第2話 石油王登場の巻!!!!!

「な、何だってェー!!?」


 紀元先輩が叫んだ。

 というのも……20人からの猛攻を受けて尚、俺にはノーダメージだったからだ。


「甘いですね、先輩。俺はサッカー選手ですよ」

「だ、だからなんだ……!?」

「俺は今、ボールを持っていません。サッカーにおいて、ボールを持っていない選手にスライディングするといった、あからさまに足を削る行為は反則だ」

「だからなんだというのだ!!?」

「俺はサッカーのルール以外でダメージを受けないっ!!!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「な、なんだってー!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 20人の圧!!!!!!


「先輩たちの敗因はただ一つ……削る対象である俺にボールを持たせなかったことです」

「そんな、そんな理由で俺達の3年間が……」

「スライディングの練習したのは1年だけだし、なんなら3年目は始まったばかりだけど……」

「馬鹿野郎! 今そんな冷静な訂正はいらないんだよっ!」


 スライディング部隊の先輩たちが涙を流し、悔しがっている。


「先輩たちのスライディングは素晴らしいものでした。その情熱をサッカーにぶつけていれば……今頃……」

「同情なんか、いらないやいっ!」

「そーだそーだ!」

「おまえのかーちゃん、でーべそ!」


 駄目だ。ショックのあまり幼児退行してしまっている。正直見てらんない。


「失礼」


 と、そこに突然老紳士が現れた!


「私、極悪滅削ドリラーズというプロチームでスカウトを行っている者です」

「プロリーグ!?」

「皆さんのスライディング、実に素晴らしかった! 特にその殺意は中々得られるものではありません!  ぜひ我がチームに入りませんか!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 20人の圧!!!!!

 思わぬ申し出に沸き立つ先輩たち。よかった、ハッピーエンドみたい。


「それでは早速利き足を切り落として義足にしましょう。攻撃力が増しますからね」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 何か不穏な言葉が聞こえたが、スカウトマンに先輩たちが連れていかれ、一気にグラウンドが静かになる。


「さぁ、紀元先輩。話は終わりですか」

「くっ……このサッカーバカめ……!」

「それは褒め言葉ですよ。先輩もバカになれれば、こんなこと……」

「だがまだ終わっていないッ!!!!」


 紀元先輩はニヤッと悪そうな顔を浮かべると、懐から一枚の写真を取り出した。

 そこには……なんと、コンビニで万引きをする俺の姿が映っていた!!!!!!!!!!!


「なっ……なんだそれはァーーーーッ!!!?」

「ふふふ……これを見せれば、お前は万引きの罪で退部必至だぁあああ!!!」


 嘘だ。有り得ない。俺は万引きなんて……ハッ!?


「ま、まさかアンタ……!?」

「くはははははぁっ! その通り!!!!」


 紀元先輩の後ろに並ぶ15人の先輩たちが、不意に眼鏡を掛け始め意味深にくいっと上げた。

 くそ……サッカー部の皮を被ったインテリ集団だったってわけか……!?


「こいつらには1年間、みっちりパソコン教室に通ってもらった……!」

「くそっ、どうりで見たことのない人たちばっかなわけだ……!」

「彼らが学んだのはアイコラ技術! 万引きをしている学生の顔にィ! 貴様の顔写真を張り付けてよぉ! プリントアウトすりゃあよぉ!! テメェは犯罪者に成り下がるってわけ、だよなぁーーーー!?」

「や、やられた……!!」


 その手があったかと俺は天を仰ぐ。

 サッカーのルール外からの攻撃には核シェルター並みの耐久力を持つこの俺だが、こういった情報戦にはめっぽう弱い。


「で、でも、先生方が気が付くはずだ! そんなもの、嘘だって!!」

「気が付かねぇよ。なんたってうちの高校じゃ、未だにパソコンは導入されておらず、あらゆる記録は炭で書いているくらいだからなぁ!」

「言われてみれば……!?」


 駄目だ、万事休す……!? こ、こんなことで俺の夢が潰されるなんて……!?


「ちょっと待った!」

「「だ、誰だ!?」」


 突然、知らない声が割り込んでくる。

 ハッ!? いつの間に上空にヘリが!? だ、誰か飛び降りてきた!!

 ターバンと白いなんか布っぽい服を着たこの人物は一体……!?


「だ、誰だテメェは!?」

「私は石油王」

「「石油王だとッ!?」」

「そのコラージュ技術、練り上げられている。至高の領域に近い。私の下で専属のアイコラ技師になり、世界中の美人女優の裸コラを作らないか」

「「「「「「「「「「「「「「「な、なんだってーッ!?」」」」」」」」」」」」」」」


 15人の圧……さっきよりも1人1人の声が出ていないのはインテリだからか。


「さぁ、エロは世界を救う! 差し詰め私が掘り当てた石油もエロに消費されるとなれば、地球の噴き出したおっぱいみたいなものだね!」


 石油王は高らかにそう言うと、アイコラ部員15人を吊り上げてヘリで去っていった。

 残されたのは紀元先輩と俺のみ。


「ま、まぁ、目的は達成されたしな」


 いや、そう言って先輩は去っていったので俺だけになってしまった。

 そして俺はもう、サッカー部ではない……。


「おい、どけよ元サッカー部。グラウンド片付けられねぇだろうが」


 整備道具を持って帰ってきた先輩に追い払われるように、俺は情けなくグラウンドを後にするのだった。

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