第4話

ーー次の日ーーー

昨日のランボルギーニは凄かったな~なんて思いながら平和に学校へ登校した。

あ、でも、いや、待てよ・・・・、昨日は学校から蔵田先輩の家までランボルギーニで行ったんだよな・・・ってことは昨日はあのまま帰ったってみんなには思われているのか、、。

おっふ、最悪なことになった。学校に行ったら絶対に噂されるに決まってるじゃないか。井上さんから電話をもらった時に、もっとちゃんと言っておけば良かった。でも現実、学校に行けば、いつも道理で特に問題も起きていなかった。


おっと、そんなこと思っていたら原くんがいるじゃなか!彼は優しいし、明るくて、一見、親しみやすい様に見えるが、私にとっては、むしろ逆になってきた。原くんは同じクラスのクラスメイトという以前に生徒会書記長であり、蔵田先輩と関わりがあるということを忘れてはならない。これから原くんともっと仲良くなれば、私のことがもっと、蔵田先輩の耳に入るのも時間の問題である。蔵田先輩の家に呼ばれたという事実があるだけに蔵田先輩と関わるのはなんか気まずい。つまり、原くんとこれからも仲良くする=蔵田先輩と関わらずを得ない=気まずいということになる!あああああああ!私としたことがとんでもないことに足を踏み入れてしまったではないか!って、いつものように思う。


(ガラガラガラ)


担任の祖師谷が入って来た。


「えー、今日の1限はホームルームの時間の延長とします。えー、なぜかというと、まあ、下から来ている生徒は分かると思いますが、新しく来た子たちもいるので、一様、説明しますね。高校に入学して、まだ間もないですが、入学式と新入生歓迎会を合わせた、翔翼学園歓迎会があります。これは、毎年あり、幼稚園、小学校、中学校、高校と、それぞれの学年ごとに分かれて行います。あー、今の説明で分かったかな?へへ、僕は一様、国語の教師なんですが、こういう説明は苦手でして...。それはさておき、君たちは高校1年生です。つまり、2年生と、3年生に歓迎される側ということになります。そこで、1年生代表として、うちのクラスから、2人を選び、代表の言葉を述べ、三年生から、花束を受け取ってもらいます。2人以外にも、補欠として、違う2人を選びたいと思います。やりたい人は1限が始まるまでに、考えておくこと。それじゃあ、終わります。」


(ガラガラガラ)


「はー、代表とかめんどっwww」

「それな!高校生にもなって、歓迎とかいらないよねwww」


なるほど、そういうことか。普通は、入学してすぐに、入学式があるのに、おかしなことにこの学校はそうではなかった。いきなり授業が始まり、この学校は入学式が存在しない、とんでもない所なんではないか、と思っていた。が、新入生歓迎会が入学式にくっつくのであれば、話は別だ。


「ねえねえ、林檎は、立候補とかすんのか?」

最近、絵美ちゃんが優しくなった気がする。こんな風に喋りかけてくるとは思わなかった。


「うーん、立候補はやめとこうかな。あんまり目立ちたくないし、人前にでるのは得意じゃないからね。」

「ふーん、意外だな。あたしも立候補するのはやめようと思う。そんなのやってもなんのメリットもないだろうし。」


ーーーーキーンコーンカーンコーンーーーー


(ガラガラガラ)


「よし、やりたい奴は手をあげて!」


ーーーシーンーーー


「誰もいませんか?あー、ちなみに、花を渡してくれる3年生は蔵田くんらしいです。」


すると、


スっ


なんと理香子が手をあげた。


「せんせー、私やります。」

「おっ、じゃあ、1人は川倉さんでいいですね。ではあともう1人、誰かいませんか?」

「先生、推薦というのはどうでしょうか?」

と、理香子が言った。


「えっ、推薦かー、まあいいでしょう。」


「では、私から推薦させてもらいます。みんなもいいよね?」


ーーーシーンーーー


「じゃあ、いいみたいなんで、指名しますね。わたしは、武井さんがいいと思います。」


え?え?私?


「ふふ、武井さんはいきなりの指名で驚いている様なので、理由も述べたいと思います。」


その瞬間、クラス全員が私を見た。


「まず1つ目。武井さんは背が高いです。その分、堂々と見えるだろうし、代表としての態度がみんなに伝わると思います。2つ目は、武井さんがそれなりの成績優秀者であるからです。すくなくとも高校でこの学校に入るのは、勉強しないと無理でしょう。まあ、私の方が優秀だとは思いますが。優秀な生徒が代表になることは当たり前だと思います。というのが、武井さんを推薦した理由です。異議のある人はいますか?」


ーーーシーンーーー


みんな、理香子の説明に圧倒されている。皮肉な部分が混じっているのは事実だが、間違ってはいない。なんせ、この文章を一瞬で考えられる理香子はすごい。みんなも同じことを思っているのではないか?


「じゃあ、武井さんもいいかな?」


いや、断ったら、即打ち首だろ。仕方ない、ここは、もう、やるしかない。理香子に推薦されてしまったのだから。


「あー、はい。大丈夫です。」


「じゃあ、あとは補欠を決め...」


それにしても、どうして私を推薦したのだろう。そりゃあ、大きいのは事実だけど、私より大きい男子だっている。それに、私より成績優秀者は他にもいる。受験勉強を頑張ったのは事実だけど...。どちらにせよ、私をどうしても選ぶ要素はどこにもない。なんで私を選んだんだろう。


「林檎!林檎!もう1限終わったよ?」

「あ、うん。ほんとだ。」

「あんたも理香子に指名される」なんて困ったもんだなー。あたしだったら、絶対いやだね。」

「そりゃあ、私だってやりたくないよ。でも、あんな空気になった以上は断れないよ。ほんとにどうしよ...。」

「まあ、林檎なら大丈夫だよ。あたしも手伝うからさ。」

「うん...。ありがとう。」


すると、理香子がこっちに向かってきた。


「ねえ、アタシが指名してあげたんだから、せいぜい頑張んなさいよね。アタシの足を引っ張らないようにね。」

「あ、うん。でもなんで私を推薦したの?」

「そんなの…、聞かないでよ!!」

「あ、ごめん。」


ええええ、こわっ!ってかなんで?なんで私を?


「ねね、武井さん、挨拶がんばってね!俺、応援してる!」

「うん!ありがと!」


原くんはほんとにいい人だなー。早く絵美ちゃんとくっつけてあげよう。今日のお昼休みにでも聞いてみよう。


ーーー昼休みーーー

「おい、林檎!屋上いくぞ。」


こんなかんじで絵美ちゃんがお昼に誘ってくれるから、1人になることはない。さっそく聞いてみるか。


「絵美ちゃんはさ、彼氏とかいるの?」

「(ゴホッ)はあ?なんだよ急に!バカじゃねーの!?そんなもんいる訳ないだろ!」

「そこまで驚かなくても、、。じゃあ好きな人は?」

「いねーよ!急にそんなこと聞くなんて、おかしいぞ!」

「ごめんごめん!でも気になるんだよね~。ちなみにだけど、原くんのこととかどう思う?優しいし、結構イケメンだし、彼氏にするにはいいと思うんだよね~!」

「は?原隼人?ああ、あいつか。別になんとも思わないけど?ってか、そういう林檎こそ原のこと好きなんじゃねーの?」

「まさか!そんなわけないよ!ごめんごめん、この話はもうやめるね!」


ーーーシーンーーー


「あ、あのさ、林檎はあたしのこと怖い?」

「え?なんで?」

「いや、あたしは元ヤンだったし、中でも番長だったし、口は悪いし…。みんなから怖がられるんだよ!どこに行っても嫌われるんだ。」

「なんでそんなこと聞くの!?怖くないし、いい子じゃん!元ヤンでも番長でもいいよ!友達だと思ってたのに、どうしてそんなこと言うの!?」


絵美ちゃんは唖然としていた。そりゃそうだ、だって私が凄い勢いで言い返しちゃったんだもん。


「林檎がそんなこと言ってくれるとは思わなかったよ。私にちゃんと言ってくれてありがとう。真正面から自分に向かってきてくれる子は林檎が初めてだよ。これからも言いたいことがあったら、言えよな。」

「もちろん!」

「それはそうと、急に原の話なんかしだして、なんかあるんじゃないのか?」

「うーん。もう単刀直入に言ったほうがいいね!ってことで、改めて言わせてもらうね。実はね、原くんが絵美ちゃんのこと好きになっちゃったらしいんだよね。」


「うん?え?」

「だからー、原くんが絵美ちゃんに一目惚れしたみたいなの。それで、私が原くんに協力すれってことになって」

「え?」

「え、だから、原くんが絵美ちゃんのこと好きn」

「ああああ、もうそれは分かったから!ええ?原がアタシのこと好き?あいつとまともに喋ったこともないのに。」

「まあ、それはそうかなって思ったけど、一目惚れだからね~。」

「別に私は可愛くないのに?」

「絵美ちゃんは可愛いよ!これを機に仲良くしてみたら?」

「まあ考えてみる。」


絵美ちゃんも原くんに一目惚れされて、まんざらでもないみたいだ。もしかして、彼氏いなくて、こういうのが初めてとか?いやいや、そんなことはない。彼氏の1人ぐらいはいたよね。なんて思っていると、あっという間に放課後になっていた。



(ピーンポーンパーンポーン)

新入生歓迎会で代表の生徒の川倉さん、武井さんはHR後に選択教室4に来てください。


えええ、めんどっ。ってことは、理香子と一緒にいくの?いやだいやだ!でも行かなくちゃ…。やっぱり、こんなのなるんじゃなかった!!!!


(ガラガラガラ)


おっと、理香子がいた。怖いよ怖いよ!


「ねえ、あんたはさ、手紙読みなさいよね。アタシは花束受け取るから。」


え?私に手紙を読めと?手紙をみんなに前で読めと?

とんでもないことを言うな!!!!って心の中では思っていた。


「あ、うん、分かった。」


理香子と二人っきりのこの部屋の中で、やれと言われたことをやらなければ残りの学園生活を平和に送れる保障はない。大人しく従うしかない。とはいえ、なんでこの2人だけを部屋に呼んだんだろうか?


すると


(ガラガラガラ)

「よし、2人とも来てるね!ってあれ?林檎ちゃんじゃないか!まさかこんな所で会うなんて!」


そう、そこには蔵田先輩と、生徒会副会長である、田倉英介がいた。2人が並ぶとほんとに顔面偏差値が爆上がりしていると思う。とはいえ、田倉先輩は私とあまり接点がない。名前すら知ってもらえてるかもわからない。さらに、田倉先輩は理香子の許嫁であるということを忘れてはいけない。この4人で少しの間だけでも、作業するのはちょっと不安だな。


「それじゃあ、早速始めよう!」

蔵田先輩の一言で部屋に風が入ったようになった。影響力が他の人にはないぐらいあるんだったけ。


「2人のうち、まずはどちらが何をやるのかを教えて欲しい。」


すると、理香子が言った。


「私が花束を受け取ります。武井さんは原稿を覚えてもらい、みんなの前で代表の言葉を言ってもらいます。お互いそれは了承済みです。」

「え?あっ、そうなのか!じゃあ、話は簡単。さすが川倉さん!これから色んな説明をしたいところなんだけど、これから先生に呼ばれてるんだよな…。ってことで後日、詳しいことは伝えるね。今日は解散!わざわざ集まってくれてありがとう。」


蔵田先輩は目上の人でも目下の人でも、誰にでも、感謝の心を忘れない人だ。すると理香子はすぐに部屋を出て行ってしまった。なにかから逃げてるみたいに。


「林檎ちゃんさ、これから時間ある?せっかくだし、生徒会室に寄ってかない?メンバーにも林檎ちゃんを紹介したいんだ!」

「時間はありますけど、そんな、いいですよ!!みなさんの時間を割いてまでお邪魔するのはちょっと…。」

「まあまあ、遠慮しないで!」

「え、、?生徒会室にですか?」

「うん!もちろん!ちなみに、生徒会室に生徒会メンバー以外で入ることになるのは君が初めてだよ。」

「ええ?私が?初めてですって?!」

「まあまあ、つべこべ言わずに入りなよ。別に深い意味はないけど、初めて入る子が君で良かったなって思うな。」


え?深い意味?がないって言ったのよね?うん、そうだよね。深い意味がないって言われてなんとも思わないはずなのに、なんかがっかりしてる自分がいる。期待してはいけないのにって、期待もなにも、好きじゃないんだからあるわけない!


生徒会室に入るとそこには副会長の田倉先輩がいた。相変わらずクールだな、なんて思ってると向こうから話しかけてきた。


「初めまして、武井林檎さん。副会長の田倉です。蔵田会長からあなたの話は聞いています。とても仲の良い女子生徒だとか、、。」

「田倉!林檎ちゃんの前でなんでそんなこと言うんだよ!林檎ちゃん、今のは気にしないでもらっていいからね。」


田倉先輩は思ったより取っ付きが良かった。冷たい人だと言う噂が絶えないから、もっと怖い人だと思っていたのに…。それにしてもこの人もイケメンだな。生徒会室、副会長が並んでいるのを見ていると、目がチカチカする。


「あっ!そうだったこれからちょっと先生に呼ばれてるんだった!林檎ちゃんさ、ちょっとだけいなくなるんだけど待っててもらえる?」

「あっ、はい、もちろんです。逆にここにいてもいいんですかね(汗)」

「ゆっくりしててね〜」


あらら、こりゃまたどうしよう。生徒会室に田倉先輩と2人きりだ。怖いっていうか気まずい。


「あんたはさ、蔵田会長のなんなんだ?」


え?いまなんて、、


「さっき、あんたにちゃんと挨拶したのは会長の前だったからだ。あんたと仲良くしようなんて思ってないし、そもそもこの部屋に入るのも気に入らない。」


さっきとは全く別の人のように冷たくあしらわれた。まあ、そりゃそうか。私は生徒会メンバーでもないし、生徒会長と付き合ってるわけでもない。田倉先輩が私を煙たがるのは最もである。


「会長と付き合ってるわけでもないなら、これ以上こちら側にくるのはやめろ。痛い目見るぞ。」


「おまたせー!ごめんごめん、思ってたよりひきとめられちゃった。ってあれ?林檎ちゃん?大丈夫?なんか顔色悪くない?どっか具合悪いなら蔵田家専属の医者呼ぶよ?」

「あ、大丈夫です!それより、私もこれから塾があるのでお先に失礼します。」


あー、怖かった。それより、痛い目見るってどういう意味?


「田倉ー。あんな言い方はないだろ。あの子はまだ1年だぞ。下からきたわけじゃないにあんなにキツくあたったらあの子が怯えちゃうじゃないか〜」

「話を、、聞いてたんですか?全くあなたも人が悪い。あいつと仲良くするのも含めですが。」

「はぁ〜。まだお前はあのことを引きずっているのか?もうあれは前のことだしなー。そんなに気にする必要はないと思うけどな。ましてや君の兄弟じゃないか」

「まあ、そうなんですがね。兄弟と言っても血は繋がっていないですし、向こうも僕のことを知らないはずです。」


これを読んだあなた達はあれ?こんな設定あったけ?と思うかもしれない。前のページに戻っても載っていない。だって田倉が言ったセリフで初めてこんな設定が出てくるのだから。


家に帰ったはいいものの、さっきの田倉先輩の言葉や態度が頭から離れない。そんなに暴言を吐かれたわけでもないのになんでだろう。あの人の目には何かが眠っているような気がしてたまらない。


あれから1週間がたった。ついに新入生歓迎会が行われる日となった。私が生徒会室に呼ばれた日でもある、あの日は忘れられないけど。あれ?理香子は?なんの問題もなかったのって思うかもしれないけど、ほんとになんにもなかった。こっちが不信に思うぐらいね。そして、私は原稿を読む。あー、緊張する。人前に立つのはそんなに得意ではないんだけどな。ところで、あれから蔵田先輩とは何度か会ったけど向こうも忙しいみたいで、引き止められることはなかった。ちょっとだけ寂しい。いやいやいや、なんで寂しがってんの?だってあの人とはなんの関係もないんだよ?ほんとにどうしちゃったのよ!いくらイケメンだからって…。


「あんたはただ原稿を読めばいいの。蔵田会長が、かっこいいからってあんまり目を合わせたりしないでよね。余計なことはしないこと。いい?わかった?」

「わかったわかった。大丈夫だよ。そんなに心配しないで!」

「あんたってちょっとドジっぽいし、心配なんですけど〜w」


何も無いとは言うものの、このノリにはずっと慣れない。むしろ苦手。絵美ちゃんとは結構仲良くなって、口が悪い人にもだいぶ慣れてきたのにな…。しかも蔵田先輩と関わると必ず理香子が出てくるのだ。どんだけ好きなんだよ!って思っちゃう。


「続いて、新1年生からのスピーチと、我が翔翼学園生徒会長の蔵田賢士からの挨拶です。」


「あ、あ、マイクテストマイクテスト。皆さんこんにちは!生徒会長の蔵田です!既に僕のことを知ってる子たちはいると思うけど、一様自己紹介しておくね。高校3年生の蔵田です!って今言ったか(笑)ところで、僕は高校3年生ってことでこの学校の生徒の中で最も権力を持つ学年であり、尚且つ生徒会長ともなれば僕の望みは100%叶うと言っても過言では無い!そこで、断言しておくが、我が翔翼学園ではさらなる学校改革を目指すために、我々生徒会役員全員で学校のありとあらゆる不満、生徒の要望をなるべく聞き分け、望みを叶えてあげようと思う!無理だと思ったそこの君!やる前から無理と言っていたら何も始まらない!やろうと思ったことは言葉にし、行動してゆくのが生徒の役目であると思う!まあ、ここで生徒たちのやる気を高めようなんてことは思ってない!しかし、学校改革を積極的にしていくと言ったからには君たちにもぜひとも協力願いたい!我が翔翼学園高等学校、いや、世界のために行動力のある若者の力が必要である!君たちに楽しくて、有意義な時間が過ごせるように互いに頑張って行こう!Have a nice day and good time!」


倉田先輩の演説に誰もが聞き入っていた。堅苦しい言葉を沢山使うわけでもなく、高校生の私たちにも十分に理解できる言葉で自分の意志を説明するのは難しいはずだ。さすがである。この後に私がスピーチするのはちょっと気が引ける。私のスピーチを聞いて、みんなはどう思うだろう。クラスのみんなは絶対にからかうはずだ。ここ最近はクラスに馴染んではないものの、絵美ちゃんもいるし、原くんもいるし、なんだかんだで上手くやっている。声をかける人も増えた。女子なんかは特にそうだと思う。ある1人の女子を除いてだけど。


「生徒会長の蔵田くん、ありがとうございました。次は1年生のスピーチです。武井さんお願いします。」


ひー!みんながこっちを見てる!怖いな。緊張してがっちがっちになってたら、蔵田先輩と目があった。ウインクされた。人がこんなにも緊張しているのに、ウインクなんてって思ったけど、思わず笑ってしまった。ちょっと緊張がほぐれた。先輩ほどのスピーチは出来なくとも、精一杯頑張ろうと思った。


「みなさんこんにちは、1年の武井林檎です。…」


こうしてスピーチは無事に終えられた。私の役目を果たし終わったところで、理香子が壇上に上がってきた。そう、花束をもらうのだ。そしてなんと花束係が田倉先輩だということを忘れてはいけない。私と理香子、蔵田先輩と田倉先輩が互いに並んだ。田倉先輩はこの前のことがまるで無かったかのように平然としている。花束を受け取り、握手をした。その時、


「スピーチ良かったよ。撲のウインクのおかげかな?とりあえず、お疲れ様!」


と、耳元で囁かれた。イケメンの上にイケボってどういうこと!パーフェクト過ぎるんですけど!って思いながらも、蔵田先輩に褒められたのは素直に嬉しかった。


「ありがとうございます。先輩のおかげです。」

こんな感じでいい気持ちでいられたらいいのがけれど、そうはいかなかった。田倉先輩とも握手しなければならなかったからだ。


握手をしようと思った、その時、


「公共の前でいちゃつくな。」

と冷たい声で囁かれた。耳に棘が刺さったみたいだ。怖くて身動きが出来なかった。すると、私が困っているのを見透かしているように理香子が壇上を降りた。そのおかげでなんとかフリーズした脳が動き始めた。私も理香子に続いて壇上を降りた。


そのあとに学園長からの話があり、無事に(私にとっては無事ではなかったが。)新入生歓迎会は終わった。教室に戻ろうとした時、理香子に呼び止められた。


「ちょっとあんた!待ちなさい。英介さんとなにかあるようだけど、私の許嫁なのよ、あの人は。高等部から入って来たあんたには分からないでしょうけど、英介さんはすっごく優秀で、あんたなんかと対等な位置に立つような人じゃないのよ。だからあの人の近くには行かないで。後で痛い目にあっても知らないわよ。」


蔵田先輩も田倉先輩も関わると痛い目にあわされるって、どういうことなんだろう?まるであの二人には私と関わってはいけないなにかがある様に思える。このモヤモヤはなんだろう。胸騒ぎがする。


「おい、固まってどうしたんだよ。」

絵美ちゃんが話しかけた。この変な感じの原因を知りたいし、誰かに教えたい。絵美ちゃんに相談することが頭をよぎったが、まだ仲良くなって間もないし、やめておこう。いらない心配をかけるのも嫌だし、まだ胸の奥にしまっておこう。


「ううん、なんでもないよ。それより私のスピーチ変じゃなかった?すんごい緊張した~!」

いつもよりハイテンションでその日は過ごした。絵美ちゃんは勘が鋭い。だから少しでも私の異変に気づきやすい。悟られないように気を付けなくてはいけない。

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翔翼学園物語 飛行機雲 @momo_hina

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