第27話 店内探索1
「よしっ! 行こうぜ!」
店内の探索をするため、スーパーマーケットへ。
「ああ。そうだ。蓮夜に一つ頼みがあるんだけど。いいかな?」
意気込み歩き出したタイミングで、声をかけてきたのは夕山だった。
「なんだよ? 夕山?」
「キャロリーメイトがあったら、持ってきてくれないかな? ストックが無くなりそうなんだよ」
夕山が欲しいと望むのは、黄色いパッケージが特徴的なキャロリーメイト。見た目クッキーに近しい、栄養調整食品である。
「なんだ。そんなことかよ」
屍怪に追われ、逃げ込んだビル。最初に集まった事務室に、三階の角部屋。どこの場所でも夕山は、キャロリーメイトを食していた。
「っつーか、夕山。キャロリーメイト。好きだよな。いつも食べている感じだけど。飽きないのかよ?」
思い返すとキャロリーメイトを食していたのは、今回に限った話ではない。
陵王高校の教室や、屋上など敷地内。場所を問わずに、食べる光景を目撃していた。
「全く飽きないよ。いつも食べているからね。と言うか、ないと嫌なんだ」
笑顔を見せ応える夕山は、お菓子を強請る子どものようだった。
「了解。見つけられたら、持ってくるよ」
外の見張りでは、入手は叶わない。店内探索へ行く身としては、発見できれば持ち帰るなど造作もないこと。
「頼んだよ」
夕山の頼み事を受諾し、再びスーパーマーケットへ。
停電の影響を受け、反応なき自動ドア。啓太と左右に分かれ、引いて入店を試みる。
「ハルノ。そう言えば、武器は弓のみだよな。店内は狭いはずだけど。使えるのかよ?」
入店する直前で、一つ不安要素に気づく。ハルノが所持するのは、遠距離武器の弓のみ。狭い店内を想定すれば、扱いが困難に思えた。
「そうね。なら蓮夜のナイフ。一本を貸してくれるかしら? 二本あったわよね?」
応えてハルノは、手を伸ばし言った。
「それは、いいけど。上手く扱えるのかよ?」
ナイフを貸すのは、問題ない。しかし扱えるかには、疑問があった。
「そんなの大丈夫よっ! だって、ぐっ……えー。まぁ、なんとかなるわよっ!」
ハルノは言葉を詰まらすも、かなり自信がある様子だった。
どこからそんな、自信がくるんだよ。
根拠の見えぬ自信に疑いを持つも、ここまで来て引き下がりはしないだろう。
「いいか。俺が先頭を行くから、後を離れるなよ」
ナイフを渡して、一つ釘刺し。
「了解!」
受け取ったハルノは了承し、店内の探索が始まった。
***
紙の擦れる音さえ、聞こえてきそうな店内。入店してすぐの場所は、野菜が売られるエリアだった。
しかし二週間を過ぎて並べられるは、黒く変色したバナナ。潰れたトマトに、カビの生えたニンジン。残される食材は全て、熟れ過ぎ腐敗していた。
「啓太。懐中電灯を貸してくれ」
「おっ、おう」
啓太から懐中電灯を受け取り、暗闇が支配する店の奥を照らす。
通りの中央に残されるは、ショッピングカートが一台。金属が光を反射しては眩しく、床には様々な商品が散乱している。
「やっぱり店の奥は、暗くて危なそうだな。まずは光が届く、窓際から見て回ろうぜ」
暗い店の奥は避け、光ある窓際から探索を始める。
左手にあるレジを通過し、窓際の陳列棚へ。
必要なのは、水と食料だ。手際よく探さねぇと。
雑誌コーナーと旅行用商品コーナーを過ぎ、突き当たりの冷蔵庫へ。
冷蔵庫には、酒に炭酸飲料。ミネラルウォーターに、お茶とコーヒー。多種の飲料が残されていた。
「飲み物はあるわね。それなら先に、食料を探さない? 持ち歩いての探索は、重くて大変そうだもの」
飲料の位置を把握したとなれば、食料の確保を先にとハルノの提言。
「そうだな」
飲料のみでは、腹を満たせない。そのため食料の確保を、優先させることにした。
店内を奥へと進み、三列目の陳列棚。そこに並べられるは、チョコレートにスナック菓子。バラエティ豊かな、お菓子コーナーになっていた。
「お菓子か。お菓子なら一応は、腹の足しになるよな?」
お菓子とは言え、腹を満たせそうな物。
「なら少し、持って帰ればいいんじゃね?」
啓太の発言が決め手となり、お菓子を持ち帰ることに決まった。
スナック菓子に、ビスケット。まずは腹持ち良さそうな物から、順に防災袋へ詰めていく。
「全然入らないじゃん。飲み物も入れないとだし。これじゃあ全員分には、足りないんじゃね?」
啓太の言う通り。お菓子を詰める作業は、予想外にも苦戦していた。
その理由は、袋の空気。予想以上に場所をとっては、多くを詰められずにいたのだ。
「無理に詰めると、破裂の恐れもあるしな。空気が入っていない物を、積極的に選ぼうぜ」
対策としては、空気ない物を選ぶこと。
「それだとチョコや、グミばかりになるじゃん。甘い物オンリーは、さすがに厳しいんじゃね?」
しかし、これまた啓太の言う通り。選べるお菓子が限定的になっては、選択権などほとんどないに等しかった。
「そういえばレジの近くに、バッグがあったよな? バッグがあれば、運べる量も増えるだろ。ちょっと行って、取ってくるよ」
レジの近くにバッグがあったことを思い出し、一人で取りに戻る。
バッグがあれば、選択肢は狭まらない。解決に一つ、有効な手段となるだろう。
十分な大きさだし。これで問題ないよな。
「取ってきたぜ。ほらっ」
持ち帰ったのは、エコバッグ二つ。一つをハルノに渡し、再びお菓子を詰めていく。
「でもお菓子ばかりって言うのも、良くないわよね」
お菓子を詰め続けハルノは、不満を漏らしている。
「まあ、体には良くないかもな」
食事がお菓子のみとなっては、栄養バランスは良くない。
となれば体調を崩し、健康を害す恐れも高まるだろう。
「それも、そうだけど。もっとまともな食事がしたい! そういう話よっ!」
ハルノが良くないと不満を漏らしていたのは、栄養バランスではなく食事の内容。
しかし先ほど言い振りでは、どちらとも判断できる。
ちゃんと理解して欲しいなら、重要な部分を省くなよ。
胸の内で愚痴るも、まともな食事がしたいのは同じである。
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