第5話 屋上

 屋上の隅で、俺は震えていた。

 もうすぐここへ、あの熊は上がって来るだろう。友人4人を殺して、最後の獲物をしとめようとして。

 友人達の姿を思い出す。

 申し訳ないと思うが、俺が殺したわけでも、生贄にと差し出したわけでもない。俺は、死にたくない。

 どうにか、警察が到着するまで持ちこたえていれば、何とかなるんじゃないか。

 いや、そんなに甘くはないか。

 俺のあしあとしか付いていない屋上で、俺はやつが来ないようにと祈りながら、そうはいかない事もわかっていた。

 階段が塞がっている。熊にも下りられないだろう。

 まだ俺の分だけのあしあとしか付いていない屋上に、ベタベタとあしあとがついて行く幻影が見える。

 頭を振って、撮影のために準備していた三脚を握りしめる。

 と、熊がのっそりと屋上へ姿を現した。

 悠然とした歩き方で、熊は後ずさる俺に近付いて来た。

「なんだよ……なんで……」

 答えるわけなどないが、口が動いてしまう。

 下がっても逃げ場などないのに、追い詰められるだけなのに、それでも後ずさってしまう。

「く、来るなよ……来るな……!」

 点々と付くあしあとは、熊1頭と人間1人分のはずなのに、人間のあしあとが、5人分ついているように見えて来る。

「嫌だ……!来ないでくれ!」

 熊に言っているのか、それともほかの誰かに言っているのか。自分でもわからない。

「ガアア!!」

 熊が吠え、両手をあげて襲い掛かって来た。

 三脚で殴りかかろうとするが、なんの抵抗にもならないですっ飛んで行く。

 あしあとが入り乱れ、その場が真っ赤になって行く。

 背中が屋上の手すりにぶつかった時、熊が腕を振り下ろして来た。

 なぜか、鋭い爪も、その周囲の毛も血で汚れているのがはっきりと見える。

 痛み。衝撃。大きな叫び声。

 俺は意識を失った。


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