第27話 バステリアの終焉①

「なっ!!履帯でこれほどの速度が出るだとっ!?」

10式の加速に先ほどまで静かだったムー陸軍の大佐が声を上げてしまった。


「この加速度は、この世界では標準とまではいきませんが、珍しいものでは無いですよ。この10式の売りはここからです」


『目標補足!各車自己判断で撃て!』


そして停止する事なく速度を維持したまま発砲。驚異の命中率を誇る10式は当然のように数キロ先の目標を粉砕する。

スタビライザーが付いていない前時代の戦車は必ず一旦停止して撃たなければ当たらなかった。


各車の砲が指向する先にある標的は全て当然の如く粉砕された。

『全弾命中!』


「まさかっ‼︎なぜ当たるのだ!?」

再びムーの大佐が声を上げる。


「次が10式の真骨頂、スローラム走行中の射撃です」


『各車、回避運動を取りつつ次の目標に備えよ』

一列に並んで進んでいた車列が蛇の様に形を変え進み出す。

しかし車長視線のカメラの視界は常に同じ方角を向いたままだ。


『目標補足、撃てぇ!』


10式の車列が発砲すると数キロ先の的が再び当然のように粉砕された。


「あ、ありえん!こんなもの反則ではないか!」


ムーの大佐が驚くのは当然だ。砲手の練度に頼る前時代の戦車では百発百中などありえないからだ。


実際10式の命中精度は反則レベルだ。


ムーの陸軍大佐は両隣に座る空軍海軍大佐によって強制的に席に戻された。


その光景に自衛官は苦笑いしながらも説明を続けるのだった。


その後も、自衛隊側による装備品の説明は続いたが結局ムー共和国軍の大佐三人はそれぞれの管轄の事になると興奮を抑えられず叫びながら立ち上がりほかの二人に戻される、を何度も繰り返した。


しかしC4I連接システムの時だけは三人とも立ち上がって叫んだため席に戻す人がいなかったため自衛官は苦笑いしながら自然に落ち着くのを待つしかなかった。



場所は変わり、舞台はカッシーム王国になる。


このカッシーム王国はバステリア帝国より西に900kmある諸島のうちのいくつかの島によって構成される島国である。

この国は魔法文明国家であり、且つ科学サイドと魔術サイドに対して中立を保つ永世中立国である。

人口は300万人程度、貿易と薬品の生産を主な産業としている。

街並みは魔法文明国家というだけあって、地球上のどの文明のそれとは異なる。

首都のある島は下町の建造物は中世レベルの外観であり、王城も一見石造りで中世の城に見えなくも無い。だが城は巨大な樹の上に建造されている。

そして夜景は眩い程に明るい。魔素をエネルギーとしたシステムにより町中には灯が灯されている。繁華街は白昼の様に明るい。


そのうちの一つ、珍しくも住民の多くが農民である島クナイ島に3人のCIA工作員が潜入していた。

この島は首都のある島の様に魔素をエネルギーとしたインフラシステムは張り巡らされていない。

島には五つの農村があり、そのどれも人口は400人程度であり村と村での交流はほとんどない。

この島を訪れるのは、米の買い付けに来た商人くらいだ。島唯一の港は様々な形、動力源をもった船が常に2、3隻入港している。過疎化してはいない程度の人だかりは常にある程度の島だ。


潜入自体は至って簡単だった。この国は貿易が盛んなだけあって様々な民族が出入りしている。ジーパンにTシャツでもなんの問題もない。

むしろ、東南アジアの様な気候であるこの島ではそうの方が適している。


チームリーダーのニコラス・ブレナーもまた半袖のTシャツにジーパン、サングラスというかなりカジュアルな格好をしていた。


ニコラスの容姿は金髪に鋭い目つき、ガッチリした体格と少々殺気が漏れ出てしまっている感じだ。


「本局か?こちらカッシーム王国潜入班のニコラスだ。至急課長に繋いでくれ」


衛星電話を通じて本局へ調査結果の報告をしているところだ。


『少々お待ちください』


電話の声の主もまたCIA局員である。

保留中を示す音楽が電話から流れ数秒経つと電話の向こうの声の主が変わった。

『おう、ニコラスか?どうした』


「調査結果の報告です。ビンゴです。」


『ほう、それは何よりだ、目標の潜伏先の状況は?』


「衛星回線で画像を送りましたが見れたでしょうか?」


『ん? ああ、今手元に来た。ふむ....これはまたなんと言うかゲリラ村だな。特にベトナムかそんなとこに良く似ている。しかもビーチか、木製の桟橋の先に帆船が数隻停泊しているな』


「実際に今この村にいる男は皆傭兵のようで、元いた住民は皆殺しにされたようです。只の農村をそっくりそのままゲリラ村にしてしまったという事ですね」


『ではなにか、現地政府もこの実態を把握していないと』


「おそらく」


『そうか、目標の動向などは掴んでいるか?』


「はい、昼間は村の中心にある洋館にこもっていますが、夜になると出歩いています。ですので、襲撃は昼間が妥当でしょう」


『なるほど、では最後に敵勢力の武装を教えてくれ』


「はい、敵は主にムー共和国製のサブマシンガンを持った兵と魔導師と呼ばれる特殊技能者によって構成されます。この魔導師はこの世界の中のランク付けでは下層のようで、攻撃手段は主に火球を飛ばす魔術のみです。これらは総数200名程度です」


『この世界でも武器の横流しは起こっているようだな、まぁいい。これで君たちの任務は完了だ。既定の地点で潜水艦が待っている。乗り遅れるなよ』



この一週間後の昼下がり旧バステリア帝国首都バルカザロスの港町と皇城の中間地点の大使館街にあるカッシーム王国大使館において。


「お待たせ致しました。お問い合わせ頂いた件についての回答なのですが、カッシーム王国がバステリア皇帝の亡命を受け入れたという記録は公式、非公式共に存在致しません。つまり、あなた方アメリカ合衆国の調査結果が事実であるとすれば彼らは不正に入国し、住民を虐殺しなりすましているという事です」


大使執務室での会話だ。背が低い少々脂肪の付きが良い白髪の老人がこの部屋の主であり、カッシーム王国の大使である。


「なるほど、それともう一つの方はどうでしょうか?大使」


「そちらの件ですか。本国からは『黙認する』だそうです。但し、作戦終了後の即時撤退が絶対条件です。攻撃開始から12時間経っても撤収しなかった場合は敵性勢力の侵攻として我が軍が全力を持って叩きにかかるのでご注意を。とにかくカッシーム王国としてはバステリア帝国を滅ぼすような国とは出来るだけ事を構えたくないという意向ですのでお互いに事を起こさないように注意しましょう」


「ご心配なく、我が軍の機動力はあなた方の想像の遥か上を行くでしょう。」

アメリカ側の代表は自信たっぷりの笑みで返した。

そしてその笑みに不気味なもの感じるカッシーム王国大使であった。



2020年8月1日 5:20 カッシーム王国近海


強襲揚陸艦ボクサー、ボノムリシャールを中核とする任務部隊“タスクフォース”は作戦開始直前であった。

水平線はすでに明るくなり始め夜明けが近づいていた。


それぞれの甲板上にはUH-1Yベノム4機とAH-Zヴァイパー2機が引き出されていた。

デッキ上にはUH-1Yがもう6機待機している。


発着艦スポットに引き出されたヘリは既にエンジンを始動させ、デッキの上はダウンウォッシュが吹き荒れていた。


「C中隊出撃用意!一小隊、搭乗開始!」

タクティカルベストを装備し、手にはM16A4ライフルを持った海兵隊員たちがローターの風圧でヘルメットを飛ばされないよう手で押さえながら次々と乗り込む。


「デニス大尉、頼んだぞ」


デニスと呼ばれた男はMEU C中隊 中隊長である。

身長は180cm程、全身筋肉に覆われた男である。既に40歳は越えているが全く衰えを感じさせない肉体である。

クロスボウタイプのサングラスを掛けていて目元の表情は読み取れないが口角から自信たっぷりであることは疑いようが無い。


「今回も完璧に任務をこなして見せましょう」


「明け方か...空中強襲にはもってこいの時間だな」


そう言いながら、太陽が昇ってくる方を見るこの男はMEU 歩兵大隊 隊長だ。そしてデニスの長らくの上官であり空中強襲の師である。


「そうですな、何より 朝のナパームの匂いは格別です」


「流石は私の一番弟子だ。よしよしよく分かっている。うむ良いじゃないか!あまりゆっくりしている時間は無いようだな。さぁ君仕様のベノムで任務を完遂して来い!」


この流れだとやはり大隊長の師は某ベトナム戦争映画の第1騎兵師団の隊長なのだろうか。


「それでは行って参ります。C中隊 出撃!」


そう言ってデニスはハイドラロケットとドアガンそして大音響スピーカーを装備した彼仕様のベノムに乗り込こんで行く。


「マイク!出してくれ!」


「了解しました。 発艦管制へサンダー1より離艦許可を乞う」


「サンダー1へ発艦管制より。離陸を許可する。上空の風速は5ノット、目標地点までの天候は全て快晴。絶好の空中強襲日和だ。貴隊の健闘を祈る。Good Luck」


「よーし行くぞ」

マイクがスロットルを上げるに連れてエンジン音が高くなる。

回転数がある点を超えたところでUH-1Yは甲板から離れ少しずつ高度を上げて行く。


隊長機が上がると次々と列機が上がる。


甲板脇で待機していたヘリも含めて全て上がると上空で陣形を組み目的地に向け前進する。


「大尉!どうぞ!」


差し出されたのは隊のトレードマーク入ったマグカップに入ったアメリカンドリップだ。


「おぉ!ありがとな!」


ヘリの機内はエンジンとローターが風を切る音で声が通らない。自然と声が大きくなる。


「大尉!目標の『ジェロニモ』ってどんな奴なんで?!」


「合衆国に殲滅戦を宣言したクソ野郎だ!」


「まじですか。そいつぁ、そいつのケツの○に○○突っ込んで○○○してやらなきゃ収まりませんな」


「そうだろ!俺らに喧嘩売ったツケを払ってもらうぞ。我々が指名されたという事はそういう事だ!」


「今回はいつもより張り切って行かねばなりませんな!」


機体のドアの外に目をやると総勢20機のUH-1Yベノムと四機のAH-1Zが鏃のように並んでいる。陣形があまりにもブレないため空中で静止しているかのようにも見える。


「そうだ!今回は観戦武官も断ったらしい。しかも大統領のテレビ中継監視も無しだ。一思いに暴れられるぞ!」



「大尉!あと10分で突入開始です!」


「そうか!敵の拠点がビーチ近くにある事は聞いているな?!」


「もちろんであります!」


「この海は随分綺麗じゃないか、サーフィンをしたら楽しいとは思わないか?」

ちょうど眼下に見える海の色は地球の南国のそれを思わせるような風合いしている。

そして透明度が高いのだろう、海中を泳いでいる魚の群れまでもがよく見える。


「では、サーフィンが出来るくらいビーチを綺麗にしなければなりませんな!」


「そうだ!これからビーチの大清掃大会だ!」


そういうとデニス大尉はヘッドセットを無線に繋いだ。


「隊長機より各機へ。最終確認だ。優先目標は『ジェロニモ』だ。ただし生死は問わん。そして目標はビーチにある動くもの全てだ!遠慮はいらん、躊躇ったら死ぬのは貴様らだ。戦場では慈悲など爬虫類のクソ未満だ。そんなものはアカどものケツにでもつこっんでしまえ!」


「大尉!突入五分前です!」


「よーし!ワーグナーをかけろ!」























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