112 俺の青春’
高校のサッカーグラウンドを駆け上がる。
フェイントをかけてDFをすり抜けたところに、
「いけえ、悠人!」
声とともにサイドからボールが山なりに飛んでくる。
そのボールを、
「ここだっ!」
空中でダイレクトにボレーシュート。
反応できないゴールキーパーを尻目にボールがゴールネットに突き刺さる。
「やったぜ!」
「ナイス、悠人!」
サイドから絶妙なセンタリングを飛ばしてきた春原とハイタッチを交わす。
グラウンドの外では体育館のバレーボールをサボって観戦してる女子たちが黄色い歓声を上げていた。
「ずりーよ。ぜってー『力』使ってるだろ」
隣のクラスの男子が苛立ち混じりに吐き捨てる。
「力」っていうのは、探索者としての力ってことだな。
探索者としての力(ジョブの技能や能力値による各種ブースト)は意識的にオンオフすることが可能だ。
だが、オンかオフかを外から識別する方法はない。
このことはスポーツ界でも大問題になっている。
今度のオリンピックは東京開催だからこの国でも激論が交わされてるな。
探索者の名前、レベル、ジョブは、探索者が薄目で見つめると表示されるようになっている。
今の俺なら「蔵式悠人 レベル9999 魔剣士」と出るはずだ。
プライバシーも何もあったもんじゃないシステムだよな。
これを利用すれば、探索者としてのステータスを所持してないアスリートに関しては、ダンジョンドーピングをしてないことが証明できる。
でも、探索者としてのステータスを既に持ってるアスリートだっているからな。
じゃあ、アスリートに探索者になることを禁じればいいのかというとそうもいかない。
オリンピック種目の中には競技だけでは食っていけないマイナー種目がたくさんある。
アスリートがその恵まれた身体能力を生かしてダンジョン探索で食いつなごうと考えるのは、むしろ自然な発想だ。
オリンピック選手になるような才能の持ち主は初期能力値が高く希少なジョブを得る可能性も高い。
ダンジョンドーピングを見破る方法がないからというだけで、アスリートから口に糊する手段を奪ってしまうのはいかがなものかって話になるんだよな。
レアなケースではあるが、ダンジョンフラッドで外に出てきたモンスターをやむにやまれず倒してしまったとかでステータスを得てしまうこともありえるし。
興味本位でダンジョンに足を踏み入れただけでもその時点でステータスが付与されてしまうからな。
この問題はオリンピック委員会でも議論が紛糾してると聞いている。
隣のクラスの男子がからんできたのも、日夜そんな報道がされてるせいでもあるんだろう。
「ざけんな。使ってねえよ」
と、春原が抗議する。
春原は俺のクラスメイトでもあり、パーティメンバーでもあった。
春原を薄目で見つめると、「春原
長身で、くせのある茶髪を長めに伸ばした……言っちゃなんだがちょっとチャラい感じのルックスだ。
茶髪なのは校則違反の染色ではなく地毛らしいが、本人のやや軽薄なノリも手伝って、教師からはことあるごとに「指導」を受けている。
この高校の校則はわりと厳しい。
というか、理不尽なところがある。
なにせ、春原はもちろん、見るからに西洋人然としたほのかちゃんにすら「地毛証明」を求めたくらいだからな。
そのくせ、氷室純恋グループによる紗雪へのいじめには見て見ぬ振りを決め込んだりと、何かと問題のある教師が多い。
弱いやつにはとことん強気に出て「示し」とやらをつけようとする一方、強いやつを前にすると腰が引けて曖昧な態度で日和見を決め込む。
二枚目半といったおちゃらけた言動をわざとやってる感のある春原だが、芯の部分では正義感の強いやつだ。
氷室グループと対立した俺を見て「おっ」と思ってくれたらしい。
冷めたような顔をしてるくせに体育のサッカーでも熱くなる。
もちろん、探索者としての力を使って俺TUEEE!なんてことをやって喜ぶようなやつじゃない。
もちろん、俺だって力は使ってない。
とはいえ、力をオフにしてたとしても、探索者として培った経験や勘まではなくならない。
ましてや俺と春原はパーティメンバーだ。
テレパスであるほのかちゃんの精神感応のおかげで連携力が鍛えられ、以心伝心で動ける仲なんだよな。
たかが体育の授業で俺と春原がツートップになって全力で攻めかかるのは大人げないといえるだろう。
そりゃ、相手としては文句のひとつも言いたくなる。
こいつだって腹立ち紛れに言ってしまっただけで、本気で俺たちが
ま、こんなのいちいち目くじらを立てるようなことじゃない。
「まあまあ。外からはわからないからな」
と、険悪になった二人に割って入る俺。
「でもよ、証拠もなしにそんなことを……」
「ああ、それはそうだ。俺も春原も力なんて使ってねえよ。使ってたらもっととんでもないことになってるからな」
今の俺が能力値を全開にしたら、たぶんサッカーという競技が成り立たない。
俺が中央からボールを蹴れば、それがそのままゴールになる。
高いDEXを活かせばボールの軌道も意のままだ。
同じことは春原にも当てはまる。
だが、現状でも十分力量差があるのは否定できない。
「俺か春原のどっちかがそっちのクラスに入ればいいだろ? 一人トレードしようぜ」
「おい悠人。これはクラス対抗戦だぞ?」
と、春原が見た目に反して固いことを言ってくる。
「ゲームにならなきゃ意味ないだろ。それでいいよな?」
「あ、ああ……」
隣のクラスの男子がうなずいた。
「待てよ、それじゃゴネ得じゃねーか」
「じゃあ、こういうのはどうだ? 負けたほうが勝ったほうに学食のジュースを奢る。他の連中も含めてな」
「お、いいね。ぜってー負けないからな」
「お、おい勝手に決めるなよ!」
盛り上がる俺と春原に隣のクラスが文句を言う。
「最初にいちゃもんつけてきたのはそっちだぜ。俺と春原が分かれれば五分五分だろ。それとも、力がなかったとしてもうちのクラスには勝てないってのか?」
「そ、そんなことは……」
「じゃ、決まりだな」
その後、俺が向こうのクラスに入って試合をやり直した。
まんまと試合に勝った俺は、春原にジュースを奢らせた。
賭けに巻き込まれた他のクラスメイトには裏切り者扱いされたけどな。
†
《不明なスキル???が1つ未取得状態???になりました。 》
《このスキル???についてこれ以上の操作は必要ありません。》
《フォーマットから外れた能力値???が見つかりました。》
《能力値が二重に定義されています。》
《能力値の重複の解消を検討しています...》
「……またかよ」
午前最後の授業中、俺の脳裏に再び「天の声」が響いてきた。
そして、あいもかわらぬ違和感だ。
かわいい彼女にお迎えされて一緒に登校?
体育のサッカーで大活躍?
誰だそれ、ほんとに俺か?
そんな奇妙な違和感が幾度となく浮かぶのだ。
「これでもかってほど充実した高校生活だよな」
スポーツもできて、女子にもモテる。
付き合ってるのはあのほのかちゃんだ。
われながら出来すぎた話だと思わなくもない。
でも、客観的に見ておかしいとまではいえないだろう。
俺は成功した探索者だ。
海外のトップ探索者の中には、金と権力に飽かせてやりたい放題やってる奴だっている。
それに比べれば俺は全然控えめだ。
異性からモテるのだって、俺の本来の魅力ではなく俺の稼ぐ金のおかげだと思えばおかしくはない。
……いや、それはさすがに露悪的すぎるか。
探索者として成功したことが自信になって、女子にも物怖じせずに対応できるようになった、みたいな要素もあるはずだ。
誰もが見て見ぬ振りをしてた氷室グループを排除したのも、見ようによってはプラス材料になってるのかもな。
ほのかちゃんから好意を向けられてるのは、最初にピンチを助けたことと、その後パーティメンバーとして苦楽をともにしたことを思えば自然ですらある。
クラスでリーダーシップを発揮する機会が多いのも、パーティリーダーの経験が生きてるからだ。
仲間の命を背負ってダンジョンを探索することに比べれば、クラスでの決め事やトラブルなんかなんでもない。
全部、筋が通ってる。
それなのに、違和感があるんだよな。
「俺がこんなにリア充なのはおかしいって? どんだけ卑屈なんだよ、俺は」
今日の俺はあきらかにおかしい。
中学まで――いや、高校で探索者になるまでの俺は、たしかにそんなにパッとしない感じだったさ。
だけど、探索者になって以来の経験で人間としてそれなりに成長できたと思ってる。
それは自信を持っていいことであって、卑屈になるようなことではないはずだ。
「やっぱりあのおかしなステータスのせいなのか……?」
俺は小声でつぶやきながら、机の下でスマホを開く。
Status──────────────────
蔵式悠人(国内レベルランキング4位)
魔剣士 S
レベル 9999
HP 89,991/ 89,991
MP 159,982/159,982
STR 89,990
INT 169,981
VIT 79,992
MND 159,982
DEX 89,990
AGI 89,990
LCK 29,997
HP??? 190,591/190,591
MP??? 824,074/824,074
攻撃力??? 472,488
防御力??? 102,377
魔 力??? 1,782,714
精神力??? 397,264
敏 捷??? 2,497,264
幸 運??? 1,106,815
スキル???槍技5槍術5短剣技5短剣術5槍投げ5格闘技5弓技5弓術5体術3格闘術1棍術1打撃武器1暗殺術4忍術4ショートテレポート4毒噴射1エナジードレイン1地割れ1疑似無敵結界1強奪1MP破壊攻撃1魔力暴走シークレットモンスター召喚3英霊召喚1古式詠唱5強撃魔法5魔法連撃2MP節約1属性増幅1二重詠唱1奇襲1先制攻撃1先手必勝1先陣の心得1自爆攻撃5ロックオン3バックスタブ1渾身の一撃1凶暴化1チャージ1自己再生5回避アップ1幽体防御1魔法障壁1セルフダメージ軽減1絶対防御ソリッドバリア魔法相殺パリング1土俵際確率効果無効幽体生存1リバイブサバイブスキルコンボ5切り札化4天誅4思考加速3魔神化1魔人化3虚仮の一念1HP最大時攻撃力アップ1ホットハンド1クイックドロー逆行威圧ノックアウト追い払う分裂1HP強化5MP強化5攻撃力強化5防御力強化5魔力強化5精神力強化5敏捷強化5幸運強化1身体能力強化1能力値成長率アップ1感電耐性3麻痺耐性2石化耐性2睡眠耐性2即死耐性2混乱耐性2沈黙耐性2罠発見5罠解除5アイテムボックス5危険予知隠密5気配探知4索敵3獲得SPアップ3ステルス鑑定簡易鑑定偽装窃視看破再鑑定アーカイブミニマップトレジャーハント1財宝発見隠しポータル発見エバックダンジョントラベル魔法言語ダンジョン生成1
────────────────────
……ますますおかしなことになってんな。
「なんだよ、攻撃力って」
探索者の能力値は、万国共通でHP、MP、STR、INT、VIT、MND、DEX、AGI、LCKと決まってる。
これらは今やイギリスの権威ある百科事典にもそのまま載ってるくらいだ。
STRが攻撃力、INTが魔力のように翻訳されるなんて事例は聞いたことがない。
「だいたい、能力値の項目が一個少ないし」
この世界のDEX、AGIは、それぞれ主に命中率、回避率に関わる能力値だ。
それに対して、俺のバグってるほうの能力値には「敏捷」という項目しかない。
「たしかに、『DEXとAGIってどうちがうの?』っていうのは初心者にありがちな質問ではあるけどな」
HPとMPはどちらにも共通してるようだが、バグのほうには???がついている。
微妙な食い違いがあったりするんだろうか。
そしてもうひとつ、バグってるほうに「ない」ものがある。
「レベルがないんだよな……」
レベルだけはバグがないってことか?
だとするとバグってるほうでもレベルは9999ってことになるんだが、それにしては能力値が全般的に高すぎる。
仮にSTRと「攻撃力」が同じものだとしたら、現在の正しいステータスでは89990なのに対し、バグってるほうでは472488だ。
実に五倍以上の数値になっている。
……いや、「攻撃力」なんかむしろ低いほうだ。
INT169981に対し、「魔力」は1782714。
数字だけ見ると一瞬「同じくらいだな」と思ってしまいそうだが、桁が一つ違ってる。
INT十六万に対し「魔力」は百七十八万で、数値的には11倍を超えている。
まだある。
約九万のDEXとAGIに対し、「敏捷」は約二百五十万。
LCK三万弱に対して「幸運」は百十万もある
それぞれ27倍、33倍以上の数値だな。
もしこのバグってるほうのレベルが9999だとしたら、能力値の伸び率があきらかにおかしいのだ。
「能力値から逆算するなら……ええっと」
そもそもの基本能力値(レベル1のときの能力値)からして違いそうだから、ここはオール10君で考えよう。
レベル1時のあらゆる能力値がすべて10の平均的な架空の探索者だ。
最大値である「敏捷」の二百五十万を10で割ると25万。
最小値である「防御力」の十万を10で割ると1万だ。
「防御力」だけはオール10君のレベル9999に近い値だが、「敏捷」をみればレベル25万相当になってしまう。
レベルランキングの世界1位が最近2万の大台に乗ったと聞く。
レベル25万は世界1位の十二倍以上のレベルだってことだ。
それ自体もありえないことだが、推定レベルが1万から25万まで大きくバラついてることも気になるよな。
この世界のレベルアップシステムで、能力値がここまでばらつくことはない。
「レベルアップ時の能力値上昇の計算方式が違うのか?」
この世界のルールでは、レベルアップ時の能力値上昇は、基本能力値にジョブごとのボーナスがつく形だ。
たとえば魔剣士なら、
MP +2, STR +1, INT +2, MND +2, DEX +1, AGI +1
の合計9となっている。
つまり、オール10君のジョブが魔剣士であれば、レベルが1上がるごとに
・基本能力値に従って能力値9項目がそれぞれ10ずつ
・魔剣士のボーナス補正で各項目に合計9
だけ能力値が上昇する。
項目に分けずに合算すれば、10✕9+9で99だ。
この率でレベルを9999まで上げたとすると……
「……ええい、めんどうだな」
数を切り上げて、1レベル当たり合計100の上昇幅でレベル10000まで上げたとしてしまおう。
その場合でも上昇する能力値は全項目の合計で百万でしかない。
ところが、バグってるほうの能力値には単独の項目で百万の大台に乗ってるものが三つもある。
「レベルアップ時の能力値ボーナスが異様に高いジョブに就いてた……とか?」
……そんなことがありえるのか?
そう思いつつも魔剣士の詳細画面を開いてみる。
Job──────────────────
魔剣士 ランクS
「北極星も南十字星も見たいんだ」
~二つの相反する道を究めんとする飽くなき力の探求者、あるいは身の程を知らぬ愚か者~
「魔剣士」は、剣と魔法のコンビネーションによってあらゆる状況で高い攻撃力を発揮できるジョブです。
剣にさまざまな魔法効果を宿す「魔剣」の遣い手であり、敵の弱点を効率よく突くことで瞬時に致命的な火力を叩き込むことができます。
剣のみ、魔法のみに特化したジョブと比べても、遜色のない剣、魔法の遣い手です。
STRとINTが成長しやすい分、HPとVITの成長に難があり、成長するほどに打たれ弱さが目に付くようになるでしょう。
隔絶した火力を最大限に活かすために戦場を主導して自分に有利な展開を敵に強制する立ち回りが重要となります。
◇アビリティ
【ロンド・オブ・マジックソード】
剣と魔法を交互にチェインすることで全攻撃の威力と魔法の詠唱速度、魔法の消費MPがかなり上昇する。
この効果は累積する。
効果の累積は、以下のいずれかのイベントの発生により消滅する:魔法剣の使用、チェインの失敗、戦闘の終了。
チェイン中に魔法剣を使用した場合、それまでのチェインの回数に応じてその魔法剣の威力が飛躍的に上昇する。
◇サポートアビリティ
【戦略的曖昧性】
メインに設定されていないサブジョブの効果をそれなりに引き出すことができる。このサポートアビリティは「魔剣士」がメインに設定されていないときであっても常に有効。
◇ユニークボーナス
通常の「魔剣士」と比べ、
・二刀流を含むあらゆる種類の剣を高度に使いこなすことができる
・クリティカルの発生率がかなり高く、クリティカル発生時にまれに対象を即死させる
・クリティカルが連続で発生すると、与ダメージがかなり上昇する(この効果は累積する)
・魔法にもクリティカルヒットが発生する
・あらゆる攻撃の命中率が破格に高い
・魔法の詠唱速度が破格に速く、威力を著しく犠牲にすることで詠唱なしで魔法を発動することができる
・MPの自然回復速度がかなり速い
傾向にあります。
◇レベルアップボーナス
「魔剣士」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。
MP +2, STR +1, INT +2, MND +2, DEX +1, AGI +1
─────────────────────
レベルアップボーナスは最後に記載があるとおりだ。
各能力値に、合計で9のボーナスがつく。
これはこれまでに確認されたあらゆる上級職に共通してる。
「剣士」や「魔法使い」のような基本職なら合計で7。
「魔剣士」のような上級職になると合計9。
この法則から外れたジョブはいまのところ見つかってない。
「上級職の上にさらにジョブがあるんじゃないか……なんて噂はあるけどな」
いや、それでも無理か。
もしそんなものが実在したとしても、法則の傾向からすればレベルアップボーナスの合計はおそらく11だろう。
レベル9999でこの能力値になることはありえない。
「……いや待て。俺は何を考えてるんだ?」
ただのバグだとしたら数値に大した意味なんてないだろう。
銀行のシステムのバグで預金口座のデータがおかしくなったやつが、これさいわいと大金を引き出してしまって逮捕された、なんてニュースがあった。
ゲームなんかだと負のオーバーフローで所持金がMAXになったりするバグがあるよな。
このバグらしき能力値?も、なんの意味のない見せかけだけの数なのかもしれない。
それなのに俺は、「この能力値を持った
さっきから「計算自体が違うのか?」などと考えてるが、そもそも
まるで、この世界のシステムとは異なる別のシステムの存在を確信してるみたいな思考じゃないか……
「……このスキルってのもわけがわからないよな」
この世界のシステムでは、探索者に付与されるのは「ジョブ」だ。
ジョブにはそれに包摂された固有の技能が存在する。
それらの技能は有機的な連関を持っていて、特定の技や魔法のみを「スキル」として取り出せるようなものじゃない。
もちろん、技能の一部を「ファイヤーボール」だとか「渾身の一撃」だとかいったふうに呼ぶことはあるが、これは主にパーティ内でのコミュニケーションのための便宜的な呼称にすぎないものだ。
魔法使い系のジョブならば、修練や戦いを通して魔法現象への理解を深め、自分なりに扱いやすい形の魔法を編み出していく。
RPGの呪文のようにとある単語を叫べば効果が自動的に発動するといったお手軽な仕様にはなってない。
「アビリティとも違うみたいだしな……」
ジョブにはアビリティとサポートアビリティが用意されている。
俺の魔剣士なら【スイッチング・アローン】……いや、今はもう【ロンド・オブ・マジックソード】か。
サポートのほうは【戦略的曖昧性】で変わらずだ。
これらの効果は、ゲーム的に想像する「スキル」にやや近いかもしれないが、技や魔法というよりはパッシブな補助効果のイメージだ。
「ああもう、わからん。くそっ、なんなんだよ……」
ステータスがこんな不安定な状態じゃダンジョンに潜るのも不安だよな。
パーティの探索計画を変更しないと……。
たしか、急ぎのクエストはなかったよな……。
「……しき。蔵式!」
「は、はいっ」
教師に名前を呼ばれていたことに気づき、慌ててスマホを隠し、顔を上げる。
が、教師は俺のことを叱るでもなく、心配そうな顔をして、
「……どうした。顔色が悪いぞ」
「そ、そうですか……?」
「保健室で休んだほうがいいんじゃないか?」
「い、いえ……ああ、いえ」
最初の「いえ」はその必要はないという否定で、次の「いえ」はそのまた否定だ。
教師から見てわかるほどに顔色が悪いなら、休んだほうがいいのかもしれない。
実際、頭が混乱してることは事実だ。
よくよく注意してみると、身体の調子も今ひとつのような気がしてきた。
自分の身体がバラバラになったような。
あるいは、自分の感情がいくつにも分裂してしまったような。
自分というものの一貫性というか整合性というか、そういうものがグラついてるような感じがする。
……って、だとしたらめちゃくちゃ調子悪いじゃないか。
探索者なのにこれまで不調に気づかなかったことこそ、不調である何よりの証拠だよな。
「……すみません。気分がすぐれないので保健室に行ってみます」
「わかった。付き添いはいるか?」
「大丈夫です」
俺は荷物をバッグにまとめ、授業中の教室を後にした。
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