第29話 店内探索3
陳列棚は、見える範囲。軒並み倒れちまったし。
ここは奥に進んで、外へ出るしかなさそうだ。
「あれだけ大きな音を響かせたんだ。屍怪が寄ってきてもおかしくない。十分に警戒して、奥へ進もう」
置かれた立場の悪さを自覚し、二人に注意喚起をして進む。
倒れた陳列棚と、散乱する商品。荒れた光景を横目に、五列目に六列目。懐中電灯の明かりを頼りに、店内中央付近まで来ただろう。ようやく普通に歩ける、広い空間までたどり着いた。
「マヨネーズにケチャップ。ここは調味料が置かれる列か」
陳列棚が倒れた直後。店内は大きな騒音と、揺れる振動に包まれた。しかし今では何事もなかったかのよう、不気味なくらいの静けさに戻っている。
屍怪がいるなら反応し、アクションがあるはず。つまり何もないとなれば、いないのではないか。そんな甘い考え、目論見になっていたのかもしれない。
「レジ前まで来たな。とりあえずは無事に、外へ戻れ――」
陳列棚の間を進み、迂回してレジの見える所。
外へ戻る道に注意を奪われ、店内奥への警戒が一瞬。疎かになってしまった。
「アァアアアア……」
背後から響く、不気味な呻き声。間隙を突くように現れたのは、緑のエプロンを着用した屍怪。
エプロンには、店のロゴマーク。加えて、赤き血痕。それは間違いなく、店員だった者だろう。
くっ……マジかよっ!!
気づいたときには距離も近く、刀を抜く暇さえなかった。
手を伸ばして、襲いくる店員屍怪。咄嗟に身を逸らして回避をし、勢いそのまま全力で背を突き飛ばす。
「気をつけろっ! 屍怪がいるぞ!!」
店員屍怪は陳列棚に、頭から突っ込んでいった。しかし店内には他にも、屍怪の姿があったのだ。
暗闇に紛れ、正確な数は把握できない。それでも店内奥から進行してくるのは、一体や二体ではないようだ。
「このままだと逃げ場を失う! 早く外に避難しねぇと!!」
陳列棚の間を進む二人に、急ぐよう要求。そこに倒れていた店員屍怪は、行く手を塞ぐよう立ち上がった。
店員屍怪が標的と定めているのは、後ろにいるハルノと啓太。前方に逃れた自身と異なり、二人に進む以外の道はない。
マズい。二人はあの屍怪を倒さねぇと、外へ逃げるのは無理だ。
だけど俺が倒しに戻っても、別の屍怪に道を塞がれちまう。
迫っている屍怪は、一体や二体ではない。倒しに戻っても、道を塞がれればジリ貧。
窮地を脱すること、叶わず。退路なき、最悪の状況となる。
「俺が道を確保しているから、二人でそいつを倒せ!!」
最善と思える手は、店員屍怪を倒すこと。しかし他を警戒しなければならず、自ら手を下すことはできない。
ハルノと啓太。ここは二人に、店員屍怪を倒してもらう他ないだろう。
「本当っ! 仕方ないわねっ!」
ハルノはナイフを構え、臨戦態勢に入った。
「いや、ここはっ! オレが殺るって! 不甲斐ない真似は、もうしねぇぞ!!」
そこに金属バットを持った啓太は、ハルノを押し退け前に出た。
「殺るしかねぇじゃん。殺るしかねぇんだろぉおお!!」
啓太は咆哮を響かせ、フルスイングで強打。店員屍怪の顔面に一撃を叩き込み、体を後方へ弾き飛ばした。
再び陳列棚に突っ込み、沈黙する店員屍怪。頬は窪んで沈み、目と鼻も陥没。血がドロっと流れては、完全に活動を停止させたようだ。
なんとか殺ったようだな。あとはこっちだ。
奮戦を横目で確認し、迫る屍怪と対峙する。店内奥から歩いてくるのは、裂けた腹から臓物を垂らす者。
体型はふくよかな感じで、服装はシャツにパンツと軽装。おそらくは、店を訪れた主婦だろう。
「後ろには引けねぇ!! ここで手間取っているわけには、いかねぇんだ!!」
屍怪の挙動に注意を払いつつ、漆黒に煌めく刀を抜刀。
「うおおおお――――ッ!!」
気迫を込めた叫びとともに、喉元へ向けて刃を突き刺した。
「カチッ! カチッ!」
喉元に刃が突き刺さりなお、口の開閉を続ける主婦屍怪。歩みは止まっても、動きは止まらずにいる。
息の根を止めるには、やっぱり……頭を潰すしかねぇんだ!!
手首を捻って、刃を上向きに。そのまま力を込め、頭部へ走らせる。
喉元から頭部までを、真っ二つに両断。裂かれた主婦屍怪は、倒れて地に沈んだ。
「外に急げっ!! 奥からも来てるぞ!!」
しかし、安堵する余裕はなかった。脅威となる屍怪は、一体ではないからだ。
警告を機に二人は走り出し、先頭から最後尾へ。殿の役を担いつつ、店内を駆けて外を目指す。
「急げっ! 急げっ!!」
声を上げ、レジを通過。野菜が残るエリアを越え、一目散にただ外へ。
「大丈夫ですか? 店内から、大きな音がしましたけど?」
外に脱出したところで、待っていた美月の問い。
「啓太! 左を頼む!」
しかし答えている余裕は、今はなかった。即座に右に逸れ、啓太に行動を促す。
「了解じゃん!」
言葉足らずでも、悟った様子の啓太。左に逸れては腰を低く、体勢を整えている。
「よしっ! 押すぞっ!」
掛け声を機に、合わせて自動ドアを押す。
ゆっくりと閉ざされていく、自動ドア。ほどなく両の顔を合わすと、元通りに固く閉ざされた。
「ああ。なんとかな」
一段落したところで、美月に言葉を返した。
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