第3話 女子フットサル同好会の巻!!!!!
その後、俺は廃人のように過ごし、早1か月の時が過ぎた。
それほどの期間サッカーボールに触れなかったのは、分娩室以来だろう。
「はぁ……」
とりあえず学校に通うだけの日々。自分が生きているのか、死んでいるのかさえ分からなかった。
「ねぇ、君って梅田裕章くんだよね?」
突然声をかけられる。
美少女だった。
「そうだけど」
「ねぇ、君、サッカー部クビになったんだよね?」
「そう、だけど」
なんだこの美少女、的確に胸を抉り取ってきやがる。
「じゃあさ、フットサル同好会入らない?」
「フットサル?」
フットサルとは、5人でプレーするサッカーの縮小版みたいなもの、ということにしておく。詳しいルール説明や違いを説明するのは面倒だから。
「フットサル同好会なんてあったのか……」
「そうなんだよね。私は部長の榎田(えのきだ)遥香(はるか)。ミス古野(この)高校の昨年度グランプリだよ」
「なんだか自己主張の強い自己紹介だな……」
「事実だからね。どうかな、フットサル同好会」
正直、俺は揺れていた。フットサルは縮小版サッカーみたいなものだ。そういうことになっている。
フットサル同好会に入れば、またサッカーボールが蹴れる……凄まじい誘惑だ。正直、もう3分の2は入ってる。
「何か裏があるんじゃないか、そんな美味しい話……」
「あはは、無いよ。だって梅田君サッカー上手だし。ああでも、一つだけ」
ほら、やっぱりあった。調子の良いこと言って、俺に高い壺でも買わせるつもりなんだ。分かってんだぞ。
「うちの同好会、女子部なんだよね。男子禁制なの。だから梅田君には女装してもらわないと」
「うヴェぇ!?」
「大丈夫。梅田君、美少女顔だもん。女装いけるよ。なんなら普段も男装……っていうか、男子の服着ているだけの女の子にしか見えないし♪」
気軽に♪とかつけてんじゃねぇよ! 文体軽くなるだろうが!!
と、ツッコミたい気持ちもあったが、それよりも女装しろと言われたことの方が気になっていた。
確かに俺は美少女顔だ。中学の時にふざけて、「美少女でーす、ははっ、違うかー」みたいなことを言ったら、長年一緒だった友人から「違わねぇよ」とクソ真面目な顔で言われたことを思い出す。
「い、嫌だ! 女装なんて!」
「うん、そうだね。女装なんかしなくていいよ。ちょっと女の子の服着るだけだから」
「それが女装って言うんだ!」
「女装じゃないよ……いや、なんだったらこのままでいいや。自分を男の子だと思い込んでいる女の子って設定でいけるし」
「ヴェエエエエ!?」
「よぉし。じゃあそういうことだから……早代(さよ)ちゃーん」
「はぁ~い」
甘ったるい声が響く。
と、榎田遥香に呼び寄せられ、小動物のようなちっこい女の子が走ってきた。
「早代ちゃん、こちら梅田裕章君……いや、今日から梅田ヒロちゃん」
「勝手に女の子っぽくすんな!」
「じゃあ、うめだ☆ひろちゃん?」
「それは寧ろ男!」
「じゃあ梅田ヒロちゃんで決定ね。こっちはゴールキーパーやってる登尾(のぼりお)早代(さよ)ちゃん」
「早代ですー! よろしくですぅ、ヒロちゃん」
勝手に決定されたし、それで話進んでるし……!!
「って、ゴールキーパー? こんなに小さいのに」
「あはは、大丈夫。早代ちゃんはフットスキルのストリームパンチを持ってるからね?」
「……は?」
「早代はぁ、パンチングの時に衝撃波を出してボールを弾けるですよぉ」
「……んん?」
「百聞は一見に如かず。早代ちゃん、ちょっとヒロちゃん拉致っちゃいたいから、一発かましとこっか♪」
「ハイですぅ~♪」
だから♪は文体が軽くなるからやめろって……って、登尾が拳を構えている!?
「ああ、ヒロちゃん。うちのフットサル同好会では名字呼び禁止ね。だから私のことは遥香かそれに準ずるあだ名。早代ちゃんは早代ちゃんか」
「女王様がいいですぅ」
「女王様と呼ぶように」
見かけによらずヘビーなあだ名!!
「それじゃあ意識刈り殺すですねぇ♪ 必殺ぅ★」
言ってること物騒だし、星はなんか黒く感じる!!
しかし、大丈夫。俺はサッカーのルール以外の攻撃は喰らわない……!!
「ストリーム、パーンチ★」
「ゲボグハァアアア!?」
俺は凄まじいほど吹っ飛んだ。教室の端から端まで。
痛い、腹が、内臓が潰されたように痛い……!? こんな、サッカーのサの字も出てこないような場面で……!?
「ヒロちゃん、貴方のフットスキルは確かに強力だよね」
榎田……えの、え、ぁ……はる、遥香の声が聞こえてくる。なんだ、思考が乱されて……!?
「でも、私とは相性が悪いかな。私、榎田遥香の持つフットスキルはルール・メイカー。私が定めたルールが絶対なの」
「ボスがルールだと言えば、ヒロちゃんにとっての日常はサッカーのルール内になるですよぉ」
はr……ボスの説明を女王様が補足する。ああ、駄目だ。呼び名も改変されている。
「にしても、一発で意識が飛ばないなんて強靭な精神力だね。もしかしたらヒロちゃんはサンドバッグ以外のフットスキルを持ってるのかも」
「何その嫌な名前……!?」
「ボスが名付けたですよぉ。サンドバッグになるからって☆」
「もう、本当、最低!!」
思わず女の子みたいな悲鳴を上げる俺。なんなのこいつら! なんなの女子フットサル同好会!!!
「それじゃあもう一発。早代ちゃーん」
「はぁいですー☆ じゃーあ、今度は早代のもう一つのフットスキルぅ……」
女王様はそう言いつつ拳を構え、
「ダークジェノサイダーでいくですぅ★」
「すげぇ物騒な名前来た!!!!!!!!!!」
「だーくぅ★じぇのさいだぁアアアアアアアアアアア!!!!!」
「最後の絞り出し方が本気すぎrウギャアアアアアアアアアアア!?」
そして俺は暗黒に飲み込まれ……日常を失ったのだった。
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