86 逃亡阻止戦
俺は「幻獣召喚」で異界の
グオオオオオオオオオオッッッ!!!
クダーヴェは、出だしからフルスロットルのようだった。
いきなり浴びせられた咆哮に、クローヴィスを乗せたグリフォンが硬直する。
そのまま落下しかけたのを、クローヴィスがグリフォンの腹を蹴って立て直させる。
「ば、馬鹿な!? 幻竜だと!? なぜ幻獣界の覇者が人間如きに従っている!?」
咆哮には耐えたようだが、クローヴィスの顔は青ざめていた。
クローヴィスに捕らえられてるはるかさんの顔も青白い。
『ブワハハハ! ようやく俺様の出番が来たか!』
「張り切ってるとこ悪いけど、間違っても殺さないようにしてくれよ」
『はあ? ふざけるな! 俺様にそんな器用な真似ができるものか!』
「威張るなよ。威嚇してグリフォンを逃さないようにしてくれ」
『ちぃっ! しかたあるまい!』
俺様系と見せかけて、クダーヴェの頭の回転は早いと思う。
クローヴィスに「看破」をかけて情勢を察し、不承不承ながら俺の命令に従ってくれる。
「くそっ! 幻竜が出てくるなど想定外だ……!」
クローヴィスはグリフォンを駆って逃げようとする。
が、クローヴィスに命じられるまでもなく、クダーヴェに怯えたグリフォンは、脇目も振らず逃げ出す構え。
そこに、クダーヴェが咆哮を浴びせようと口を開く。
「風の精霊よ、暴風もて我が敵を吹き飛ばせ!」
クローヴィスは精霊に命じて暴風を放つ。
クダーヴェの咆哮を風で封じるつもりだろう。
『ぬるいわァッ!』
クダーヴェの一喝で暴風が散らされる。
だが、咆哮が封じられたのも事実だ。
クダーヴェはその巨躯を翻し、すばやくクローヴィスの前に回り込む。
そのあいだに俺は、「上級雷魔法」の詠唱を終えていた。
「「サンダーストライク!」」
「強撃魔法」「古式詠唱」「魔法クリティカル」「属性増幅」「二重詠唱」「魔法連撃」「ノックアウト」。
声が二重に聞こえたのは気のせいじゃない。
俺の口からは二つの呪文が同時に漏れていた。
「二重詠唱」の効果だな。
魔法を二発連続して放った扱いになるから、片方には「魔法連撃」の効果も乗っている。
俺の放った雷撃が、空中のクローヴィスに直撃した。
はるかさんにも当たってしまうが、そのために「ノックアウト」をつけている。
はるかさんを生かしつつ、かつクローヴィスを殺さずに無力化する方法が、他に思いつかなかったのだ。
「ぐおおおおっ!?」
「きゃああああ!」
くきええええええ!
クローヴィス、はるかさん、グリフォンの悲鳴が響く。
これで倒し切れたかはわからない。
俺はさらに呪文を詠唱し――
「ちぃぃっ! 人間風情がこの俺の邪魔を……! くそっ、こんなところで終われるか!」
クローヴィスは焦りのにじむ声で言うと、虚空からキューブのようなものを取り出した。
「呪わしき世界よ! このモノの魂を対価に、この地にダンジョンを産み落とせ!」
クローヴィスがキューブを宙に放り出し、それに向かって手をかざす。
何をしようとしてるかは直感的にわかった。
「クダーヴェ! それを壊さず回収してくれ!」
『無茶を言う主人だ!』
文句を言いつつも、クダーヴェは翼で突風を起こしてキューブを押し流す。
クダーヴェはすかさず旋回し、吹き飛ばされたキューブを牙の隙間でキャッチする。
が、クダーヴェがキューブを回収したせいで、空には大きな隙ができていた。
「風の精霊よ、我らが翼となりて
必死で逃げるグリフォンを、クローヴィスが精霊魔法で加速する。
「サンダー……くそっ、届かない!」
俺の追撃の魔法は詠唱が間に合わなかった。
あの様子だと、グリフォンもクローヴィスもHP1にはなってない。
「ノックアウト」が働いたなら行動不能状態になってるはずだからな。
最初の「二重詠唱」諸々乗せ「サンダーストライク」では削りきれなかったということだ。
最近は武器スキルを中心に育ててたせいで、魔法スキルの火力はあまり伸びてない。
クローヴィスは「人間物品化」で精神力に+40%もの補正があり、その精神力は59万を超えている。
しかもクローヴィスには、
Skill──────────────────
高慢5
自分よりレベルの低い相手から受けるダメージを(S.Lv×10)%軽減する。
────────────────────
このスキルもあった。
レベル1の俺は、言うまでもなくクローヴィスよりレベルが低い。
俺の与ダメは一律50%もカットされるということだ。
サンダーグリフォンを仕留められなかったのは、魔法の属性のせいでもある。
「サンダー」グリフォンに雷魔法が効きづらいのは当然だ。
「上級火魔法」のほうがダメージの通りはよかっただろう。
じゃあなんでそうしなかったかって?
「上級火魔法」は弾速が遅いんだよな。
動きの速いサンダーグリフォンにこの距離から当てるのは難しい。
「クダーヴェ、追えるか!?」
『むう、残念だが無理だ! サンダーグリフォンは、グリフォンの中でも頭抜けて足が速いのだ! 小回りも利く! 風の精霊までもが必死で力を貸すとなれば、我が翼でも追いつけぬ!』
言いながら、クダーヴェが降りてくる。
「くそっ、追撃は無理か……」
なんだかんだで奴ははるかさんに執着してるみたいだからな。
はるかさんをすぐに殺すことはないだろう。
だが、「人間物品化」でアイテムボックス内に収容された探索者たちは別だ。
スキルの名前通り、あいつは人間のことをただの物としか思ってない。
はるかさんは時間を稼ごうとはしてくれるだろうが……。
境内に降り立ったクダーヴェが、巨大な頭を俺に突き出す。
俺の後ろでほのかちゃんが「ひっ……!」と悲鳴を呑みこむのが聞こえた。
『ほれ、回収したぞ。早く取れ。こんな薄気味の悪いものを、いつまでも口の中に入れていたくはない』
「助かったよ、クダーヴェ」
俺はクダーヴェの牙の隙間からキューブのようなものを抜き取った。
たしかに、それは薄気味悪いものだった。
外観は、一辺が10センチほどのキューブである。
ルービックキューブと同じくらいの大きさだな。
だが、各面にカラフルなパネルの並ぶルービックキューブとは違い、このキューブの各面にあるのは……人間のパーツだ。
ある面には顔が。
べつの面には肩や腕が。
他の面には胸や背が。
まるで、ガラス板に力づくで押し付けられたように、真っ平らになって描かれている。
ピカソの絵みたいに、遠近法や立体感を無視して身体のパーツを面に無理やり押し込んだような感じだ。
しかもそれがリアルタイムに微動している。
「な、なんですか、それ……?」
後ろからほのかちゃんが俺の手元を覗き込んで聞いてくる。
「奴のスキルで物品化された人間だ」
「に、人間なんですか!? ですが、たしかに『感応』にも反応があります……」
「『感応』?」
「あ、はい。修行の最中に、固有スキルに目覚めたんです。肝心の『精霊魔法』はまだダメだったのですが」
「いや、固有スキルに目覚めるって……十分すごいだろ」
「でも、相手の気持ちがわかるとか、親しい人なら遠くにいても気持ちが伝わるとか、それだけのスキルなんです」
「なら、はるかさんの現在地もわかるのか!?」
『悠人よ、慌てるでない。物事は一度には片付かぬ』
「う、そうだな……。まずはこのキューブか。クローヴィスについて何か知ってるかもしれないし」
奴に拠点のようなものがあるなら、物品化された探索者が何かを知ってる可能性はある。
とはいえ、これをどう戻す?
クローヴィスが解除しないと戻らないとかだったらどうしようもないぞ。
「あの……、貸してください」
「ほのかちゃん?」
「なんとなくですが、わかる気がします。スキルによって『物』にされてしまったんですよね。それなら『人』であることを思い出せるようにすればいいと思います」
ほのかちゃんが俺からキューブを受け取った。
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