67 魔法言語と偽装とエルフと
ダンジョンから出ると、外はまだ昼過ぎの時間だった。
天狗峯神社には宿泊施設があって、食堂もある。
俺がそこに向かおうとしてると、途中にある拝殿で誰かが言い争ってる気配がした。
少し近寄ってみると、言い争ってるのははるかさんと見知らぬ若い男だった。
内容に耳を傾けようとしてみるが、何を言ってるのかさっぱりわからない。
と言っても、遠くて聞き取れないわけじゃない。
はるかさんと若い男が使ってるのが、あきらかに日本語ではなかったのだ。
英語か?
いや、俺の英語力でも、単語が一つも聞き取れないのはおかしいだろう。
イントネーションも英語とは違う気がする。
中国語や韓国語といった、日本でも耳にする機会のある他の言語でもなさそうだ。
でも、どこか聞き覚えのある響きだな……?
《特殊条件の達成を確認。スキル「魔法言語」を手に入れました。》
Congratulations !!! ────────────
特殊条件達成:「スキル『古式詠唱』を1000回以上使用した上で、魔法言語による会話を耳にする。」
報酬:スキル「魔法言語」
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Skill──────────────────
魔法言語
あらゆる言語の始祖であり行き着く先でもある魔法言語を使用することができる。
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《スキル「魔法言語」の取得により、「古式詠唱」のスキルレベルが5になりました。》
おい待て。それはちょっと聞き捨てならない。
だが今は、「天の声」の消化より目の前のことだ。
「――お引き取りください」
はるかさんの声がはっきりと聞こえた。
あいかわらず未知の言語だが、今度は内容が理解できる。
……そうか。聞き覚えがあったのは「古式詠唱」で口に馴染んでいたからか。
意味もわからず頭に浮かぶ呪文をそのまま口にしてただけなんだが、あれが魔法言語とやらだったんだろう。
その魔法言語を、エルフであるはるかさんがしゃべってる。
いつもおっとり、たまにセクシーなはるかさんらしからぬ険しい声だ。
その険しい声音も気になるが、もっと気になるのははるかさんが話してる相手だよな。
その相手もあきらかに魔法言語を話してる。
俺は「隠密」「ステルス」で気配を消して慎重に近づき、物陰から声のほうを覗き込む。
「勝手を申されては困ります、姫よ」
はるかさんに詰め寄ってるのは、西洋人ふうの若い男だった。
西洋人としても背が高いほうだろう。
見た目はまちがいなくイケメンだ。
でも、いかにも傲慢そうな顔つきを見て、お近づきになりたいと思う女性は少ないんじゃないか?
「勝手なのはどちらですか。私はエルフからは縁を切られた身。今さら都合よく私を担げるとは思わないでください」
次のはるかさんの言葉で警戒度を上げる。
はるかさんが「エルフ」という言葉を出し、男はさっきはるかさんを「姫」と呼んでいた。
冷たく突き放されても、男はなおも食い下がる。
「元の世界に帰りたいとは思わないのですか!?」
「思いません。もうあの人もいませんし」
「もう死んだ人間の男に殉じてエルフの姫としての務めを投げ出すと?」
「そもそも、元の世界はもはや無事ではないでしょう。崩壊したダンジョンに呑みこまれ、もう人の住める世界ではなくなっているはずです」
「それでも、この世界よりはずっとマシだ!」
「それはあなたの意見です」
「違う! ここは、穢らわしい人間どもしか棲まぬ、頽廃の極致のような世界ではないか! まともなエルフならばこのような世界に平気でいられるはずがない!」
「この世界にも、すばらしい人もいれば、そうでない人もいます。あちらの世界と同じです」
「この世界には人間しかおらぬ!」
「人間にもエルフにも、善き者もいれば悪しき者もいます。世界の問題でも、種族の問題でもありません」
冷静にはねつけるはるかさんに対し、男は顔を怒りに染めて喚き散らす。
会話からすると、この男もはるかさんと同じくエルフだってことになりそうだ。
だが、男の容姿は西洋人としてなんの違和感もないものだ。
「……はるかさんは『精霊魔法』で見た目を誤魔化してるんだったな」
だとすれば、この男もまた同じ方法でエルフとしての特徴を隠してるのだろう。
俺は「窃視」を乗せた「鑑定」を男に向ける。
Status──────────────────
クローヴィス・エルトランド
ハイヒューマン
レベル 4700
HP 47000/47000
MP 116900/116900
攻撃力 43350
防御力 47320
魔 力 125130
精神力 62500
敏 捷 56150
幸 運 37600
・取得スキル
風魔法4 水魔法4 魔獣召喚3 弓術3 火魔法2 古式詠唱2 隠密2 索敵2 地魔法1 鑑定
・装備
古木の杖(魔力+7230)
風のマント(防御力+4200、敏捷+4400)
ライトブーツ(防御力+820、敏捷+1700)
理力の指輪(精神力+3100)
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「ふぅん……?」
たしかにレベルは高い。
スキルも能力値も水準以上だろう。
少なくとも凍崎純恋よりは格上だ。
だが、解せない部分がひとつあるな。
「ハイヒューマンってなんだ? エルフじゃないのか?」
はるかさんを責め詰る様子から考えて、こいつがエルフじゃないというのは腑に落ちない。
それともハイヒューマンはエルフの別称ってことか?
いや、それだったらはるかさんが自分はエルフだと名乗った意味がわからない。
「いや、待て。もう一つおかしなことがある」
こいつはエルフとしての外見を「精霊魔法」で誤魔化してるはずだ。
魔法の扱いに慣れたせいか、俺も最近ははるかさんを取り巻く精霊の気配がうっすら感じ取れるようになってきた。
このクローヴィスという男の周囲にも同じ気配が感じ取れる。
にもかかわらず、クローヴィスのスキル欄には「精霊魔法」のスキルがない。
「……そうか! 『偽装』か!」
俺も、普段から「偽装」で偽のステータスをでっち上げ、不意に「鑑定」を受けても本来のステータスがわからないようにしてる。
さっきはクダーヴェに「看破」されてしまったけどな。
「ええい、話にならぬ! とにかく、一緒に来てもらおう、ハルカフィア姫!」
「やめてください!」
はるかさんの腕を強引につかみ、引っ張ろうとするクローヴィス。
「そのくらいにしておけ」
俺は気配を消したままクローヴィスの間近に現れると、クローヴィスの腕をひねり上げる。
「体術3」があればこのくらいのことは簡単だ。
「なっ、邪魔をするなっ!」
腕を決められたまま、クローヴィスが俺に風魔法を使ってくる。
だが、俺を吹き飛ばすはずだった烈風は、俺の眼前で跡形もなく消え失せた。
「な、なんだと!?」
愕然とするクローヴィスの背に回り、足をかけて地面に這わせ、腕を押さえて動けなくする。
今こいつの魔法が消えたのは、
Skill─────────────────
魔法相殺1
自身に向けられた魔法をその魔法の消費MPの(200-S.Lv×15)%のMPを消費することで相殺する
────────────────────
これを発動したからだな。
「悠人さん!」
いきなり現れた俺に、はるかさんが声を上げた。
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