第17話 この世界とは

ムー共和国海軍の潜水艦が国連軍基地に入港してから一週間後、貨物船でバステリア北方海域を遊弋していたムー共和国の外交官達は、国連軍新世界基地に上陸したのだった。

シャレル・ゴーラル技術官(24)彼は、外交官と共に専門家の目で相手の軍事力技術力を図る為に派遣されたのだ。

見た目は、青白く、短く切りそろえられた金髪、丸メガネといかにも部屋に篭ってそうな風体だ。そして、そんな彼は、技術者だからこそ基地に足を踏み入れてからは1人興奮気味だった。

「レナールさん!見て下さい。ジェット機ですよジェット機!」興奮しているシャレルの相手をしているのは、レナール・マクサー外交官、今回の使節団の責任者だった。彼は根っこからの文系なので、全くついて行けない。

「その、ジェットエンジンのどこが凄いのかね?我が国にも世界に誇るR-112戦闘機がいるではないか?あれは、翼竜などと比べ物にならないほど速いではないか」

理解してもらえないらしい...

「共和国でも、ジェットエンジンの実用化はまだまだ厳しいってレベルですよ!もし、実現すれば音速を超える事だって可能なんですよ!それだけでなく.....」

シャレルは一度語り出すとどうしても止まらない。どうやらオタク気質のようだ。

「分かったから、もう君は本当に兵器が好きだな。もう直ぐ向こうの外交担当者との会談か始まるから大人しくしていなさい」そう、彼らはこれからこの基地の総司令部の建物で距離的に一番近い在日大使館から急遽派遣された日独米英仏の外交官外務省職員達と会談するのだ。

一行は基地の中心にある、一際大きな建物に入れられた。

(これが前線基地って言うんだからびっくりだ)

レナールも文系とはいえこの規模の大きさには驚かされた。

40人ほどを収容出来そうな会議室に通された。一行は10人と小規模な使節団である為十分な広さだ。既に会議室には西側の参戦国の外務省職員達10名と仏英語の通訳、そして参加国の将官達5名が待っていた。

係の者に促されるまま、彼らと部屋の対にある席に座ると会談が始まった。

まず、、『United States 』と書かれた札のある席に座っていた国務省職員が話始めた。

「遠路はるばるご苦労様です。ムー共和国の皆さん。我々はこの新世界に飛ばされてから初めて対話ができるまともな国に出会い貴国にとても期待を寄せています。では、まず貴国の位置ですがこちらで間違い無いですか?」

そ言うと一枚の資料が配られた。それには見慣れたムー共和国と見慣れない5つの大陸と多数の島が書き込まれた正確な地図...と言うより寧ろ写真がカラーで映されていた。

「なっ!?」隣で声をあげたのはやはりシャレル技官だ。目を見開いて、その資料に食いいいるその手は震えていた。 そして、国連側の顔を見ると予想通りと言う反応だ。

「おい、シャレル君何がそんなに凄いのかね?」静かに耳打ちをする。

「これ多分航空写真ですよ、ムー共和国の軍事施設の場所が全部筒抜けになっていますよ」

へ?.....頭が真っ白になった。


「どうかなさいました?」国連側の外交官の声で現実に引き戻された。

「いえ、なんでも無いです。場所はそこで合ってますよ。続けてください」その場を繕う。外交屋なら狼狽えた所を見せてはいけない。

「そうですか、では続けます。これは宇宙から撮影した衛星写真です」

ウチュウ?エイセイ?は?

「それでは貴国と我が合衆国では距離は6000キロと言う所でしょか?まぁ、それはそうと、取り敢えず我々の世界について紹介しましょう。それでは資料用の映像を急遽制作致しましたのでご覧ください」

薄い大型のテレビのが運び込まれ、映像が流れ始めた。

地球の歴史から始まった。それは地球の誕生、古代文明の起源そして、歴史史上最多の犠牲者を出した二度の大戦、そして最後には核と言う危ないパンドラの箱を中心とした世界の均衡に至る。

そして次には地球全域の経済活動、産業の発展。最後に軍事力だ。

どの分野を取ってもムー共和国を凌駕している。特に注目すべきは軍事、技術分野だ。この世界においてムー共和国の技術力は抜きに出ている筈だ。少なくとも東洋世界と中央世界での魔術を持たない国ではどの国と比べても圧倒的だ。そして、その圧倒的な技術力で人口の劣勢を埋めていたのだが....彼らの資料によると我々のテクノロジーは80年前の代物か。港に停泊していた巡洋艦もあの小口径の主砲だけが装備じゃ無いという事も頷ける。

そして、再び相手方の声で自分の世界から現実に引き戻された。

「地球...いや、国連加盟国については分かって頂けたでしょうか?こちらはこの世界についての情報が圧倒的に不足してます。ぜひこの世界とムー共和国について教えて頂きたいのですが」

「それなら、ムー共和国については後ほど詳しい資料をお渡ししましょう。そしてこの世界については丁度大学時代に地政学を専攻していた物がいます。シャーロ!君が話しなさい」

シャーロと呼ばれた青年が立ち上がりこの未知の世界について話し始めた。

「それでは、僭越ながら。この世界について話させて頂きます。そもそもですが、我々ムー共和国もこの広すぎる世界全てについては把握しきれてません。まず、この世界の始まりまりを調べるについて、他国の文献を調べました。すると、全ての文献に共通して『転移』と言う記述がありました。現に我がムー共和国も300年前に転移して来ました。この惑星に存在する国は全て転移国家という事になります。なぜ、この様な事が起きているか原因は分かっていませんが。国立科学研究院の研究者が立てている仮説は、この世界自体が次元レベルでの不具合、歪みを吸収する為の空間では無いかという事です。まぁ、その辺は国交が結ばれてから専門家に聞いてください。

そしてこの星についてですが、まず我々が地域が東洋世界、今まで東洋世界はバステリア帝国とムー共和国が覇権を争いそして二国を中心に回っていました。まぁ、そこにいきなり貴方達が現れバステリア帝国はどうなるかはわかりませんが。東洋世界の他には 中央世界、西洋世界、パンゲア超大陸世界、北海世界、南海世界、魔神世界、死界、海中世界が存在します。それぞれの地域にはそれぞれの地域を纏める大国が2つから3つ存在します。 それら列強国は2年に一度世界大会議を開きこの世界のあり方や、支配領域について話し合っています。これに新たに参加する為には他の列強国にこの世界大会議に参加する資格があると認められる必要があります。 そして、この東洋世界にはありませんが、この世界に存在する国家の半分が我々が科学技術を極めている様に、魔術を極めています。」

『魔術』と言う言葉が出た瞬間地球側の人間達がざわついた。

「貴方達の歴史を見る限り魔術と言うものに触れた事が無いようですね。彼ら魔術国家にも様々なレベルがあり、バステリア帝国と同程度の文明の国家からムー共和国と同等の文明レベルまで達している国があります。そして、この世界の住人もまた多種多様でヒト種だけで無く、亜人と呼ばれる何かに特化した民族も多数います。これがこの世界の大まかなところです。基本弱肉強食の世界と思っていただいて構いません。

一つ言い忘れてました。唯一世界全域に支部を置く、世界新聞という組織があります。そこが発行する新聞には世界全域のニュースが載ってますが、数日中に貴方達の国にも支部を置くよう要求してくるでしょう」

『German』と書かれた札がある席に座っている男が立ち上がる。

「なるほど、この星について大まかな事は分かりました。魔術?ですかね。確かに我々からすればおとぎ話の様な話です。この世界における魔術の影響力は如何程なのですか?」

今度は、技官のシャレルが答える。

「そうですね、国にもよりますが、この世界でも最も魔術が発達している。神聖メルト皇国では、ムー共和国が科学技術で作っている物を全て魔術で作り出す事ができます。例えば、飛行機、動力源は言うまでも無く魔素、エンジンの仕組み自体はジェットエンジンに近いですが出力はレシプロエンジンと大差ありません。そして、魔力を感知して追いかける誘導弾、そしてレーダーなども存在します。軍事面だけで無く生活レベルもムー共和国とほぼ同等です」

次は『Japan』と書かれた札がある席に座っている男が立ち上がる。

「先ほどシャーロさんはこの世界は弱肉強食とおっしゃってましたが、ここ以外で今何処かで戦争が行われていたりするのですが?」

「それについては私、レナールがお答えしましょう」世界情勢についてはこの中で一番自分が詳しい。

「今現在交戦中なのは、まず、貴国とバステリア帝国、これが今現在一番大きい規模の戦いです。そして、世界の列強国は常に領土拡大を狙い小国に戦争をふっかけています。小国が一つ滅ぶ程度の戦いは日々何処かで行われていると思って下さい。特に新参の転移国家は狙われ易いです。今も既にバステリア帝国内で多数の諜報員達が貴国の情報を収集して戦争を吹っかけるべきか考えている所だと思います。これが一番不味いのですが、ここ数年列強国同士が直接戦争をしていません、これは唯平和というわけでは無く、魔術サイドと科学サイドの戦争が始まる兆候だと言われています。しかし、これはすぐという事では無く早くて5年後、遅くとも10年後と予想されています。原因はお互いの資源です。科学サイドは、魔術国家の領土に眠る石炭、石油、鉄、銅その他の鉱産資源。魔術サイドは科学技術国家の領土に眠る手付かずの魔素と魔石を欲しています」

「資源を巡っての世界大戦ですか。似た様な話は何処でもあるものですね。しかし、お互いが使わない資源ならば、鉱物を輸出するという手は無いのでしょうか?」

「そう上手くはいかないんですね。なぜなら、それぞれが興味が無い鉱産資源なのです、採取して安全に取り扱う技術がありません。それ故、輸出という事にはならないのです」

「それならば、お互いに企業や技術者を誘致し合うというのは?」

「以前そうした試みはあったのですが、それが侵略戦争のきっかけになった事件があって、それ以来は外部から専門家を呼ぶと言う動きはありませんね。とにかく、貴方方も大戦に巻き込まれる可能性は十分にあります。我々としても貴方達と手を結んで戦いたいですし、総力戦の準備をする事をお勧めしますよ」

「なるほど、それでは話は変わりますが、国交開設について話をしましょう。我々5カ国は現在この世界で国交を開く事に積極的な方針です。上からも可能ならば、国交を開いてこいと言う指示を受けていますので、貴国さえ良ければ今すぐにでも国交開設に向けて動くことが出来ますがいかがしましょう?」

「ムー共和国は我々に全てを一任されていますので、私としても早急に国交を開きたいと思います」

「それでは、1週間後貴国に使節団を派遣したいと思いますがよろしいでしょうか?」

「問題ありません」


こうしてムー共和国と日独米英仏は良好な接触を果たし、国交開設に向けて動き出すのだった。しかし、今回ムー共和国から得た情報は世界(旧地球圏)を大いに揺らす事となる。

とにかく、日独米英仏が一週間後にムー共和国に使節団を派遣することが決まった。

そしてもう一つ決まった事が有る。それはムー共和国が国連軍の対バステリア戦に観戦武官を派遣することにしたのだ。と言っても、今回の使節団に参加した武官を置いて帰るだけなのだが。


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