第5話 人類の叡智

 人類は行き着くところまで、発展した。それはあらゆる可能性の閉ざされた世界。人類は衰退と発展を繰り返しそして頂点にたどり着いた。

 何百種もの動植物が絶滅と発生を続けた。そして人間は宇宙の原理に打ち勝った。空中映像写映機は当然のように発明された。絶対に壊れない完全物質の開発、土に帰る新しい高分子化合物。いつまでも大気を汚さないクリーンなエネルギー、何も汚染しない工場、膨大な消費を賄う生産率の達成、飢餓、病気、事故、その他諸々の全てを包括的に対処、予防する科学技術に医療技術の完成、それが人類の行き着いた姿だった。

 

 しかし、その世界が絶対的に幸せであるといえたであろうか、否、それはありえない。何かを打破すること、その闘争心は発展と共に消えた。残ったものは空虚感の中に浮かぶ虚無だけなのだ。

 昔の人間は手挽きでコーヒーをいれて、それを楽しんだ。発展した世界にはそれはない。機械のボタンに軽く触れる、ぴぴっと電子音がして最高のコーヒーが誕生する。

 食料すら、科学技術によって完全制御下で創られる。機械が土を耕す。人口培養の有機肥料による超効率化栽培によって得られる完璧な食材。

 そういったすべての技術革新が人々の士気を衰退させた。

 誰もが家の中だけで一生を問題なく終われる世界、向上心の死滅、人間はそれにすら気がつかなかった。誰もがそれがあるべき姿だと考えた。その証拠に戦争も虐めも賄賂もない、クリーンな世界、クリーンすぎる世界。まるで磨かれたガラス球。完全な物質であるかのようだった。


 しかし、あるとき一人の人間が立ち上がった。

「これは違う。わたし達の望んだ世界はこうあるべきものではない!」

 その人間は今まであった完全な棲家を捨てた。その代わりに街から出て、土の地面に木で作った家を作った。野山に罠を仕掛けた。動物を取って暮らした。そのうちにそのような人間が増えた。余りあるリスクを人間としての喜び上回った。彼らはその輪を広げた。それは次第に集落となった。多くの人間が住処を捨ててそのように暮らし始めた。完全な社会は依存者を失いコントロールを失った。

 遂には国が消滅を始めた。もともと惑星にクリーンな素材で構成された国はすぐに土に帰った。土からいつしか木が生えた。人間以外の動物が増えた。

 数億年しないうちに惑星は原始の時代に戻った。誰もが過去のことを忘れた。そしてまた発展を始めた。


…………………………

……………………

………………

…………

………

……

っていう内容のことが書いてあったんですけどー」

「マジで?」


 科学者の一人が髑髏を象った水晶の塊を掲げていった。壊れない完全物質でそれはできていた、過去の発展を極めた最高科学の結晶。


 人はそれをオーパーツと呼んだ。

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