陽あたりのいいパティオ2~いちごちゃんも人類最強!?~

赤木爽人(あかぎさわと)

第1章 新しい家族

はじめましていちごです


 これは東京郊外にある小さな町の物語。


 その町に住む神馬じんま家に、小学4年生のさくら、幼稚園年長組のもも、それに加え三女いちごが生まれて1ヶ月あまりがたった。

 まだまだ、いちごは、純粋無垢な小さな新生児だ──見た目はだが…


 この頃、神馬家の住む白い洋館から変な声が聞こえてくるようになった。


 町のオフィス街の中心に、四方がビルに囲まれた、サッカーのピッチほどの大きさの広場がある。その形状から中道商店街のパティオと町民に呼ばれている場所の一画に、白い洋館は建てられている。だから、近所には全く聞こえないのだが、その声が聞こえる度に、ももとさくらが大笑いしているのだ。


 朝、エプロンをつけて茂パパが台所で料理をしている。いちごが生まれてから、朝食作りは茂の担当になった。


 ジュジュジュー…フライパンの上で目玉焼きが焼かれている。


「おはよーパパ」

 走ってきて、後ろからむぎゅをするさくら。

「おっ、さくらおはよう、ももは? 」

「もーすぐくるよー」

「じゃあ食卓座って、もうすぐ目玉焼きできるから」

「うん! 」


 幼稚園児のさくらが子ども椅子によじ登り、食卓テーブルにつくと、シュパッ! 小学校四年生のももが隣の椅子に瞬間移動してきた。

 咄嗟に振り返る茂。


「あーまたやってる」

「えへへ、パパおはよう」

「ふう、おはよう。さあパン焼いて」

「はーい」

 ──と、その時。

「イタタ! 」

 リビングから声が聞こえてきた。

「よっ」

「はっ」

「とっ」

 リビングを見るももとさくら。

「きゃーまたやってるー、あはは! 」

 さくらが大笑い。

「すごい、すごーい、キャハ」

 ももがつられて笑う。

「とりゃ」

「いえい」

「はっ」

 声が聞こえる度ににこやかになる二人。

 変な声の主は母親のかえでである。


「もも、さくら、おはよう」


『ままーおはよう』


「今日もいちごちゃん元気すぎて…あたたた」


「まま集中! 集中! 」

 ももは笑いながらそういうと、食パンを二枚、食卓に置かれたオーブントースターにセットする。

「いちごちゃんさすがですね、かわいいですね」

 さくらはにっこにこ。

「うん、すごいわ」

 と、かえではいているいちごを見た。


 いちごの能力の成長は早い。


 かえでは、ゆったりとソファーに座っていちごを横抱っこして授乳を始める。

 しかし、おっぱいがお腹に入ってだんだんエネルギーが満ちてくると…そろりそろりと抱っこしているかえでの腕から抜け、乳首をくわえたままあっちへ浮いたり、こっちへ浮いたり全く予測不能の動きをはじめるのだ。

 まだ首も据わっていないのに…


 ──ぷかぷか、ぷかぷか、たのしそうに自由自在に宙を舞う。


 それに加えて、周りに置かれているオムツやら、がんがらやら、おしりふきやら、へたすると液晶テレビまで、みーんな一緒に浮かべてしまう。


 かえでは浮いてる物を避けたり、いちごがくわえたままの胸がちぎれないように、体制を変えながら、立ったり、座ったり、歩いたり、回ったり、もうたいへん。


「よっ」

「はっ」

「とっ」


 思わず声が出てしまうのだ。


 これはいちごが満足して眠るまで続くのだが、かえでは、妊娠中の運動不足で少々お肉がついた身体のダイエットには丁度いい? そう思って諦めている──これも、神馬家にお嫁にきた宿命かもしれない。だが三時間おきに繰り返されるので、授乳が終わると、すっかりいちごと一緒におねんねタイムに突入するのだ。


 ──とにかく、授乳中はいつも賑やかだ。


「おっぱいだいして動き回って…家族以外にはこんな姿みせられないわ、ふー」


 いちごが落ち着くまで、外での授乳はいろんな意味で危険だ。

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