第6話 この人誰ですか


【探降者】推し配信者を布教しあうスレ Part 652



〔カラン〕

 この動画に映ってるメッチャ強い人誰ですかね?知ってる人います?(動画)



〔ルナ〕

 あ、私もそれ見た。カジさんの切り忘れ配信で流れたやつだよね。



〔カラン〕

 そうです。僕、この人のこと全く見覚えがなくて。強さだけで言えば余裕で地下10000m級探降者レベルですし、どこかしらの界隈で話題になってると思うんですよ。



〔ライバーに命賭ける人〕

 え、つっっっよ。てかはっや。見えん。スローにしてギリ。ぱねぇ。調べるわ。



〔スカル〕

 ……見たことないわね。少なくとも私の所属してる北の探降者ギルドの子ではないわ。



〔優男の極み〕

 そもそもコイツ配信者?これ絶対にミスかなんかで偶然撮れただけだろ。



〔カラン〕

 でもこの強さなら、既に配信者でも不思議じゃないですよね。



〔ルーレム〕

 いや、その考えは怪しい。このスレに貼ってある切り抜きの動画には映ってないけど、切り抜き開始の一分くらい前にヤバい神雫の光が映り込むんだ。多分、大当たり引いた直後の奴。



〔学園通いの20歳〕

 はー、仲間に欲しい。女の子?



〔ルナ〕

 女の子でしょどう見ても。



〔カラン〕

 え、中性的な男だと思ってました。



〔ライバーに命掛ける人〕

 男っぽくね?どっちでも良いけど。どっちでも好き。可愛いし。可愛ければおけ。


〔ルナ〕

 @ライバーに命賭ける人/ え?


〔スカル〕

 @ライバーに命賭ける人/ え?


〔カラン〕

 @ライバーに命賭ける人/ え?


〔ライバーに命賭ける人〕

 ん?



〔学園通いの20歳〕

 ……まぁ、人の趣味は気にしないでやれよ。因みにこれ、撮影場所はどこなん?



〔ルナ〕

 よーく調べれば分かるかも知れないけど、カジさん基本的に行先を教えてくれないから。少なくとも、元の動画を見るだけじゃ分からないよ。



〔学園通いの20歳〕

 あー、カジさんはそうだなぁ……。むしろその子を配信者としてスカウトしに旅してた可能性すらあるわ。



〔北のギルマス(本物)〕

 これは是非とも儂らのギルドに来て欲しいのぉ……。相変わらずカジ君の鼻は優秀じゃ。もしプロデュース方法が決まってなければ、北に紹介して欲しいものじゃが。



〔ライバーに命賭ける人〕

 おい、なんか北ギルドのマスター来たけど。



〔カラン〕

 偽物では?



〔スカル〕

 残念ながら本物よ。霊蝶IDが合ってるわ。というか何してるんですかマスター、こんな時間から。仕事してくださいよ。



〔ルナ〕

 えぇ……。凄い人出てきちゃった……。



〔ライバーに命賭ける人〕

 とりまウチはこの子のライバー参入が確定したら絶対に推す。超推す。何故なら可愛いから。探降者ギルドの所属は何処でもいい。なんなら所属無しでも関係ないね。



〔ルナ〕

 ヤバそうな人も出てきちゃった……。



〔ライバーに命賭ける人〕

 早速だけどファンクラブ作成の用意だけ始める。加入したい奴いたらいつでも歓迎。待ってる。



〔ルーレム〕

 なんだこの行動力の化け物は……。なんでファンクラブ作り慣れてんだよ。



〔ライバーに命賭ける人〕

 一回作ってるからな。今も団長やってるし。



〔スカル〕

 え、本当に?誰のよ。



〔ライバーに命賭ける人〕

 『エクマ』ちゃん。



〔学園通いの20歳〕

 は?ガレリア最強で、且つ唯一の地下15000m越え経験者のエクマちゃん?配信者としての人気も断トツのナンバー1の?……嘘だよな?俺もクラブメンバーなんだが。



〔ライバーに命賭ける人〕

 マジでーす。団長でーす。



〔カラン〕

 ……え、じゃあ「ライバーに命賭ける人」さんの正体って。



〔ルナ〕

 ……もしかして、『ハシビロ』さん?



〔ライバーに命賭ける人〕

 おうよ。



〔学園通いの20歳〕

 やっべー。確か『ハシビロ』のプロデュース能力はぶっ壊れてるって聞いたぞ。この動画の子、どうなっちゃうんだよオイ……。







☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡






「それにしても、ほんっとに変な神雫シーダを持ってきましたねー」


「勝手に見ないでよ……」


 僕らは食卓を囲みながら、雑談に花を咲かせる。

 

 この場にいるのは母さんと僕と、レナリー。

 僕とレナは横に並び、向かいには母さんが座っている形だ。


 テーブルには湯気を立てるシチューが置かれており、僕らはそれぞれのペースで手を進めていく。


「あら。もしかしてレナリーちゃん、また『鑑定眼』を使ったの?」


 母さんがレナに問いかける。


「はい。アルが頑なに神雫シーダの詳細を教えてくれないので」


「それ本当にズルいと思うんだよね僕」


 僕よりもほんの数ヶ月だけ早く神雫シーダを得たレナだが、その神雫シーダは『鑑定眼』と呼ばれるものだった。

 曰く相手のステータスを覗き込めるのだとかで、筋力やら敏捷やらと色々分かるらしい。


「んん、今日はアルの能力値だいぶ落ちちゃってますね。流石にあの小鬼ゴブリンとの戦闘は堪えましたか?」


「あー、そうだね。正直めちゃくちゃ疲れた」


 レナに見える能力値とは、その時々の身体能力を示すものらしく、怪我や病気、疲労でその大きさは上下するのだとか。

 疲れれば力は入らないし、怪我をすれば素早く動くのも難しいので、恐らくはそういう話なのだとは思う。


 つまり今日の僕は相当に身体を酷使した為、万全とは程遠いステータスを晒している訳だ。


「なかなか便利よね、レナリーちゃんの『鑑定眼』。病気とかも分かるのかしら?」


 母さんはシチューを掬いながら、興味深げにレナと目を合わせる。


「ええ、症状と治療法くらいなら。病名に関しては、どの程度アテになるのか分かりませんが」


「まぁ、それは安心。家にお医者様が居るようなものじゃない」


 母さんの言葉を聞いて、確かになぁと僕。


 好き勝手にステータスを覗かれるのもあまり気分の良い話ではないが、しかし自分でも気づけない体調不良を見つけてくれるのは非常に助かる。


「でも実際に治療する、となると話は違いますよ?」


「そうかもしれないけど、病気になったらすぐに気づいてくれるのよね?やっぱり心強いわ。……ちなみに、今のところは大丈夫かしら、私の体」


「はい。ナーナさんもアルも、すこぶる健康です」


 不安げに問う母さんに、レナは笑いながらそう答える。

 ちなみにナーナとは僕の母さんの名前。


「まぁ僕は病気なんかで死んでる場合じゃないからね。もっと強くならなきゃだし」


「……アルはもう少し不健康なくらいが丁度いいです」


「なにそれ」


 相変わらずレナは、よく分からないところで辛辣である。特段気が強い訳では無いのだが、しかし時折言葉が鋭くなり、僕を強ばらせることは多々あった。

 二年間一緒に過ごして、彼女の泣いた姿を一度も見たことがない、と言えばその性格の方向性もある程度伝わるだろうか。


 僕はレナから視線を外し、母さんへと顔を向ける。


「ところで、母さんは僕の神雫シーダは気にならないの?」


「うーん……私はアルが教えたくなったらでいいわ。無理に聞くのも可哀想よ」


「……い、いや、そんな本気で隠してる訳じゃないから。普通に教えるよ。僕の神雫シーダは――」


 と、僕は昨晩手に入れたばかりの『哀哭鏡』について説明するのだった。

 折角のシチューを冷ます訳にもいかないし、手短に語るつもりである。


 興味深げに僕の言葉に耳を傾ける母さんに対して、欠片も此方に意識を向けないレナ。

 既に僕の神雫シーダを知っている以上、説明を聞く理由が無いのは分かるが、しかしもう少しマシな態度を見せてくれと思うのは贅沢が過ぎるのだろうか。


「―――」


 ふと、僕の中に一つの疑問が浮かび上がる。


 涙に反応する僕の神雫シーダと、絶対に泣かないだろう図太すぎる女の子。その二つを見比べて生まれた疑問である。


 仮に、もし仮にである。

 そんな可能性は僕が全力で払い除けるが、それはそれとして。


 レナが泣くとしたら、一体どんな状況なのか。

 一体どれ程の負感情が蓄積したら、レナが泣き出すなんて事態に至るのか。


――この絶対に泣かない少女が泣いたとき、僕は一体どれだけ強くなるのだろう?、と。

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これより僕の英雄譚を配信する 孔明ノワナ @comay

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