第4話 追いかけ合い

 熊は、倒した獲物を放っておいて、生きている俺達を襲う事にしたようだ。

 ドアに体当たりしているらしく、大きな音がして、ドアがたわむ。

 俺は即、隣の部屋に逃げ込んだ。その背後で、ドアが破られたメリメリという音がした。

 俺は隣の部屋へ逃げ込むと、カーテンウォールに手をかけた。これがドアより強いだなんて幼稚園児でも思わないだろうが、それでも、目隠しの意味だけでも、良かった。

 いや、冷静さを失った俺の行動に、論理的な意味を見出そうというのが間違っている。

 ただ、閉めたかっただけだ。

 もう1人残っていた友人がこちら側に飛び込んできて、すぐにカーテンウォールをピシャリと閉める。

 そこに熊が激突してきて、カーテンウォールは大きく揺れた。

 友人はそれを見て腰を抜かしていたようだが、俺は踵を返すと、

「走れ!」

とだけ言って、部屋を飛び出した。そして、向かい側の部屋に飛び込む。

 熊が後から追って来るのはわかっている。どこへ逃げればいい?

 階段が使えないのに。

 じっと考えている時間はない。考えながらも、急かされるがまま走り、廊下へと出る。

 廊下に飛び出した熊が、向かい側にあるこちらの部屋に飛び込んで行くのが、視界の隅に見えた。

 飛び込んだそこには、3人目の犠牲者となった友人が倒れている。そして、赤黒い足跡が、そこらじゅうにベタベタと付いていた。

 それを追うように、走る。そして熊が、それを追いかけてくる。

 ぐるぐるぐるぐると、鬼ごっこだ。命がけの。

 そして、赤黒い足跡が、ぐるぐると走るほどに増えていく。熊のものと、人間のものとの。

 ゼイゼイはあはあと息が上がって行くが、休めない。とんだ鬼コーチもいたもんだ。

 そのうちとうとう友人が、血で足を滑らせて転んだ。

「あっ!?」

「嫌だ!助けて!」

 次第に距離を詰めて来ていた熊が向こうに見える。

 俺は無言で身を翻し、部屋を飛び出した。



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