2.風呂問題


カッポーン―…



綺麗な東京の景色の見えるお風呂。

だがしかし、その室内には日本庭園が作られていた。

小石と大石、紅葉の枝で作られた、枯山水。

まさしく日本の「わび・さび」である。



竹が、流れる水の重さによって下に動く。

すると「カポーン…」と、なんとも風情のある音が室内に響き渡る。



そんなお風呂に依里は一人、浸かっていた。




あの後、…つまり記憶喪失で目を覚ました後、夏也と風蓮と少し話をした。


私はどうやら記憶を無くす前と性格がかなり変わっているらしく、夏也は大爆笑、風蓮は大変心配してくれていた。



「えっと…とりあえず考えても仕方ないし、お風呂にでも入っておいでよ。」



「本当に俺のチョップで記憶をなくしたんだな!」と、うひゃうひゃ笑う夏也を横目に、風蓮は優しくそう言ってくれた。



お陰で、20人くらいは入れるのではなかろうかという浴槽に、足を伸ばしてゆるりと浸かっている。

極楽極楽とはこのことか。



「ふぅ…」



ところででここはいったい何階なのだろう。

外から誰かに全裸を見られるという心配が浮かんでこないほど、街並みが小さく見える。



―全裸といえば。



依里は浴槽からあがり、ガラスに反射する自分の姿をまじまじと見た。



これがわたし…。



すらっと長い手足に、これは…Bカップくらいだろうか。まぁ程よく出た胸。

その胸元ほどまでに伸びたダークブラウンの髪の毛は、きちんと手入れがなされていたようでサラサラだ。



顔は小顔で、大きな目に長いまつ毛。整った鼻と口。結構イケてる顔をしている。



そう言えばさっき、風蓮に「暗殺コード」についてテストされた。



「1564」とか「8397」とか、ランダムに並べられた4桁の数字を目の前に1000通り程並べられ、1つずつ作戦名を言える?と笑顔で聞かれたのだ。



意味がわからない。鬼かよ。そう思ったのもつかの間、頭には作戦名が浮かび上がってきたのだ。



3674-銃弾一撃、6794-短刀急所、7143-2名による背後からの暗殺…



確かその中に「3067-お色気作戦」というのがあった気がする。



あれは、私のお色気を使っていたのだろうか…。否、それは自惚れすぎか…。

そもそも自分がお色気作戦を実行するだなんて、想像ができない。



あとは「9973-チョップ殺し」ってのもあった。私、昨日よく死ななかったな。おい。



軽く溜息をつき、とりあえず髪の毛を洗おうと、シャンプーに手を伸ばしかけて固まった。



…どれだ。

私のシャンプーはどれだ。



黒い容器が10個。

2個ずつ赤、青、緑、黄色、ピンクの色が貼られており、それぞれに「shampoo」、「treatment」と書かれている。



夏也と風蓮と私。

3人しかいないのに5色?



いや、もしかしたら他にあと2人いて5人で5色…?




―ガチャッ




「あーー疲れたなぁー」



その声に、体が固まった。



「あ、依里〜!お疲れ!記憶失くしたんだって?」


後ろからギュッと抱きつかれる。


えっ?


肌と肌が密着する感触。


間違いなく裸&裸。


オマケに背中の辺りには、女の子にはない立派なものを感じる。


「ッ!!」


ギャァともキャァともウォォとも聞き取れない変な声で私は叫び、その場にしゃがみ込んだ。


なななななに、だれ、裸で抱きついてくるってどゆこと、え、そもそもここは男湯?なに?え?え?


「依里」

「えっ?」


別の声音で名前を呼ばれ、混乱した頭ながらも反射的に声のする方へ顔を向けると、そこには背の高いヒョロっとした男性が気絶した男性を肩に担いで立っていた。



え、もう1人男?え、もう1人はなんで気絶?え、誰?えっ、いや、そんな事よりも




「なな、なんで裸なんですか!」

「風呂だから?」

「ここここは男湯ですか!?だったら私でていきますけど!」

「落ち着いて、依里」

「おおおお落ち着けない!」

「はぁ…記憶をなくして性格が変わっても、興奮すると手が出る癖は変わらないんだね」

「…え?」



ふと気がつくと、ヒョロっと男子の右肩に気絶男子、左手には私の右腕が掴まれていた。



なんと、私は全裸でヒョロっと男子に殴りかかっていたのだ。しかも無意識に。我を忘れて。



「ありえないありえない…」

「1回落ち着いて」



ヒョロっと男子をガン無視し、私はヘナヘナとその場に座り込み、しくしくと泣いた。



全裸で、こんな事って、、、

私はこんなにもはしたない女だったのか。

親が見たら泣く。絶対泣く。

そもそも親どこよ…



記憶失くした直後にこんな全裸で戦闘態勢だなんて…



「うぅ…悲しい…」

「依里?…な、泣いてるの…?」

「だって…女子として終わりよ…」

「女子…」



なんだそれは。



そんな顔でヒョロっと男子をはこちらを見てくる。



マジか。女子として見られてなかったのか。



「…ってぇー……依里ィ…痛えよ…」

「那月(ナツキ)」

「…あぁ、おい降ろせ佐捺(サナツ)!お前に担がれるのが一番最悪なんだよ!」



目を覚ました気絶男子―那月と言うらしい。

起きるなりヒョロっと男子―佐捺の肩の上でじたばたと暴れた。



「あぁ、…なぁ、那月」

「なんだよ」



佐捺と那月。

佐捺はヒョロリと身長190cm程。

一方佐捺の肩から降ろされた那月は160cm…くらい?

私と同じくらいしか身長は無さそうだが、誰よりも偉そうに仁王立ちしている。



「女子…ってなんだっけ。性別が女性という事だよね。」

「あ?女子ってのはな、可愛くてもちっとしててな、そんで弱ぇ」

「依里は?」

「依里は男に決まってんだろ。見たかよさっきの全裸蹴りを――「喧嘩売ってんのか」



こうしてまた全裸バトルが繰り広げられ、風蓮が慌てて止めに来るまであと30秒ほど。






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