126 増えるトレホビ
――ゴールデントレジャーホビット・
俺が光が丘公園ダンジョンで出くわしたこいつは、一種のボーナスモンスターなんだろう。
他のモンスターとは桁外れの敏捷と、二桁以上外れた異常な幸運。
固有スキルの「ランダム呼び」で際限なく仲間を呼び寄せながら、「強奪」「盗む」でこちらの所持アイテムをかっさらう。
かなり悪辣なモンスターだが、その分撃破時に得られるSPやマナコインは破格だった。
だが、同じシークレットモンスターでも、ダンジョンボスだった
戦闘力という意味では、堡備人海や源内に劣るというのが正直なところだ。
まあ、源内はUFOとセットで運用しないと布袋以上に戦闘力がないけどな。
じゃあ、なんでそんな微妙なモンスターを召喚したのかといえば、
「布袋! ひたすら仲間を呼んでくれ!」
俺の命令を受け、金色の服を着た大黒様みたいなホビット(といってもけっこうでかい)が、手のひらを上にして両手を何度も振り上げる。
どこからか仲間を呼び寄せるようなしぐさだな。
どこから呼んでるのかは謎なのだが。
ほどなくして、布袋の周囲に数体のトレジャーホビットが現れた。
薄目でステータスを簡易表示すると、「トレジャーホビット レベル9999 ホビットローグ/トレジャートランスポーター」と出る。
二重ジョブなのかよ。
さすがレベル9999だけあって、水上公園ダンジョンのレベル24のトレホビとは放つ鬼気が違ってる。
かつて散々戦いを繰り広げた(注:俺が一方的に狩り尽くした)モンスターが、異なる世界で仲間となってともに戦うという胸熱な展開……かどうかは微妙だが、なかなか頼りになりそうな面立ちになってはいる。
「布袋、もっとだ!」
俺に急かされ、布袋がまた腕を振り上げ仲間を呼ぶ。
現れたのはまたもトレジャーホビットだ。
「他のホビットは呼べないのか?」
と聞いてみるが、布袋は肉付きのいい円福な顔を左右に振った。
布袋が呼べるのはどうもトレホビだけっぽいな。
他の戦闘向きのホビットも呼べたら便利だったんだが。
光が丘公園ダンジョンにはホビットソードマンやホビットシールダー、ホビットメイジなんかもいたのにな。
……こいつ、交友関係狭すぎん?
まあ、こいつだって元ひきこもりに言われたくはないだろうけどな。
「トレホビを呼び続けてくれ!」
俺の指示に、汗をかきながらしんどそうに両手を振り上げ続ける布袋。
そのあいだに、最初に現れた組のトレホビは、自発的にシェイドローパーの分身との戦いを始めてる。
昔狩った個体と比べると、手にした短剣すら切れ味がよさそうに見えるな。
だが、シェイドローパーの分身は、本体のアビリティ【姿なき影】(肉体を実体なき影とすることで、あらゆる攻撃をほぼ確実に無効化する)を受け継いでいる。
攻撃が当たっても十中九は無効化されるから――
「って、あれ?」
たしかに、トレホビの攻撃は何度も無効化されている。
でも、その確率は四分の三、いや、三分の二くらいに見える。
つまり、三回に一回くらいの割合でトレホビの攻撃が当たるのだ。
「そうか、トレホビは敏捷と幸運が高いから……!」
ジョブ世界ではDEXとAGI、LCKだけどな。
DEXは命中に関わり、AGIは回避に関わる。
LCKは主にクリティカル率やドロップ率だが、ジョブ世界にも「幸運回避」の概念はある。
盗賊らしくDEX、AGI、LCKに恵まれたトレホビに対し、シェイドローパーのLCKはかなり低い。
その分が、HPやMP、STR、VIT、MNDなんかに回ってるってことなんだろう。
魔剣士はMP、STR、INT、MND、DEX等、必要な能力値が多いからな。
そのカウンターバランスでLCKが低いと考えれば納得はいく。
その意味では、直接戦闘力を高めた結果低LCKになった俺とシェイドローパーは、似たもの同士といえなくもない。
だが、似たもの同士といっても、俺は人間の探索者で、シェイドローパーはフロアボスだ。
フロアボスやダンジョンボスは、能力値の面で探索者よりはるかに恵まれている。
似たもの同士対決でも、能力値的には俺が完全に劣位になってしまう。
だが、トレジャーホビットはそうではない。
決して強いとは言えないモンスターだが、尖った能力値を持ってるからな。
俺に対しては90%近い確率で発動した【姿なき影】の攻撃無効化が、トレホビたちには6、70%くらいしか発動しない。
6、70%という確率は、程度表現「ほぼ確実に」の下限に近い数字のはずだ。
これ以上下がると「全然確実じゃないじゃねーか!」とつっこみが入るだろうからな。
「……思った以上に相性がよさそうだな」
トレホビたちは、影の触手をAGIとLCKで回避する。
【姿なき影】に攻撃の六割を防がれながらも、着実にダメージを与えていく。
トレホビのSTRは低いが、LCKのおかげでクリティカルは出やすい。
たまに触手にやられるトレホビもいるが、そのあいだにも布袋が追加のトレホビを呼んでいる。
「ランダム呼び」のスキルはMPを消費しないからな。
基本的にはモンスターが使うスキルだからか、どこか雑に設定されてるようだ。
ちなみに、「ランダム呼び」のスキルは、布袋の持つジョブ「盗賊王」の技能に変換されてるみたいだな。
「いいぞ、布袋! このまま数で押し切ってくれ!」
と、俺は完全に後ろに下がって、トレホビたちに戦闘を丸投げする。
だって、俺が攻撃しても当たらないし……。
一応、トレホビや布袋への攻撃を魔法で防ぐことはしてるけどな。
そうこうするうちに、トレホビの一隊がついに分身の一体を撃破した。
「FUU……SHIIIIIII!!!」
苛立ったように鳴くシェイドローパー。
ふはは、打つ手がなかろう――そんなことを思う俺だったが、シェイドローパーはまだあきらめていなかった。
「BLAAAA!!」
それは、シェイドローパーの鳴き声――ではなかった。
放たれた魔力から、俺はそれが「ブラストノヴァ」であることも察知する。
しかも、ほとんど無詠唱での発動だ。
「なっ!?」
慌てて魔剣を構えるが、そこで奇妙なことに気がついた。
シェイドローパーが放った爆光魔法は、俺を標的としていない。
トレホビや布袋を狙ったものでもない。
あまり威力のなさそうな「ブラストノヴァ」が、フロアボス部屋の中央で炸裂する。
爆発としての威力はほとんどない、ただの瞬間的な閃光だ。
軍隊や特殊部隊の使う閃光手榴弾のような使い方だな。
「目潰し……か?」
シェイドローパーの意図をそう読んだ俺だったが、一瞬後にはそれが間違いだったことに気がついた。
「ブラストノヴァ」の光が造り出したシェイドローパーの影が、分身となって起き上がる。
「なるほど、自炊もできるってわけか」
シェイドローパーのユニークボーナスには、「光属性の魔法にそれなりの適性がある」「魔法の威力を限りなく犠牲にすることで詠唱なしで魔法を発動することができる」の二つがあった。
正直、あまり警戒はいらないと思ってた。
「それなりに」は二段階目の表現で、シェイドローパーはINTが低い。
詠唱なしでの発動は厄介だが、「限りなく」(四段階目)威力を犠牲にするなら、ダメージとしては無視できる。
だが、【射影分身】との相性を考えると、なぜこいつがこんなボーナスを持ってるか考えておくべきだったな。
とはいえ、布袋はまだまだトレホビを呼び出してる。
新たに生まれた分身にも、すぐにトレホビの群れが襲いかかる。
キングローパーは全滅してしまったが、アークサハギンはまだ何体か残ってるな。
増えていくトレホビたちが、分身のHPを着実に削っていく。
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