の世界各国の料理を安価で提供できることを町づくりの一環として、近隣から注目されるスポットに作り上げ、日本が不況真っ盛りだった時期を乗り越えたのだ。
それに加え、農工商、あらゆる分野で世界に門戸を開いている。
だから中道商店街は広いだけじゃなくどこに行っても元気がいい。
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