第16話 ムー共和国潜水艦 X-16号

人民解放軍陸軍の戦車部隊に所属する徐 雨少尉は司令部から受けた救援命令に従い、支援要請を出したロシア軍がいる地点に向け99式戦車3両の彼の小隊を走らせていた。

指定座標までは近く、10分も有れば合流できるだるだろう。しかも上空にはWZ-10攻撃ヘリ、なんの憂いも無く進むことができる。


WZ-10攻撃ヘリ どのようなヘリか想像つかない方もいるだろう。僭越ながら少し書かせて頂く。

WZ-10 設計思想はアメリカのアパッチやコブラなどと同じく、近接支援を目的としたものでやはり戦車に強い。見た目はAH-1 コブラに近く、細長いシルエットをしていて、コックピットは複座タンデム方式である。コックピット付近は12.7mm機銃に、風防は7.62mm機銃弾まで耐えられる。基本塗装はかなり濃いいグレー エンジングレーに近い色味となっている。機首には30mm機関砲を備えガンナーのヘルメットと連動して動く。さらに両脇にはスタブウィングを備えロケット弾、対戦車ミサイル、空対空ミサイルなどを搭載することが可能である。開発は中国企業の昌和飛機工業公司が中心となって行われたが、欧州の企業が協力している。エンジンもP&W社製となっておりそこそこ信頼性は高い。(だが、試験段階で一機が墜落)


「吕 洋列兵、新車の99式の調子はどうだ?」呂洋列兵は本車の操縦手である。

「なかなか良いですよ、今まで乗っていた88式が亀ならこいつは虎です」

「そうか、それは楽しみだ。では蟻にたかられた熊を助けに行くとするか。正面の丘を越えたら直ぐだ。宋 磊 列兵 、榴弾を込めておけ」

「了解です」99式戦車もまたT-90と同様に自動装填装置を有する。ボタン一つで装填が完了する。

「こちら孟虎1より二排(第2小隊)へ眼下にロシアのT-90とBMP-3が見えた。多数の騎馬と歩兵に囲まれている模様」

「了解した。どうだ、敵の航空戦力は見えるか?」

「目視出来る範囲にはいませんが、他の空域では竜が上がってきたという報告が有るので要注意です」

「了解した」

徐雨少尉はキューポラから身を乗りだし車長用重機関銃を構えた。

丘の頂点を乗り越えると、T-90 4両の周りに蟻のように群がっている敵兵が見えた。(BMP-3達はなんとか上手くやっていた)このまま突入すると敵の横腹を突く形になる。

(このまま突入するのも良いが、丘の上からの砲撃の砲撃方が同士うちの危険が少ないだろう)

「二排(第2小隊)全車停止!このままここから砲撃するぞ、全車榴弾籠め!」

僚車2両も停車し、砲身を動かし狙いを定める。

「妈的!(撃て!)」バステリアの兵達が密集していたところに撃ち込まれ三ヶ所大穴が空いた。さらに、99式の砲撃を皮切りにWZ-10が行動を下げ攻撃を開始した。ヘリと言えど攻撃ヘリだ、いくらマスケット銃で撃たれようがコックピットの風防に傷を付ける事さえ出来ない。とにかくこの場では攻撃ヘリは龍の様な存在なのである。

この小規模農場にいるバステリア兵達は攻撃ヘリの威力を味わうのは初めての様だ。彼らにとっては竜一匹現れたという感じだったのだろう。もちろん、機銃でも簡単には撃ち抜けない竜の鱗を弓やらマスケット銃やらで貫くことは出来ないが、数百の銃手が一斉に弾を放てば乗っている騎士の方が先にやられてしまう。

そう、竜数匹なら対応可能なのだ。だからその程度に考えていた。だから、WZ-10が姿を表すと、後方のマスケット部隊は律儀に正方形に密集隊形をとった。

もうこうなっては、効率よく刈ってくださいと言わんばかりだ。

WZ-10が誤射を防ぐため高度をギリギリまで下げたとき、密集体系のマスケット銃隊が発泡してきた。その数3000、コックピットの中は軽い金属音が響きわたる。しかし12.7mm重機関銃に耐えらる装甲を持つWZ-10は傷一つつかない。

今度は、WZ-10の番である。ガンナーは機首の30mm機関砲を選択し、ヘルメット連動の砲身を密集しているバステリア兵に向けトリガーを引いた。

一瞬でそこは一方的な狩場と化し、ロシアの戦車部隊に善戦をしていたのが嘘かのようになった。陣形も崩壊し、WZ-10に背を向け逃走を図る兵士も出るが、無論逃げられる訳もなく機関砲と対戦車ミサイルの餌食となるにだった。

「機長!次はどうしましょう?」

「次はT-90付近にいる騎馬を掃討する、誤射に注意せよ」

「はっ!」操縦桿を倒し機体をゆっくりと傾け、T-90の真上まで移動する。

「よしっ、やれ!」再び機首の30mm機関砲がリズムよく弾を撃ち出し騎兵を掃討する。



数分後、その農場の兵力は壊滅し、降伏し大人しく武装を解除し占領が完了した。農場の入り口付近で戦闘が行われたがため農場の施設本体にはダメージが無かった。それ故、管理舎の屋根の上にはロシアのスラブ三色旗と中国の五星紅旗が翻った。


この様な事案が航空機が圧倒的に不足するロシア中国担当域で頻発したため、司令部は方針の転換を迫られる事となるのだった。




時を少し巻き戻し、場所も写し 上陸作戦から2日後 バステリア帝国北方海域 の海中

そこを急遽派遣されたムー共和国海軍の潜水艦X-16号が航行していた。艦内にある計器は全てアナログでWW2の伊号やUボートといった数世代前のドン亀であった。

艦長 シャイル・レイダース少佐は圧倒的情報不足の中、未知の軍隊のど真ん中に送り込まれたのだ。4日前、通常のバステリア帝国艦隊の監視任務に就いていたが、定時通信で急遽バステリア帝国に宣戦布告をしさらに上陸宣言までした軍隊の情報収集を下令された。

『発 サライ鎮守府

宛 X-16号 潜水艦

貴艦ハ 現在ノ任務ヲ中止シ至急バステリア北方域ニ急行シ 所属不明ノ艦隊ヲ発見シタ場合ハ情報収集ヲ行イ報告サレタシ』


指定海域に到達して2日経つと言うのに一向にその艦隊を見つける事が出来ない。

(実は、国連軍の潜水艦に思いっきり見つかりバッチリと音紋を記録されている。いや、寧ろ五月蝿過ぎて最新鋭の潜水艦の耳を塞いでしまっている)

潜水艦乗りにとって思った様に獲物を視界に捉えれない事は日時茶飯事であるが、相手が未知の存在という事で艦内には緊張が張り詰めている。

「艦長!」聴音が何かを見つけた様だ。

「どうした、何かいたか?」

「はっ!本艦3時の方向の海上から推進音6、

どれもムー共和国軍にデータが有りません」

「何?推進音だと?間違い無いのか?バステリアは内燃機関を持ってないぞ」

「推進音に間違い有りません。これは、今回の作戦目標の監視対象では無いですか?」

「そうだな、気付いている様子はあるか?」

「いえ、特に怪しい動きは有りません」

「では、直接潜望鏡で確認するとしよう。総員戦闘配置!アップトリム10、ゆっくりと潜望鏡深度まで上昇するぞ」

「アップトリム10 ヨーソロー」艦が縦に傾き少しづつ浮上していくのが分かる

「なっ!本艦直上に何か投下されました!」聴音担当士官が慌てて叫ぶ。

東洋世界にはムー共和国の他に潜水艦を持つ国がない。それ故、他国は潜水艦の存在をよく知らない。だから、爆雷などが降ってくるとはか考えにくい。

コーン コーン コーン

「なんだ?この音は....もしや、本艦直上に投下されて物体から探信音が出ています!本艦の位置を特定された可能性が高いです!!」

探知されただと?こんな状況は今まででも一度もないぞ!潜るべきか?浮上するべきか?

ガーン 船体が何かに叩かれたかのように大きな音を発した。しかし何かが接触した訳では無い。何なのだ?

ガーン ガーン ガーン

「聴音!これは何か分かるか?」

「恐らく何らかの手段で洋上の潜水艦から発せられたものかと」

「位置はバレているか....どうすれば」

「さらに推進音2、洋上の艦隊の増援と思われます」

状況は悪くなるばかりだ

「艦長、浮上を進言致します!」声を上げたのは副長だった。

「このままでは、為すすべなく撃沈されます。追加の指令書にも対象国との接触もあったので問題は無いかと。それと、定時連絡の時に仕入れた情報なのですが、対象国のバステリアへのファーストコンタクトは外交目的だったそうです。話が通じない相手では無いでしょう」

「副長の言うことも最もだ、浮上しよう。メインタンクブロー!浮上する」


浮上して、艦橋に出て周りを見渡して見ると今まで見たことのない形をした灰色の船、巡洋艦クラスが7隻だが見る限り砲は豆鉄砲が一つ、多くても二つしかついていない。そして艦橋の大きい正規空母が一隻いた。軍旗は、赤い光を放つ太陽が描かれていた。

そして、内火艇が下され近づきながら知らない言語で呼びかけてきた。何と言っているのだろうか?

「キカンノショゾクトコクコウモクテキヲトウ」

いきなりムー語が聞こえてきた。(我々で言うところのフランス語だ)

「我が艦は、ムー共和国海軍第ニ潜水隊所属X-16だ。航行目的は、バステリア帝国に宣戦布告した国の調査及び接触である」

「当艦隊は貴艦が探す相手だが、どうされる?」

「貴艦隊の拠点に案内して頂ければ嬉しいが、無理なら貴艦への一時乗艦を希望する」

「了解した、司令部に問い合わせるので暫くお待ち頂きたい」


暫く待つと

「上の許可が出た、貴艦を歓迎するそうだ。潜行せずについてきて欲しい」

「了解した」


太陽を模した軍艦旗を翻す艦隊に囲まれて移動すること20時間、一度月が昇って、再び太陽が昇り真昼間であった。

双眼鏡を覗いていると水平線に島が見えてきた。さらに近づくとそれは要塞化された基地であることが分かった。 すると突然頭上を聞きなれない音を発する航空機が基地向かって飛び去って言った。

「艦長...今の飛行機は一体?」航海長だった。

「良くはわからんが、造兵廠の開発部門で見たジェット推進エンジンに音が似ているが...しかし技官よると耐熱材の問題で実用は厳しいらしい」

「それを彼らは実用化したと?」

「いや、断定は出来ん。音が似てはいるが少し違うからな。それより航海長、そろそろ入港のようだぞ。ほれ、タグボートが出てきた」

(まぁ、バステリアに上陸する様な国だからとんでもない国だとは思ってたけどな)

こうして、X-16潜 の一行は国連軍 新世界基地(Base New World)に入港する事となった。

陸に上がるとまず身体検査を受けた。担当したのは陸軍の部隊と思われる隊だったが、見慣れない軍装をしていた。まず、マダラ模様の軍服、多分これは迷彩効果を狙った物だろう。肩には国旗と思われる青、白、赤のパッチが付けられていた。我々を誘導した艦隊とは別の国家でフランスという。たまたま我々と言語が同じだったため担当しているだけらしい。そしてベスト、彼らが言うにはこれはプレートキャリアと言って、爆弾の破片くらいなら防ぐ事が出来るらしい。しかし、一番驚いたの彼らが持つ小銃だ。驚くべき事に全員が突撃銃を持ち、しかもそれは金属と、未知の材料から構成され、全てにスコープの様な光学機器が取り付けられていた。彼らはそれをファマスと呼ぶらしい。

そして、我々が基地に来てから引っ切り無しに航空機が行き来している。それのどれもムー共和国の物より速く、中には6発の爆撃機らしき見た事がない大きさの巨人機もいた。

しかし、軍艦だけは理解する事が出来ない。港に停泊しているどの船も、大した武装を持ってない様に見える。

この基地に来て驚く事ばかりだ。まるで、未来を見ている様だ。ムー共和国こそが科学文明国の中で最も進んだ国家だと思っていたが、そうでは無かった。

是非、対話を選んだ首脳部に賛辞を送りたい。


そして、ほどなくして我々はこの基地の指揮系統に接触する事に成功した。だが、我々の仕事はここまでだ。あとは、外交官を乗せた貨物船の現在位置を彼らに教え、連れて来てもらうだけだ。外交官達が仕事を終えるまではここでゆっくりさせてもらえる事になった。

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