第60話 忍び寄る黒い巨影2
「お湯を沸かしますね。温かい飲み物を作るにも、食事をするにも必要でしょうし」
コンビニ奥の廊下で食事の準備を始め、カセットコンロを使用する美月。床にダンボールやタオルを敷いて、今日はこの通りで過ごすことに決まった。
本当ならもっと、衛生的な場所が好ましかった。しかしコンビニ裏など良いと思った場所は酷く荒れ、とても過ごせる状況ではなかったのだ。
「食べられそうな物は、あまり多くなかったな」
コンビニの商品は元から少なかった上に、賞味期限を過ぎていた物も多い。
弁当やおにぎり。サンドウィッチやパンにはカビが生え、冷凍食品は停電の影響を受けて全滅。
「それでも最低限は確保できたから、良しとしましょう」
ハルノが手に持つのは、僅かに残されていたカップ麺。
他に残されていた物と言えば、菓子類にインスタント麺が少々。それでも食料の確保は、最低限できたと言えるだろう。
「コーヒーです。蓮夜さんもどうぞ」
「おう。サンキュー」
食事を終えたところで、美月から手渡されるコーヒー。コンビニで入手した紙コップを使っているため、手に伝わってくる温度は予想以上に熱い。
「最低限の警戒線は敷いたけど。万全を期すなら、見張りをしたほうが良いかもな」
コンビニの入口は、ロープで縛り封鎖。今は何者も、簡単には侵入できない。
しかしコンビニには窓も多く、破壊されればそれまで。一階にいることもあり、一気に窮地へ追い込まれてしまうだろう。
「安心して過ごせる場所では、決してないですものね」
話す美月を含め、全員。置かれる立場は、周知している。
「交代制にしましょうか。それなら多くの時間を、休息に当てられるでしょ」
ハルノの提案もあって、交代で見張りをすることに決まった。
日が完全に落ちた店内。コンビニ奥の廊下にはランタンが灯され、あとは月明かりが照らすのみとなった。
「下手をすると屍怪より、人間のほうが怖いわよ。野口さんのときみたく、襲われたら最悪ですもの」
コンビニ奥の廊下に座り、雑談の最中で言うハルノ。
「善人か。悪人か。簡単にはわからないもんな。今は誰にも見つからぬよう、過ごすほうが得策ってことか」
コンビニ奥で過ごすと決めたのは、外へ光を漏らさないようにするため。
屍怪はもちろん。光は生き延びた人間を、集めてしまう可能性があるからだ。
「見張りも少し離れた場所の方が良さそうだな。内から見えるってことは、外からも見えるだろ」
内側から視認できても、外側から視認されては意味がない。
そのため見張りのポジションは、レジの内側。椅子を置いての、見張りと決まった。
「交代だぜ」
「やっとか。ようやくこれで、寝られるじゃん」
見張りの交代を告げると、啓太は欠伸をしてコンビニ奥へと去っていく。
夜も更けて間もなく。今日一日の疲労もあって、全員早めの就寝となったのだ。
「静かだな」
24時間営業も多い、日本のコンビニ。本来なら明るい音楽でも流れ、寂しさを感じることもなかったであろう。
しかし今は、夜の静寂。やる事も少なく眠気と戦わなくてはならないとなれば、見張りの時間を耐えて待つ他なかった。
***
太陽が東の彼方から、顔を出す朝。入口を封鎖するのに使ったロープを解き、防災袋を肩に掛けて外へ出る。
「今日もここから、スタートってわけね」
出発のときとなり、意気込むハルノ。周囲では鳥たちのさえずりが響き、耳に心地よい歌を披露しているようだった。
昨日この辺りに、黒い影があったように見えたんだけど。何もないな。
やっぱり昨日のは、気のせいだったのか。
道路に出て周囲を確認するも、特に変わった様子は見受けられない。
目の前に広がるは、一本直線的な道路。ほとんど変わり映えのない、田畑など自然の景色。正直なところ、もう十分なくらいであった。
「今日はもう時期に、
「ああ。そしたら右に曲がって、江別市内を通らないとダメなはずだ」
ハルノも話す通りに、直線的な道路も時期に終わる。
そしたら一度、江別市内へ。そこから方向転換しては、岩見沢へ向かうことになるのだ。
「遅いじゃん! 早く行こうぜっ!」
「レッツゴー!」
元気を取り戻した啓太と彩加に呼ばれ、最後尾でみんなの後を追う。
昨日。啓太が縁石に置いた、空のペットボトル。潰れていたことに気づいたのは、誰一人としていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます