209 更新
「悪いが、俺も急ぎでね。噂の『召喚師』が先に行ってやがんだろ? いくらあのビックリ女でも、テイムしたドラゴンに核ミサイルを撃墜させるようなバケモン相手じゃ分が
「……ほう。ということは、あなたの目的は神取代表の『始末』ではなく『護衛』ということですか」
言葉尻を捉えて情報を引き出す翡翠ちゃんに、
「ガラでもねえのはわかってるが、今回の俺の目的はたしかに護衛だよ。いくら『分断』が必要と言っても、今はまだ流血沙汰は困るんだそうだ」
「分断……?」
「おっと、こいつは言っちゃいけねーことだったか。忘れろ」
いけね、とつぶやきながら手をぱたぱたと振る
いや、忘れろと言われて忘れる人もいないと思うんだけど。
「よくわかりませんが……それなら、なおのこと引いてください。神取代表と男児会の探索者は既に捕縛しましたので」
「なに? もうやられちまったってのか? なら、なおのことこうしちゃいられねーな。あの女の身柄を押さえさせるなというのが命令でね。クク……こんなところに居合わせたのが運の尽きと思うこったな」
「まさか……
「なぁに、全員塩に変えちまえばいいだけだ。247位ってのは微妙だが、21位なら力を喰うには悪くねえ。むしろ絶好の機会だな。俺が強くなるための餌になれ、21位ィ」
獰猛に歯を剥いて笑う雑喉。
成り行きを見守っていた監察員たちがはっきりと青ざめた。
でも、
「――たしかに、レベルランキング3位と21位じゃ、地力が違いすぎるね」
私は冷静に指摘した。
レベルランキングの上位にいる探索者のほとんどは、レベルアップに有利なスキルの持ち主だと言われてる。
そのようなスキルのことを、俗に「レベルアッパー」と言ったりする。
この雑喉は、レベルアッパーの典型だ。
雑喉の固有スキルは他人を塩柱に変えるという能力のようだが、もちろん、ただそれだけの能力のはずはない。
おそらくは、塩柱に変えた他人からレベルなり能力なりを吸い上げるようなスキルなんだろう。
「あん? 今さら怖気づきやがったか? だが、もう殺すと決めちまったからなァ……。今さら許してくださいってのは聞かねえぜ。俺に喧嘩を売ったことをたんまり後悔しながら――死に晒セェェェッ!」
雑喉が私に向かって突っ込んでくる。
指を鈎状に曲げた手で狙うのは――私の首。
そういえば、と私は思い出す。
悠人が手に入れた「祈りのイヤリング」には、
Item──────────────────
祈りのイヤリング
あらゆる状態異常を完全に防ぐ。
朱野城芹香が窮地に陥った時に、その近くに自動的に転移する。
蔵式悠人専用。不壊。譲渡不可。盗まれることがない。
────────────────────
こんな効果がついてるんだよね。
状態異常を完全に無効化するだけでも聞いたことがないくらい貴重なアクセサリだけど、二番目の効果はさらにぶっ飛んでる。
……ひょっとして。
私がここでちょっと苦戦してみせたりしたら、「窮地に陥った」私を悠人が颯爽と助けに来てくれたり……とか?
そんな呑気なことを思ってしまうが――
逆に言えば。
それほどまでに、雑喉の攻撃がヌルかったのだ。
私は喉へと伸びてくる雑喉の手刀を、ガントレットの指先で軽くそらす。
それだけで、雑喉の上体が大きく崩れた。
「な、何ぃっ!?」
「あのさあ……」
私は、上体の泳いだ雑喉に、
「ぐぶゥっ!?」
あ、きれいに鳩尾に入ったね。
人対人の戦いでは、急所に攻撃が入るとクリティカルが出やすくなることが知られてる。
「そんなにレベランが気になるなら――」
膝蹴りで浮かび上がった雑喉の背中に、私はガントレットの肘を撃ち下ろす。
「ガハぁっ!?」
ダンジョンの床に叩きつけられ、雑喉が跳ねる。
「……
ほどよい高さにバウンドした雑喉に、腰を落として回し蹴り。
「ぐべらッ!?」
雑喉はキリキリ舞いで宙を飛び、ダンジョンの床を転げて止まる。
急所に入った攻撃はクリティカルになりやすいって言ったけど、その話にも続きがある。
急所に連続で攻撃が入ると、特別なスキルを使わなくても「気絶」の状態異常がそこそこの確率で発生する。
私は「スタン攻撃」も持ってるから、急所攻撃連続命中時の「気絶」付与率はかなり高い。
三回に二回くらいは発生するかな。
剣を抜くまでもなくカタがついてしまった。
「……こんなもんかな」
と、なんとなく手をはたきながらつぶやく私。
「流石です、マスター。楽勝でしたね」
翡翠ちゃんがそうヨイショしてくれるけど、翡翠ちゃんだってこうなることはわかってたはずだ。
なぜって、
え? いつそんなやりとりをしてたのかって?
雑喉が私のことを「21位」って言い出したあたりで、アイコンタクトをしてたんだよ。
ついでに言うと、翡翠ちゃんはうなずきの角度で相手の私にとっての脅威度も伝えてくれた。
うなずきがごくわずかだったのは、実力的にまず負ける可能性がないってことだね。
このくらいの以心伝心は、私と翡翠ちゃんなら当然だ。
「し、『塩柱』が瞬殺だと……」
「なんて強さだ……」
「しかも生け捕りだぞ……まさか手加減してたのか?」
居合わせた監察員たちが畏怖の表情でこちらを見ながら囁き合う。
……いわゆる「俺TUEEE」ってやつなんだろうけど、そういうので気持ちよくなる趣味はあんまりないかな。
彼らは監察員だけに、探索者を生け捕りにする難しさは身に沁みてよく知っている。
悠人には「ノックアウト」っていう便利なスキルがあるみたいだけど、あれは入手が難しいし。
私が探索者を殺さずに無力化しようと思ったら、こういうやり方しかないんだよね。
決まり悪くたたずむ私を
「雑喉さん? 聞こえてはいないと思いますが、マスターの名誉のために訂正させていただきますね。『塩柱』こと雑喉迅の
……いやいや、翡翠ちゃん。
気絶してる人に言っても聞いてないから。
でも、翡翠ちゃんの言った通り。
国内レベルランキングは四半期ごとの更新だ。
で、ちょうど今日の午前0時がその更新タイミングだったんだよね。
雑喉は最新版のランキングチェックを怠り、私をはるか格下と侮ってかかってきた。
そうでなければ、さすがにこうもあっさり決着することはなかったはずだ。
実際、今の国内レベルランキング上位はそれ以下に大差をつけてる状態にあって、圏外からいきなり上位に食い込んでくるのは想定しにくい状況ではあったんだけどね。
じゃあ、私はどうやって、この四半期のあいだに21位から2位までレベルランキングを上げたのか?
それにはもちろん、私の固有スキルがからんでる。
今の私のステータスは、
Status──────────────────
朱野城芹香
探索者ギルド「パラディンナイツ」ギルドマスター
国内レベルランキング(日本)2位
レベル15494
HP 823,494/823,494
MP 529,698/529,698
攻撃力 1,609,521
防御力 1,347,922
魔 力 732,422
精神力 493,906
敏 捷 946,134
幸 運 357,702
・固有スキル
聖騎士の誓い2
・取得スキル
【武術】聖剣術5 上級剣術5 剣技5 剣術5 守護剣術4 体術5 捕縛術5
【魔法】上級雷魔法3 雷魔法5 風魔法5 治癒魔法5 支援魔法4
【特殊能力】雷光一閃3 魔法斬り
【戦闘補助】守護の盾5 妖精の盾5 堅守の心得5 必殺の間合い3 剣風5 無刀の心得3 威風 スタン攻撃5 MP回復速度アップ4 高速詠唱4
【能力値強化】HP強化3 MP強化3 防御力強化3 精神力強化3
【探索補助】鑑定 簡易鑑定 索敵4 アイテムボックス5
・装備
聖剣ライトニングピアサー
聖銀のブレストプレート
白銀のガントレット
白銀のグリーブ
マジカルスカート
呪詛返しの指輪
祝福のイヤリング
SP 9135
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