第11話
『じゃあもしあたしが大人になってもあなたが結婚してなかったらあたしと結婚してくれる?』
『わかりました、いいでしょう』
まあ、その頃には結婚しているだろうと軽く考えて適当にあしらった。
それが悪かった。
ゆくゆくは彼女のためになると思った。
寄宿学校に入り優秀な成績を収めた彼女とあったのは最初に稽古をつけた子供が王室の騎士団に入った頃だった。
王室と関わる機会も減り私のことなど忘れただろうと日々を過ごしていた。これでよかったと思った。
これからもトリシア様を遠くから見守っていよう。
扉を叩く音に応える。
「師匠。師匠にお客様が来られてます」
「わかりました。お通ししなさい」
案内されてやってきたのは女性だった。
学生だろうか。
はて、こんな子供に剣を握らせたおぼえはあっただろうかと頭の中を探していく。
「私になにかようですか」と訊ねると「デクスター会いたかった!」開口一番そう口を開き抱きついてきた。
「なっ、は、離れなさい」いきなりのことに対応が遅れる。
「嫌よ」
「どこのどなたか存じませんが」
「デクスターの馬鹿! 私の顔も忘れたの!」
そう言われてもこんな女性と私とは関わりがないはずだがと改めて顔を確認すると、いくつか面影が見えた。
「……もしかしてトリシア様?」
「約束を果たしに来たわ。結婚しましょう」
「駄目です」と即座に引き剥がす。
「どうして」
「あなたはまだ成人の儀を受けていないので大人ではありません。それから、淑女が公の場で抱き合うものではありません」
「いいじゃない」
「駄目です。約束は約束です」
それから彼女は暇を見つけては私の家へとやってきた。
「デクスター、今日は」
「デクスター」
「ねえ聞いてるのデクスター」
これではトリシア様は私と結婚することになってしまう。
目眩がした。
そんなことあってはならない。
だから、トリシア様が来る時間帯を見計らってお金を渡し女性にきてもらうことにした。
そうすれば諦めてくれるだろう。
「悪いが私は君とするつもりはない」女性に事情を話すと「私はお金がもらえればそれでもいいわ」と納得してくれた。
女性がスカートで腰の上に乗りその女性の腰に手を添える。
「デクスター? ここにいるの?」
扉が開くとともに女性の途切れ途切れの甲高い声が室内に響く。
「……デクスター?」
「ああ、トリシア様。出て行ってくれますか。ふたりの時間を邪魔されたくはないんです」
「デ、クスター、……ん、やっ」
名前と共に艶かしく声を上げたそれに口角を上げ腰に添えていた手を揺らし体勢を変えると艶のある声が上がりトリシア様は顔を真っ赤にして出て行った。
足音が遠く離れてから息を吐き出して女性から手を離した。
これで完全に終わった。
彼女と顔を合わすことはもうないだろう。
「それにしても、そんなにご執心なのねぇ」
「?」
「あなた気づいていないの? その顔を鏡で見てみたら?」
それから程なくして聞こえてきたのはトリシア様の結婚の噂だった。
よかったと思った。
これで彼女と顔を合わせずに済む。
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