第5話
新聞の見出しを飾ったのは先日出かけた際の一部分だった。御丁寧に事細かく取り上げられたのは店内に同席した女性方のインタビューと通りすがりの女性のインタビューからつくりあげられたものだった。
「クラウス様! これはどういうことですか」
新聞の一面を押し付ける。
「……あーこれは先日出かけた時のものですね」飄々と答え「最近の写真は綺麗に写るんですね」とさえ付け加える。
「どうして、あなたがインタビューに答えているのか聞いているんです」
新聞の一画には質問に答えている文章も載っていた。
「先日インタビューを申し込まれたので答えただけですが」と言われなにが問題なのかわからないといった表情だった。
「私はこの方と生涯を共にしようと思い結婚しました。ってなんですか!」
「嘘はついていませんが」
「な」開いた口が塞がらない。
「だってこの前あなた自身がわたしのしたいことをしてください。って言ったじゃないですか」
あれはそういう意味ではないのに。なにより、「あなたは公爵家の人間なんですよ! この先後継ぎの問題も出てきます。ずっと一緒にはいられないんですよ! それをどうしてあなたは公に、こんな大々的に公表するんですか!」
肩で息をしてクラウス様を見る目に力を込める。
「……アメリア、あなたはそれがお望みですか?」
「当たり前です!」
「そうですか。わかりました。わたしとあなたでは意思の疎通に誤差があったようですね。これからはそのようにいたしましょう」
「そうしていただけると助かります!」
「他に要望は?」
「ありません! 失礼します!」
*
奥様が入れ違いに出て行かれた。
見送る背中は地面を踏みつけるように力一杯歩いていて怒っているのが見てとれる。
部屋の中には旦那様がデスクに座って新聞を眺めているところだった。
ため息を吐いて部屋に足を踏み入れる。
「奥様をまたからかっていたんですか」
「ああ。彼女はからかうとさらに可愛いからな」
おくびにも出さず口にする彼は我が主人ながらなんと嘆かわしい性格なのか。
まあ、わからなくはない。同じく絶対口にはしないが。まあおそらくメアリーが話を聞いてくれるだろう。
「で、スペンス。何の用だ」
「こちらを」
蝋で封のされた封筒を机に置くと眉を顰めた。封筒には王室専用の印が施されている。それはまちがいなく王室からだった。
「捨てておけ」
「旦那様」
「……わかった。かせ」
読み終わると五割増に眉間の皺が深まったのであまりいい話ではないのだろう。内容は見なくてもおおよそ見当はつく。
王室の王女であらせられる三女のトリシア様はクラウス様に恋い焦がれていた。結婚間近と噂されていたのは彼女との間のことだった。上官にあたる方の娘だ。一歩まちがえれば首が飛ぶかもしれない。
それをどうしようか悩んでいる時にアメリア様があらわれた。今朝の新聞にはおふたりのことが掲載されている。こんな大々的に男女間に関して乗り気なのはクラウス様らしくない。
この先悪い方に転がらないといいが。
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