130 贅沢な三択

「さて、転職であったな」


 神様はうなずくと、小さな手の上に三つのおみくじのようなものを生み出した。


「これは?」


「各ジョブの詳細については以前話した通りじゃが、それだけでは解りにくかろうと思ってな」


 どうやら、内容をまとめてくれたらしい。

 俺は有り難くおみくじを受け取った。

 三つともびっちり文字が敷き詰められてるが……神様のせっかくの心遣いだからな。

 ひとつひとつ見ていこう。


 まずは一つ目。



Job──────────────────

ダンジョンマスター ランクC


「私と知恵比べをしようではないか。掛け金はおまえの命だが」


~地底に居を構える究極の世捨て人、あるいは餌をちらつかせ罠にはめることでしか人との関わりを持てぬ人間不信の哀れな隠者~


隠された上級職「ダンジョンマスター」は、ダンジョンを生み出し、管理することに特化した特殊なジョブです。

直接の戦闘能力はほとんどありませんが、リソースの許す限りダンジョンにモンスターや罠を設置することができます。自分の管理しているダンジョン以外のダンジョンの中ではこの技能は著しい制約を受けます。

MPとINTが大きく伸びますが、HPには若干のマイナス補正がかかります。

直接戦闘は可能な限り避け、生み出したモンスターや罠で敵を近づかせずに倒しましょう。


◇アビリティ

◇アビリティ

【ダンジョン管理】

ダンジョンを生み出し、管理することができる。ダンジョンの生成には  が必要。ダンジョンの管理に必要なリソースは、  、MP、マナコイン、アイテム、モンスター等を消費することで得ることができる。

また、枯渇させたダンジョンを自分の管理下に置くことができる。

自分の管理下に置かれたダンジョンについては、あらゆる情報を望むままに得ることができる。


◇サポートアビリティ

【ダンジョントラベル】

踏破済みのダンジョンの任意の地点に転移することができる。転移には距離に応じたマナコインが必要。


◇ユニークボーナス

通常の「ダンジョンマスター」と比べ、

・アイテムボックスの容量が破格に大きい

・ダンジョンのマップ構造、モンスターの位置、財宝の位置、ポータルの位置(隠しポータルを含む)を現在存在するフロアに限って破格の範囲で把握できる

・非戦闘時に限ってダンジョンを脱出することができる

・限定的なテレポートを使用できる

・魔法言語への理解がそれなりに深く、魔法の威力、MP消費効率、属性の増幅幅がそれなりに高い

・魔法の詠唱速度が破格に速く、威力を著しく犠牲にすることで詠唱なしで魔法を発動することができる

・MPの自然回復速度がかなり速い

・撃破したことのあるシークレットモンスターを召喚対象に加えられる

傾向にあります。


◇レベルアップボーナス

「ダンジョンマスター」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。

HP -1, MP +5, INT +5

─────────────────────



 かなりピーキーなジョブだよな。

 現状、【ダンジョン管理】は使いようがないし、戦闘能力も高くない。

 ユニークボーナスも少なめ(当社比)だ。

 レアなジョブだが、ふつうに考えれば就職の優先度は低めだろう。


 次、二つ目。



Job────────────────────

魔王 ランクC


「生きとし生けるすべてのものよ、我が軍門に降るがよい」


~終末の世界が産み落とせし魔の覇王、あるいは冷たき魔城にて永久とこしえに勇ある者の来訪を待つ虚しき物語の憎まれ役~


称号職である「魔王」は、圧倒的な魔力とそれを操る超絶した技術によってあらゆる敵を滅殺するジョブです。

あらゆる属性の魔法とあらゆる魔法関連技術に言語を絶した適性を持ち、世界のすべてを敵に回してもなお戦いうるだけの隔絶した戦闘力を誇ります。


反面、武器を使った接近戦の技能は伸びにくい傾向にあります。

MPとINTが常軌を逸した成長を遂げる一方、STRとLCKの成長には難があり、近接職として戦うのは絶望的です。

圧倒的な火力と障壁系の魔法で敵に接近を許さず封殺することを目指しましょう。


◇アビリティ

【無敵結界β】

物理、魔法を問わずあらゆる攻撃を防ぐ結界を展開する。結界の展開には常軌を逸したMPを消費する。結界の大きさ・形状はそれなりに柔軟に変化させることができる。

未だ不完全な結界であるため、頻繁に意図せぬフリーズが発生する。フリーズした結界はある程度の威力の攻撃を受けると破壊され、使用者の精神に打撃を与える(MNDがそれなりの時間0になる)。


【形態変化】

自分のHPが半分以下になったときに、第二形態に移行することができる。第二形態に移行すると、HPが全快し、全能力値が飛躍的に上昇する。

さらに、第二形態において自分のHPが20%以下になったときに、第三形態に移行することができる。第三形態に移行すると、HPが全快し、全能力値が破局的に上昇するとともに、ジョブ「勇者」以外からの最大HPの5%以下のダメージを無効化する。

いずれの形態の上昇効果も魔法等で解除することはできない。形態変化は戦闘の終了とともに解除される。第二形態は一日に一回、第三形態は三十日に一回しか使うことができない。


◇サポートアビリティ

【眷属統率】

なんらかの形でおのれの支配下、指揮下に置かれたあらゆる対象の能力値をやや上昇させる。このアビリティの対象となったものの五感をごくわずかな時間共有することができる。五感共有後に再び共有するにはそれなりの時間を置く必要がある。対象とのあいだでそれなりの距離を超えての念話ができる。対象を一瞬だけ命令に従わせることができる。


◇ユニークボーナス

通常の「魔王」と比べ、

・火属性の魔法に破格の適性がある

・雷属性の魔法に破格の適性がある

・風属性の魔法に常軌を逸した適性がある

・魔法にもクリティカルヒットが発生する

人形ひとがたの相手に攻撃した場合、まれに即死効果が発生する

・限定的なテレポートを使用できる

・魔法言語への理解がそれなりに深く、魔法の威力、MP消費効率、属性の増幅幅がそれなりに高い

・魔法の詠唱速度が破格に速い

・魔法の威力を著しく犠牲にすることで詠唱なしで魔法を発動することができる

・同時に複数の魔法を詠唱できるが、魔法の威力は著しく落ちる

・MPの自然回復速度がかなり速い

・敵の魔法を吸収し、自分のMPに変えることができるが、変換効率は著しく悪い

・破格の速度でひとりでに傷が回復する

・死亡しても一度だけHPが全快の状態で生き返ることができる

・肉体が滅んでも幽体として生存できるが、生存時間は著しく短い

・本来VITで判定されるべきダメージをごくまれにMNDで軽減することができる

・あらゆる状態異常にそれなりの耐性がある

傾向にあります。


◇レベルアップボーナス

「魔王」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。

MP +5, INT +6, VIT -2, MND +4, LCK -2

────────────────────



 今度はいかついのが来た。

 説明文によれば「称号職」で、もはや上級職ですらないらしい。

 アビリティが二つもあるのも反則だし、魔法特化の強力なレベルアップボーナスも反則だ。


 なお、スキル世界の俺にとっては初見のジョブだが、ジョブ世界の俺は、クローヴィスがこのジョブを持ってたことを知っている。

 スキル世界の俺もジョブ世界の俺もクローヴィスを倒しているからな。

 「魔王を倒したやつが魔王」理論で称号としての職が受け継がれたという可能性もある。

 ただ、クローヴィスの「魔王」とはアビリティもサポートアビリティも違うみたいだな。

 同じジョブでも別物に近い。


 そして、最後となる三つ目は、



Job────────────────────

勇者 ランクC


「悪を憎むすべてのものよ、われに続け!」


~終末の世界に残されし最後の希望、あるいは虚妄の正義に駆られたただの道化~


称号職である「勇者」は、人々の希望を糧に、決してあきらめることなく悪と戦う不屈の英雄です。

卓越した剣技と超常の存在から授かった特殊な魔法であらゆる苦境を切り開く力を持っています。

しかしその真価は、あきらめることを知らない不屈の闘志と、おのが正義を貫く覚悟にこそあるといえるでしょう。


物理攻撃にも魔法にも秀でたジョブですが、器用貧乏になりやすい傾向にあります。

ステータスは全般的にかなり高い成長を見せますが、一つ一つの能力値は一芸特化のジョブには見劣りしがちです。

遠回りに見えますが、支援や回復の魔法を使い、集めた仲間に十全に力を発揮させることもまた勇者の大切な役割の一つと言えるでしょう。


◇アビリティ

【オーバーリミット】

特定のジョブのあらゆる性能を、ごくわずかな時間爆発的に高める。


【/error!アビリティ定義のフォーマットが間違っています】


◇サポートアビリティ

【/error!アビリティが習得されていません】


◇ユニークボーナス

通常の「勇者」と比べ、

・全ステータスに常軌を逸した補正がつく

・火属性の魔法に破格の適性がある

・雷属性の魔法に破格の適性がある

・風属性の魔法に常軌を逸した適性がある

・クリティカルの発生率がかなり高い

・魔法にもクリティカルヒットが発生する

・二刀流を含むあらゆる種類の剣を高度に使いこなすことができる

・あらゆる種類の武器をひととおり使いこなすことができる

・装備を一瞬で切り替えることができる

・自分よりレベルが高い相手やボスモンスター、レッドネーム、自分より体格が大きい相手と戦う際に、与ダメージが飛躍的に増加する

・魔法言語への理解がそれなりに深く、魔法の威力、MP消費効率、属性の増幅幅がそれなりに高い

・魔法の詠唱速度が破格に速く、威力を著しく犠牲にすることで詠唱なしで魔法を発動することができる

・同時に複数の魔法を詠唱できるが、魔法の威力は著しく落ちる

・MPの自然回復速度がかなり速い

・破格の速度でひとりでに傷が回復する

・死亡するダメージを受けても一度だけHP1で生存することができる

・自身に迫るあらゆる危険をそれなりに察知することができる

・戦闘から得られる経験値、/error!/がそれなりに高く、レベルアップ時の能力値の上昇幅がわずかに大きい

・超常的な存在から授かる特殊な系統の魔法をまだ習得していない/error!ジョブ「勇者」の定義を満たしていません

傾向にあります。


◇レベルアップボーナス

「勇者」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。

HP +2, MP +2, STR +2, INT +1, VIT +1, MND +1, DEX +1, AGI +1

────────────────────



 これまた称号職である「勇者」だな。

 説明文を読む限りだと、「本来なら何らかの超常的な存在の加護を受けることで得られるジョブだが、なんらかのアクシデントによって就職可能になってしまった。べ、べつにあんたを勇者と認めたわけじゃないんだからね!」といったニュアンスに見えるよな。

 魔王を倒したからなのか、スキル世界でダンジョン崩壊を食い止めたからなのか。

 勇者のような仕事をしたので、事後的に勇者の称号を得た……といったところだろうか。


 魔法と剣を両立させてるという意味では魔剣士の上位互換のようにも思えるが、魔剣士よりは殴り合いに強い性能だろう。

 強力なジョブだが、アビリティの一つとサポートアビリティがエラーになってるのが痛いよな。


 レベルアップボーナスは、魔王がピーキーなのに対し、勇者はバランス良く強い印象だ。

 魔王、勇者、いずれともレベルアップボーナスの合計は11で、これは一般的な上級職の9を上回る。

 だが、今の俺はレベルを上げるわけにはいかないので、どっちのレベルアップボーナスも宝の持ち腐れにしかならないな。


 それでも、勇者のユニークボーナスは魅力的だ。

 ステータスが底上げされ(おそらくスキル世界の能力値上昇系スキルの変換だ)、武器・魔法いずれにも各種の強力なボーナスがつく。

 「自己再生」が変化したらしき自動回復や、「サバイブ」が元になってるらしいHP1での生存など、打たれ強さを飛躍的に高めるボーナスもある。

 剣と魔法が療法得意ということは、魔剣士の【ロンド・オブ・マジックソード】との相性もいいってことだ。


 さて、俺の現在のジョブは、「簒奪者 S/魔剣士 S/戦士 C/格闘家 C/弓使い C」。


 戦士、格闘家、弓使いは枠埋め用のデコイだ。

 そのいずれか一つを、「ダンジョンマスター」「魔王」「勇者」のどれかと入れ替える。

 いっぺんに三つとも入れ替えることはできない。

 ただでさえ複数ジョブは魂に負荷がかかるらしいからな。

 ランクアップによって簒奪者が魂に馴染んだことで生じた余裕を、三つのうちのどれかで埋めるのだ。

 その次は、選んだジョブをSにして、それによって生じた余裕に、さらに別のジョブをセットする。


 俺の目的は崩壊後奥多摩湖ダンジョンをレベルを上げずに踏破することだ。

 だから、必ずしもすべての上級職をセットする必要はない。

 戦力的に十分なら途中で止める選択もありではある。


 ただ、Sランクダンジョンの中でもとくに危険な崩壊後奥多摩湖ダンジョンを、ソロで攻略しようというのだ。

 最終的にはすべてのジョブをセットして「魔剣士/簒奪者/ダンジョンマスター/魔王/勇者」の形を目指したい。

 スキル世界に戻ったら、もう神様に職を変えてもらうことはできなくなるかもしれないしな。


 だが、とりあえず今考えるべきは、最初の一つをどれにするか? だ。


 その答えは、ここに来るまでに用意してある。


 おみくじから顔を上げた俺に、神様が訊いてくる。


「さあ、どのジョブを選ぶのじゃ?」


 俺は、用意してきた答えを口にした。




「ダンジョンマスターにしてくれ」

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