中道商店街のパティオ
「行ってきまーす! 」
ランドセルを背負ったももと、幼稚園の制服を着たさくらが、玄関から出て、太陽が燦々と降り注ぐ芝生広場を走って横切っていく。ももはさくらを鬼王神社境内にあるおじいちゃんの神馬権三が経営する『鬼王幼稚園』に送ってから小学校へ行くのが日課だ。
この場所がなぜ中道商店街のパティオと呼ばれているかというと、東側には十階建てのオフィスビル、南側には十階建ての一階が店舗、上層階がマンションになった二つのビルがある。
三つのビルは全て町長である神馬権三の持ち物である。
また、西側には十階建ての町役場、北側には一階二階が倉庫で、三階以上が畳が敷かれた格技場になっている五階建ての備蓄倉庫──ここは災害が起きた場合宿泊場所や休憩所として使われる。
こうしたビルが広場に背を向けるようにして建てられていて、入り口は南側にある二つのビルに挟まれた場所しかない。
その入り口は普段は、コンピュータ制御のシャッターで厳重に管理されているが、災害が起きた時や、お祭りの練習がある時などは解放され、芝生広場で炊き出しをしたり、盆踊りの練習などに使われる。つまり、大きな中庭のような作りになっているので、中道商店街のパティオと呼ばれるようになった。
だが、四方をビルに囲まれてながらも、パティオ内部に燦々と太陽の光が降り注ぐのには訳がある。
四方のビルの屋上には、コンピューター制御で凸面鏡にも凹面鏡にもなる角度が自由自在の反射鏡が取り付けてあるからだ、ある種の武器にもなるこの鏡に上手い事反射させて、太陽光を取り込んでいる。
これらの設備は神馬家が多くの私財を投入し、町の予算とともに、町と協力して造った。
この町の
神馬権三の息子である神馬茂は人の心が読める。茂の娘の長女のももは物や人を一瞬で移動させる能力を授かった。次女のさくらは物を弾け飛ばす。そして、新しく家族の一員となったいちごは、物を宙に浮かばす事ができる。
神馬権三 :通称『ごんちゃん』、町民たちに親しみを込めてこう呼ばれているおじいちゃんは、この頃はもういちごにでろでろだ。気がつくと町のはずれの農地にある本家から、なんやかんやと理由をつけていちごに会いにきている。
「にょほほーいちごちゃーん」
今朝もまた、入り口のシャッターを開けてパティオの中に入ってきた。
そして、ももとさくらが気がついた。
「ごんちゃーん、あはは、今日も来た」
「おーさくら幼稚園かい」
「うん」
「もも、小学校がんばってな」
「はーい」
「この前のお祭りも集中豪雨の時も、二人とも大活躍だったなー、今度ご褒美あげるね」
『やったー』
パン! パン!
すれ違いざま二人とハイタッチすると、洋館へと向かった。
ごんちゃんは町役場に出勤の途中でもある。今日は、背中のリュックに畑で採れた野菜や果物をいっぱい詰め込んで持ってきた。これを届けに来たという名目だ、が、三姉妹になった孫たちが単純に可愛くてしょうがないのだ。宅配便で送ればいいものを、自ら背負ってくるのだから…。
「いちごちゃーん、ごんじいちゃんですよー」
大声を上げて玄関へと入っていった。
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