第61話 忍び寄る黒い巨影3
朝の涼しさを肌に感じつつ進み、目の前に現れたのは石狩川。流域面積は利根川に次いで、全国二位。
長さも信濃川と利根川に次ぐ三位と、日本三大河川に数えられる川である。
「これはまた。豊平川より広いじゃん」
「泳いで渡ったりするのは、とても無理そうですね」
豊平川を超える水量と面積を見ては、圧倒されている様子の啓太と美月。
石狩川の流れはとても速く、泥混じりで茶色く濁っている。先日の雨の影響を受け、水量も増しているのだろう。
「ここから右だよな」
石狩川にぶつかったことを契機に、右折して川沿いの河川敷へ。このまま真っ直ぐに進めば、中間地点となる江別市。
江別市を越えた先にあるのは、目的地とする岩見沢。市同士の距離は離れているものの、確実に距離は縮まっていた。
「いろいろありましたけど。かなり進んで来ましたね」
今日までの出来事を思い返し、感慨深そうに言う美月。
「江別まで来たからな。もう半分には到達したはずだ」
札幌の街を抜けて進み、裏道を通ったため江別市の端。
これから一度。江別市内へ入るも端となれば、主要市街地を訪れることもない。
「江別を過ぎてしまえば、岩見沢まで大きな街はありませんね」
美月を含め全員が知る通り、江別以降に発展した場所はない。
岩見沢から札幌へ向かうに、電車に乗って見た景色。先ほどまでと同様か、それ以上の。僅かな民家と、広がる田畑。自然の景色が広がる変化の乏しい道を、真っ直ぐに進むことになるのだ。
「警戒が薄くて良い反面。大変な道だけどな。でも俺たちはここまで、みんなで進んで来たんだ! もう半分だって、俺たちなら行けるさっ!」
今まで培った経験と、協力して生まれた絆。先へ進むに不安はあれど、後ろ向きになる必要はなかった。
「そうねっ! 私たちなら行けるわっ!」
「当たり前じゃん! 何かあったら、オレに任せとけって!」
呼応して声を上げるハルノと啓太の影響もあって、全体の士気は非常に良い感じとなっていた。
今の状態を維持できれば、きっと全員無事に岩見沢へ帰れるだろう。
「煙突が見えてきたじゃん。あれ、
啓太が見つめる先にあるのは、三本の高い煙突と大小様々な建物。敷地面積も広く緑のフェンスに囲まれる、江別市でも有名な大神製紙工場である。
「大神製紙工場には、社会科見学で行ったよねっ!」
「小学生のときだよね」
彩加と葛西さん発言で、教育課程の事実を知る。大神製紙工場への社会科見学は、周辺地域の定番コースであったと。
「大きな紙のロールがたくさんありましたよね」
「煙突からは煙も凄かったじゃん。今は出てないけどね」
同様の情報を持つ美月と啓太も、共感できるところは多いようだ。
転校生組みである、自身とハルノ。社会科見学に訪れてもなければ、大神製紙工場へ行ったこともない。
「全くわからないな」
「……そうね」
苦笑いするハルノとともに、実情を知らぬ身。珍しく二人揃って、話についていけなかった。
緑のフェンスに沿って大神製紙工場の外周を進み、正面となる入口前。入口は鉄柵で閉ざされ、頭上には【安全第一】と書かれた大きな看板。右手には守衛室と思われる、小さな小屋があった。
「あれれ? 交差点の方で何か、動かなかった?」
額の上に手を当てるポーズをし、前方を見つめ目を凝らす彩加。数十メートル先の交差点に、何かいると訴えている。
なんだよ。屍怪でもいるのか?
彩加に見習い目を凝らすと、予想外の存在が映る。
交差点にあったのは、昨日たしかに見た黒き巨影。徐々に近づいているようで、そのシルエットは大きく鮮明に。間違いなく、こちらに迫っていた。
まさか……あれは……。
「熊だっ! 逃げろ!」
熊だと認識しては、即座に叫び警報。慌てて逃げ場を探しては、守衛室と思われる小屋へ向かい走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます