第3話 不思議な力
僕が子供の頃の話をしよう。
僕は何かと夢見がちな子供だった。たとえば蝋燭の火を口も手も体は何一つ動かさずに消せるを思っていた。物だってそのように何一つ触れることなく動かせるように思っていた。
そして、それは確かにそうだったのだ。
僕は超能力というものが使えたのだ。嘘じゃない、本当だ。その話をこれからしようと思う。
これは二度目になるが、僕はとてつもなく夢見がちな子供だったのだ。それも極端なほどに。簡単に説明するなら、たとえば人間は空を飛べると思っていた。それから火を噴いたり、掌からなにやら怪しげな光線が出たりもすると思っていた。
それだけじゃない、宇宙人は地球に来ていると本気で考えた。近所にすむ、変に顔の白いおばちゃんは宇宙人だと思っていた。彼女は地球人に擬態してこの星の調査をしているのだと、そう考えた。しかし後に僕はそのおばちゃんが単に化粧の濃いだけのおばちゃんだけだったことを知った。
まあ、そんな夢見がちだったお陰なのかどうなのかわからないが、僕は超能力というようなものを使うことができた。想像や妄想の類でもない。
といってもそれは昔の話なのだ、そう、あれは確か幼稚園くらいのことで、僕がまだ夢を見ていても何も言われないころのことだった。あの頃は良かった、夢の世界の境界線は現実世界と曖昧で、不可能はなかった。人間が空を飛ぶことはおろか、宇宙人と握手して同じ砂場で遊ぶことすら何てことないことだったのだ。
僕は超能力が使えた。はっきり言って、それは曖昧として実体を持たないものだった。サイコメトラー(接触感応能力)やプレコグ(未来予知能力)とは違い、テレキネシス(念動能力)の類だった。
たとえば体を一切動かさずに火を消したりできた。蝋燭の火を消す時のあの感覚は忘れられないだろう、「消えろ!」、この思い一つで火がふっと消え去って、白い煙が立ち上るだけになるのだ。
それからテレキネシス、この能力の使い方は今思い出すと正直苦笑しか出てこない。なぜならこの能力を僕は卑怯なやり方でしか使わなかったのだ。
それは―――ケンカだった。それは幼稚園でのことだ。皆まだ若くすらない、ただの子供なのだから、ケンカはする。イジメもある。それらは時によっては殴り合い、引っ張り合い、積み木の投げ合いに発展する。
僕は強かった。ケンカのときに相手の足を滑らせたりした。べちゃっと相手がこければ僕のものだ。僕は馬乗りになり、相手の髪の毛を引っ張ったりするのだ。勿論、勝つ。当たり前すぎる展開だと思う。積み木だって投げれば絶対に頭に当てる自信があった。
ケンカ必勝法といえる。思うだけでそうなるのだから、僕より大きくて強い大人はもっと凄いことができるに違いないと思っていた。勿論、そんな能力の類はお母さんやお父さんには通じなかった。悪いことをすればぽかっ、と頭をはたかれてたのだ。そういう意味では普通の子供だった。
霊感もなかった。勿論宇宙人と会話したこともなかった。ただ、そんな能力があった。ただそう思うだけでいいんだ。そんな風に頭の中でイメージできれば、それは本当になった。
―――疑っているだろう?
もちろん、そうだと思う。そんなのはただの子供の勘違い、偶然の積み重なりあい、でもそれはそんなものじゃない。今から話す事件、これが僕にそんな小さいことの思い出を覚えさせている物であり、僕が力をなくしたことの発端でもある…いや、発端というよりは、全てだといっていい。
その頃の僕はガチャポンが好きだった。わかるかな?あのスーパーとか、デパートに置いてある、お金を入れてハンドルを捻ると、プラスチックボールに入った塩ビ人形とか、そういったくだらないおもちゃの出てくる箱のことだ。あの箱を今では僕は悪魔の箱と呼んでいる。ああやって子供から金を吸い上げる恐怖の、悪意に満ちた箱だからだ。
話がそれてしまった。その頃テレビでやっていた戦隊物のガチャポンがあったんだ。何種類か集めると超合金のロボットがそろったり、五人のヒーローがそろったりするのだ。僕はあれが好きだった。だって、男の子なら憧れるだろう、そういうものだ。僕だって超合金に乗りたかったけど、それはできないとわかっていた。頭ではなく精神的な憧れという意味なんだ。だからそんなものの本物はいらなかった。それでもガチャポンは欲しい。
それで、そんなガチャポンのことだけれども、同じ時期にビスケットの歌が流行っていたんだよ、
ポケットを叩くとビスケットが二つー♪もひとつ叩くとビスケットが四つー…♪
もうわかったかもしれないね。僕はお母さんから貰った百円玉をポケットに入れていたんだ。そこで思いついた。
「百円玉をポケットに入れて叩いたら、増えるかも!」ってね。
最高の思いつきだと思わないかい?お金が無限に増えてゆく、そんな犯罪的な行為を、幼稚園に通っていた僕が思いつき、そして実行したんだ。
ポケットをたたけば、ビスケットが二つ、もひとつ叩けばビスケットが四つー…
歌いながら、ポケットもぽん、と叩いた。一度しか叩かなかった。そして手を入れると、なんとポケットの中の硬貨が増えていたんだよ。確実に二枚あった。そしてそれは確実に先ほどまではたった一枚しか入っていなかったんだ。何度もポケットの中でその百円玉を握りなおしたのだから、ちゃんと覚えてる。
最高の気分だった。これでいくらでもガチャポンができる。僕はガチャポンの機械の前に立つと、ごそごそとポケットからお金を取り出した。
そして愕然とした。掌の上には五十円玉が二枚のってたんだ…
ショックだった。何をしてももう百円玉一枚には戻らなかった。勿論ガチャポンはできなかった。そして僕は知ったんだ。
そんな力に頼ってもいいことはない。ズルはしちゃあいけないんだって、ね。百円玉はどんなに分割しても総合では百円なんだよ。それから僕は力を使わなくなり、いつしか使えなくなった。
そしてガチャポンも大嫌いになった。だから見るたびにガムをつめて壊している……
え?器物損壊で現行犯逮捕……?勘弁してください、婦警さん…
Fin
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