第59話 忍び寄る黒い巨影1

 十日以上はかかると、思っていたけど。このペースなら、思いの外にも早く着きそうだな。


「もう水が無くなったじゃん。補充しないとダメじゃね?」 


 縁石に座って水を飲み、空のペットボトルを置く啓太。

 昨日まで居た民家は断水し、雨水での補充も不十分。さらに食料も減っていては、補給の機会が欲しいところだった。


「丁度良いタイミングでコンビニがあるし。寄っていくか」


 雁来大橋を越えて進んできた中、初めて発見したコンビニ。周囲にあるのは僅かばかりの民家と、燃料補給に要されるガソリンスタンド。

 飲料と食料を補給するに、丁度良い機会であった。


「そうですね。少し休憩もしたいところですし」


 肩で息をしながら、賛同する美月。今日はここまで、かなりの距離を進んできた。

 それに先の、雁来大橋での戦い。屍怪との戦闘もあって、疲労が浮き彫りになっている者も多かった。


「休憩も兼ねて寄っていきましょうか。水と食料の補給もしちゃいましょう」


 後押しするハルノの発言もあって、コンビニへ向かうことに決まった。

 コンビニ前に並ぶのは、種類の異なる四つの自動販売機。駐車場に残される三台の車は、全てボンネットが開かれたままである。


「俺が先に行くよ。みんなは後から続いてくれ」


 己が先陣を切り、店内への入店。


「リンッ! リンッ!」


 扉を開けると同時に、頭上にある鐘の音が響く。


 屍怪は音に反応するはずだ。ならば出て来ても、おかしくはない。


 周囲に気を配り警戒心を高めるも、動く者の姿は何もない。

 店内に見えるのは、床に落ちた商品。多くの陳列棚で物は少なく、かなり寂しい状況となっていた。


 とりあえず屍怪は、いないようだな。


 安全と認識しては、全員を呼び込む。そしてそのまま各々に、店内を回ることにした。


「ショックじゃん! この週の俺勇おれゆう! まだ見てなかったんだよ!」 


 窓際の雑誌コーナーで立ち止まり、少年雑誌ショックを開く啓太。


「俺勇って。勇者なのに世界を救わないって話だろ?」

「そうそう。他にもワンパークに忍者の魂。読みたいのは、たくさんあるじゃん!」


 ショックの愛読者であるため、啓太の喜びは理解できるところ。

 啓太の横に立つと、ショックを自然と手に。二人揃ってパラパラと、立ち読みを始めてしまった。


「ちょっと! あんたたち! 何をやっているのよっ!」


 集中して読み始めたところに、響くハルノの憤りある声。

 飲料や食料を、補給しに来たところ。完全に本線から脱線しては、ハルノの怒りを買ってしまったようだ。


「おいっ!」


 肘で小突いて知らせても、読書に集中モード。お叱りを受けてもなお、啓太に気づいている様子はない。


「漫画なんて読んでいる場合じゃないでしょ! 早く必要な物を集めなさいよっ!」


 怒れるハルノによって、取り上げられるショック。事を諫めるには、元の位置へ戻すしかなかった。


 …………ん!?


 ショックを雑誌コーナーに戻したところで、外の景色に違和感を覚えた。

 先ほどまで自分たちがいた、道路上。そこには何か、大きな黒い影がある。


「蓮夜さん。ちょっといいですか?」


 背後から美月の呼ぶ声が響き、反射的に顔を向ける。それでも様子が気になって、視線を一瞬だけ外へ戻す。

 すると道路上にあった黒い影は、どこへ行ったか消えていた。



 ***



「今日はここで休憩にしませんか? 私もですけど、みなさん疲れているようですし」


 そう言う美月の顔に力はなく、商品を選ぶ彩加に葛西さん。二人もそれぞれに、疲労が見える状態だった。


「俺はいいけど。それならみんなを集めて、話したほうが良いかもな」


 話し合いの結果。今日はこのコンビニに、留まることに決まった。

 水や食料を詰めて運ぶにも、鞄には容量があり限度もある。さらに持ち運ぶとなれば、重くて負担。ならば留まり消費したほうが良いと、考えての判断だ。


「なあ、啓太。さっき窓の外に何かいたと思うんだけど。見たか?」

「ん!? なんのことだ?」


 ともに窓際で立っていたはずの啓太は、漫画を読むのに集中し気づかずとの話。


 でもたしかに、何かいたと思うんだよな。


 気がかりになっては外を見るも、道路上には何者の姿もない。

 しかしなぜだか、言いようのない不安が胸中で湧き上がる。それでも今はできることなく、みんなと同様に食料を探しに戻った。

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