先輩の横暴でサッカー部を追放された天才ストライカー、女子フットサル同好会に吸収される ~戦力ガタガタになったから戻って来いと言われてももう遅い。化け物みたいな連中に生殺与奪握られてるので~

としぞう

第1話 サッカー部、追放の巻!!!!!

 俺は梅田うめだ裕章ひろあき。サッカー一筋16年。休みなく身を粉にして練習に打ち込んできた。

 目指すは当然プロ選手。そして日本を飛び出し、世界で強豪プレイヤーたちと戦い、最高のサッカー選手になるんだ!


 と、ずっと、夢見ていた。


「さ、練習行こっ、ヒロちゃん」


 この化け物どもに捕まるまでは。




 話は2か月前、高校2年生になったばかりの頃に遡る。


「ムカつくんだよ、梅田テメェコノヤロウ……!」


 部活終わり、先輩たちに呼び出されグラウンドに行くと、真っ先に副キャプテンである紀元のりもと三平さんぺい先輩が因縁を吹っ掛けてきた。


「先輩、用事ってなんですか。わざわざグラウンドに呼び出して……1年生たちが片付けできなくて困ってるじゃないですか」

「うっせぇ梅田テメェコノヤロウ!」


 フルネームが梅田テメェコノヤロウみたいにするのやめてほしい。


「グラウンドは俺達3年生が責任を以って片付けるからいいんだよッ! オラッ! 1年生どもも見てねぇでさっさと帰りやがれ! 駄賃やるから肉まんでも買って帰れや!」


 紀元先輩はそう怒鳴り、1年生たちを帰らせた。

 言葉だけを見れば凄く良い先輩っぽいのだが、肉まんでも買って帰れと言う割に全員纏めて100円しか渡さないので逆に評価を落としていたりする。消費税入れたら1個も買えないし。


 そんなこんなで残ったのは俺と、3年生の先輩たち36人だけだ。


「梅田テメェコノヤロウ、なんで呼び出されたのか分かってんだろうなぁ……?」

「梅田裕章です」

「梅田テメェコノヤロウ、ちょっとばかしサッカーが上手いからってよぉ。先輩たち差し置いてレギュラーに選ばれるたぁ、どういう了見だぁ梅田テメェコノヤロウ!」

「もう梅田テメェコノヤロウでいいです」


 本当はよくないけれど、気になってしまうのでいいということにしておいた。

 さて、先輩が言っているのはどうやら先日のレギュラー発表で俺が選ばれたことに対するやっかみのようだ。


「言っちゃ悪いんですけど、当然だと思います。だって、俺が一番上手いですし」

「そんなの理由になるかよ!」

「え、ならないんですか……?」

「ならねぇよ! ウチのサッカー部のスローガン、知ってるよなぁ……?」

「ええ、確か『全戦必勝』だったかと」


 去年は地区予選1回戦敗退だったけれど。


「そう、全戦必勝だ。勝つ為なら何でもする。当然、フェアな範囲でなぁ……」


 勝つ為なら何でもすると言っても、決して対戦相手の弁当に毒を仕込んだりなんかしない。

 むしろ、試合直前まで凄腕のマッサージャーやフードコーディネーターを派遣し、万全の体制を整えさせる。

 それがこのサッカー部のやり方だ。


「だったら、上手い俺がレギュラーに選ばれることになんら問題はないのでは」

「大ありなんだよぉ! 理由は――」


 先輩がそう言いかけた瞬間、グラウンドにバンッ! と大きな音が鳴り響く。


「ちっ、ナイター照明がつきやがったか。お喋りはここまでだ! おい、テメェら!」


 紀元先輩の合図で、控えていた3年生の先輩方36人の内20人が出てきて、俺を取り囲む。


「ここにいる連中は、去年1年間、テメェの足を潰すためだけに準備を重ねてきたスライディング部隊ヨォ……」

「スライディング部隊!? 確かに、練習中なのにずっとスライディングしてる先輩方を見かけましたが……」

「他の練習をすっ飛ばしてひたすらスライディングやってたのさっ! 来年! っていうと分かりづらいけど、今年、お前がレギュラーになるって分かっていたからなぁ! 上手いしっ!」

「褒められてる!?」

「でもよぉ……3年は今年で引退なんだ。総勢58人いる3年生がヨォ……試合に出るべきだろうがぁ!」

「内20人、スライディングの練習しかしてないんですけど……」

「こいつらは捨て駒よ!」

「ひでぇ!」


 スライディング部隊の先輩たちの中にも初耳なのか明らかにショックを受けた顔をしている人が何人かいる。

 いや、でも、スライディングの練習しかしてないんだから途中で気付くだろ。


「さぁ、スライディング部隊! あいつの足を削ってやれぃ!!」


 紀元先輩は非常にもゴーサインを出す。

 困惑していたスライディング部隊の面々だったが、1年間俺の足を削るために備えてきた彼らにとって、ある意味ここが集大成の場面。全国大会決勝戦。最後のPK勝負みたいなものだ。たぶん。

 彼らは皆選手、いや戦士の目になっていた。その目に炎を灯し、ギラギラと俺を睨みつけ……走り出す。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ウオォオオオオオオオオ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 20人の圧!!!!!!

 彼らは容赦なく飛び込んできた。各々の右足で俺を貫くために……!!!


――ズガガガガアアアアン!!!!


 雷の落ちたような音がグラウンドに響き渡る。凄まじい砂煙が巻き上がり、そして――

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