第9話 神居時茂



 芽衣たちと合流して、俺たちはついに【FUTER】になるための最後の試験に挑もうとしていた。


 周りには、俺らと同じように、モンスターを羽化させた同士達がいた。その中にあの意地汚い豪寺康夫の姿もいる。


「なーんだお前ら」

「そんなちっぽけなモンスターで本当に戦えるのか?」

「まっ、チンケな奴にはチンケなモンスターしか生まれないとやらか」


 後ろにいる豪寺康夫に似た風貌の3人も、同じようにクスクスと笑っていた。


「あの人たち許せません!」

 バスティーが今にも、豪寺康夫達に向かって何かをしでかそうとしていたのを俺は止める。


「まあ、気持ちはわかるけど」

「あんなやつほっといて大丈夫だよ」

「もう慣れたしな」

 俺は必死にバスティーをなだめるが


「それでも許せませんよ!私の蓮様と、蓮様の大切な仲間を侮辱しているんですよ?!」


 すると黒乃さんが横から割って入ってきた。

「喧嘩は他所でするんだな」

「それにお前もただ見てないでこいつらの喧嘩を止めろ」

 黒乃さんが話しかけているのは、豪寺康夫の班の局員みたいだ。


「ふはは」

「そんな俺たちの班にやきもちを妬くなよ黒乃〜」

「別に本当の事を言ったまでじゃないのか?ええ?」

 黒乃さんに舐めた様な態度をとるその局員は、どうやら、黒乃さんとは顔見知りの様だ。


「ちょっと!さっきから言いたい放題言ってるけど!」

「黒乃っちも、私たちもすんご〜〜く強いんだからね!」

「あまり舐めないでちょうだい!」


流石に我慢の限界だったのか、芽衣が怒鳴り声を上げた。


「ふっ、相変わらずうるさいやつだなお前は」

「まあいい」「精々死なんようにすることだな」


 そう言うとその場を後にする豪寺康夫達。


「うぅう〜なんだかしずくもすんごい腹立たしいですぅ!」

「流石の俺も少しカチンとくるところだったよ」


 雫ちゃんも小次郎も相当腹が立っていたらしい。

もちろん俺も腹が立つが、ここで変な問題を起こしたくなった。

 それを皆わかっていたのだろう。


「バスティーはそれでも許せません!」

 その瞬間、豪寺康夫達が何やら焦った表情を浮かべ、周りをキョロキョロとし始めた。


「お、おい何をしたんだ?」


「テレパシーであの方達に向かって大きい声を出したんです!ふんっ!」


「はっはっはっ!」

「バスティーちゃんそれはいいね!」

「あいつらの困り顔なんて久々に見たよ」

 小次郎が珍しく腹を抱えて笑っている


それを見た俺らも、小次郎に釣られてみんなで笑い合った。


先程までの緊張と、イライラが無くなり

 みんなここに初めて訪れた時よりもずっといい顔をしている。


「ありがとなバスティー」

「俺らのためにあんなに必死に怒ってくれて」

「まだ出逢ったばっかだけどさ」

「お前がパートナーで俺本当によかったわ」


 急な事に顔を真っ赤にして

「い、いえ///ば、バスティーは、な…何も///」


「お、お前は照れるなよ!それは反則!」

 初めて見せた照れ顔に、何故だか俺も顔を真っ赤にしてしまう。


「終わったか?」


後ろから急に黒乃さんが話しかける。


「緊張が解けるのはいい事だが、あまり油断はするな」

「これが実践で最終試験だと言うことを忘れぬ様に」


「はい!すいません!」



「ではこれより最終試験を始めたいと思います!」

 「みなさんはこれからそれぞれ別の未来に行っていただき」

「人々を脅かすモンスター達と戦っていただきます」

「それぞれの局員からもありました通りーーーー」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ですからしてみなさんどうか油断せずに試験合格に向けて頑張ってください」


司会者の様な男が、長々とした説明をし終える。



「それでは最後に、この【FUTER】を作り上げ」

「私たちの世界を平和に導いた英雄」

「神居 時茂様よりお話があります」


「本物だ………。」

俺はこの人を知っている。

 いや。

知らない人はいないんじゃないだろうか。


 モンスターパニックから人々を救った英雄。


「みなさん。どうも初めまして」

「わたくし、かむい ときしげと申します」


 爽やかな風貌で、とても優しそうな雰囲気を感じる。


「先程も彼からありました通り」

 「あなた達は選ばれしもの」

「どうか、どうか命だけは無駄にしないでください」


「短いですが、私からは以上です。」


「パチパチパチ」


周りから拍手がおこる。


「な、なんだかすごい自然の中にいる様な不思議な人だったな」


「生で見たのは初めてね」


「でも、なんだか初めての様に思えないんだよなー」

俺だけが、なんだか神居 時茂を

 懐かしい様に感じてしまった。


「蓮様…なんだか私もそんな気がするんです」


「ああ…バスティーもか?不思議なオーラを放ってるんだろうなきっと」


不思議に思いながらも、俺はあまり気にもとめていなかった。


「それではこれより皆様に未来に飛んでもらうためにこの装置の上にお登りください」


司会者の様な男の指示に従い

 俺はegg summonが大きくなった様な、装置の上に乗る


「それでは最終試験!スタートです!!!」


「お前ら、何があっても絶対に油断だけはするなよ」


     「「「「はい!!!」」」」


4人揃って返事をした瞬間

 目の前の風景がどんどんねじ曲がっていく。


最終的に目の前が真っ白になったかと思いきや、

 またもやねじ曲がった風景が広がる。


段々と元の世界と似た風景が浮かび上がる。


「ここは………。」

なんだか見覚えのある風景に、全員が固まる。


 そして周りを見渡すと、豪寺康夫や、他の班の奴らまでいた。


「ん?どう言うことだ?」


1人は、懐かしさに目を光らせ

1人は、驚きに目を丸くさせ

1人は、何が起きているのか分からず、ただぼーっとしてるやつ。


 それもそのはずだ。

何故なら俺らは今、過去に来ている。


それもあの、モンスターパニックが起きたすぐ近くの小さい山だ。


それに班別で、それぞれ違う未来に行く予定だったにもかかわらず

 あそこにいた全員がここに集まっていた。


よく見ると、先程の司会者の人や、

 関係のない局員の姿まであった。


黒乃さんが慌てて本社ビルと通信をしようとする。


「おい!応答しろ!これはどう言うことだ!」

しかし反応がないのかもう1度


「応答しろ!こちら黒乃 纏!これはなんだ!」

またしても反応がない。

 しかし


「ガガガ……黒……乃くん…ガガピーーーーー」


「説明……は………過去の……ガガガ………私が……」


「時茂さん!?いったいどう言うことですか!」


「ピーーーーーーーーーーーーーーー」


そこで通信が終わる。


「何か嫌な予感がいたします…蓮様」


「俺もちょうど同じことを言おうと思ってた…」


すると。

 山の奥から人影が見える。


出てきたのはさっき話をしていた神居時茂だ。


しかし先程話をしていた神居時茂よりも、少し若く感じる。

すると時茂が、口を開く。


「時が…来たんだな…」

「世界を平和に導くための……私の…………罰が‼︎‼︎」


その瞬間1人の局員の姿があられもない姿に変わっていく。

 それはまるで巨大なモンスターに………。


「な、なによこれ……こんなの聞いてないわよ!!」

1人の女性局員が、パートナーの狛犬の様なモンスターに乗って逃げ出そうとしている。

 しかし、その瞬間


「な、コマ!どうしたのコマ‼︎」

どうやらパートナーの名前を呼んでいるようだが、反応が一切ない。


狛犬のようなモンスターに乗っていた彼女は、みるみるうちに、そのモンスターと融合をし始めた。


 そして完全に一体化となったそのモンスターは

俺たちに襲いかかってくる。


「逃げろ‼︎‼︎」


咄嗟に黒乃さんが俺たちを庇ってくれた。


「何も考えず!今は逃げることだけに集中するんだ!」

「ここは俺が食い止める!」


「う、うわぁぉああ!」「きゃぁぁああ!」


一斉にその場にいた人たちが山を降りようと必死に逃げ出す!


「私たちも逃げるわよ!」


「確かにその方が良さそうだ!雫ちゃん俺に捕まって!」


「で、でも黒乃さんが……」

俺は黒乃さんを置いていくのが嫌だった。


「黒乃さんならきっとどうにかしてくれる!考えるのは後だ!蓮!」


俺たちが逃げ出すのを確認すると

 サタンのオーラが急激に膨れ上がり

大人の姿となったサタンが黒乃さんに憑依する。


「さて、時茂さん、あんたには山ほど聞きたいことがあるが」

「納得させてくれるんでしょうかね……」


       「ハァァアア!!」



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