第26話 スーパーマーケット24時
現在は北区の市街地。北海道の心臓とも呼べる札幌駅からは、数キロ離れた。
しかし、まだまだ街の中心部。道沿いにはスーパーマーケットに飲食店と、様々な商業施設。市内においても、かなり発展した場所である。
「ぐうぅうううう」
静寂に包まれた街に響く、気の抜けた音。発生源は、己が腹部からだった。
「腹が減ってきたせいかな!? 鳴っちまって!」
指摘される前に、自発的に告白。恥ずかしさもあったが、すでに気づかれているだろう。進んでの、自白である。
「今がどういう状況だと思っているのよっ!! もっと緊張感を持ちなさいよっ!!」
そこにハルノから、手厳しい指摘が飛んでくる。
音を発生させることは、危険を高める行為。不要なリスクを背負わせては、屍怪を呼ぶ可能性を高めるだろう。
「どうしようもねーよ!! 腹が減っては戦ができぬとも言うし! 何か食わねぇことには!」
しかし生理現象となっては、制御もできず。たわいのない事象から、痴話喧嘩に等しい言い争いに発展した。
「まあ。まあ。二人とも落ち着けって。腹は減って当然じゃね? 多分。もういい時間じゃん」
言い争いを見兼ね、仲裁に入る啓太。
「そうですね。展示会に行って、移動もしましたし。昼食時も近いのではないでしょうか?」
美月は今までの経緯から、時刻の推察をしている。
「そう言われてみると。少しお腹が空いてきたわね」
二人の話しを受け、意見を一転させるハルノ。
全く。ならさっきまでの言い争いは、なんだったんだよ。
不満を抱えつつも、言い争いは自然と終了。
「丁度良いし。あそこに寄って行こうぜ」
支柱に掲げられるは、【スーパーマーケット24時】と書かれた看板。
黄色い塗装が目立つ平屋。小ぢんまりとした雰囲気の、スーパーマーケットが現れた。
「そう言えば水や食料も、かなり少ないじゃん」
防災袋を持つ啓太は、残りを確認して言った。
シェルター生活を乗り切るため、配られた水や食料。地上に出てからの分は、もちろん考慮されていない。
「そうね。そうしましょうか」
水や食料が僅かとなっては、ハルノも首を縦に振り賛同。
他の全員にも異議はなく、スーパーマーケットへ向かうことに決まった。
「一応。店内の様子を覗いてみるか」
窓に近づき、店内を拝見。手前にあるのは、雑誌コーナー。対面する棚には、歯ブラシにシャンプー。旅行用商品が並んでいる。
「停電とか最悪じゃね? 暗くて、ほとんど見えないじゃん」
隣で窓に張り付く啓太は、店内状況に文句を言っている。
街は停電。確認できるのは、光差す前方のみ。そのため奥はかなり暗く、見通し悪い状況になっていた。
「とりあえず、屍怪の姿は見えないな。水や食料は必要だし。店内に入って、探索しようぜ」
スーパーマーケットに入っての、探索を提案。
「マジかよっ!? 蓮夜!! 店内に屍怪がいたら、どうすんだよっ!?」
しかし屍怪の存在を危惧する啓太は、店内の探索に乗り気でない様子だった。
「僕は蓮夜の意見に賛成だね。姿が見えないなら、必要となれば行くべきだよ」
続き発言する夕山は、探索に積極的な姿勢。
「啓太。あまり考えたくはないけど。こんな事は、これから先。何度も起こるはずだ」
普通。安全。日常。既存の概念が、崩壊した世界。
「屍怪がいる世界。リスクなしでしか動けないなら、それは何もできないのと同じだろ」
約束された安全。それは、今。何よりも、難しい話だった。
「そっ、それもそうか」
説得に応じ、納得する啓太。
美月とハルノに異論はなく、スーパーマーケットの探索が決まった。
「ここから先は、二組に分けよう。店内を探索する組と、外の見張りをする組に」
スーパーマーケット入口に着き、振り返って全員に提案。
「店内はもちろん。何があるか、わからない。けど外でも、異変があるかもしれないからな」
店内のリスクが高いのは、当然。屍怪が潜んでいる可能性は、否定できない。しかし外での有事にも、備えなくてはならなかった。
全員で探索という、手段を選択した場合。店内が危険と判断したとき、外にも屍怪が出現したとなれば最悪。挟み撃ちとなり、逃げ場を失うからだ。
「それで、どう分けるかだけど」
問題は分け方。現在のところ近くに屍怪の姿はなく、見通し悪い店内のほうが危険なのは明白だった。
美月と啓太は、屍怪を倒していない。
ここは俺か、ハルノか夕山。三人の中から、行ったほうが無難か。
「僕はどっちでも構わないよ。探索も見張りも、造作もないことだからね」
分け方を思案していると、余裕ある態度で言う夕山。
「私は行くわ! 待っているだけなんて、性に合わないもの!」
次に声を上げたハルノは、積極的な姿勢をみせている。
「それならオッ……オレもっ! 行くに決まってんじゃん!」
震える声の啓太も、続き探索に志願をした。
「啓太。大丈夫かよ? 店内には、屍怪がいる可能性があるんだぞ」
先の一件において。迫る屍怪に対し、啓太は止めを刺せなかった。
店内に屍怪がいる可能性は、否定できない。となれば、対峙する場面も想定。啓太に関しては、不安要素も大きかった。
「さっきは不甲斐なかったけど。オレだけ逃げたままじゃあ、終われねぇじゃん」
己が手を見つめ、決意を示す啓太。
啓太に行くという意志がある以上、その覚悟を無下に扱うことはできないな。
「わかった。それなら店内の探索は、俺とハルノに啓太。外の見張りは、美月と夕山。二人で頼む」
二人が意志を示したことで、店内探索をするメンバーは決まった。
そして外で見張りをするメンバーも、自動的に決まった。
「わかりました」
見張り役と決まった美月は、問題なく了承。
「了解」
続き了承した夕山は、少しつまらなそうな顔をしていた。
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