第18話 『怒りの鉄槌』作戦

国連軍がバステリア帝国に上陸してから1週間後の国連軍、米英仏独日基地 Base New World

この日統括司令部に各軍の最高指揮官が一堂に会していた。

リボンラックに略綬を並べた常装に身を包む将官達は衛星写真や航空写真が並べられた資料を手に、大きなディスプレイの前に立つ参謀将校から次なる行動の概要の説明を受けていた。

「我々統合作戦本部はバステリア帝国が我々の存在を隠しきれなくなり、大々的に軍事行動を起こし始めた事を察知しました。お手元の資料8ページをご覧下さい」

それは航空写真であり、バステリア帝国の本国軍が集結して、移動しているのを写したものだった。

「こちらは、昨日の10時ごろグローバルホークが首都バルカザロス外縁の草原をとったものです。規模は2000万、航空兵力も3万程確認できます。そして、次のページをご覧下さい」

次のページも航空写真で、今度は集結した集団が移動しているのが分かる。

「こちらは、3時間後の13時ごろ撮影したもので、目的地はバステリア中央部、つまり我々の進撃ルート上に展開しようとしているものと思われます。さらに次のページを開けて下さい」

今度はバステリア帝国全域の地図で、常設の駐屯地と新たに集結した地点と兵力、移動ルートの予想などが書き込まれていた。

そして、現在バルカザロス付近を護っているのは首都防衛の精鋭と思われる120万のみだ。

「見ての通り向こうが、集まってくれたので、作戦はそろそろ最終段階に移行していいかと思いますが」

その時、ドイツ連邦軍のビュッセル少将が手を挙げた。

ジェネラルメジャー少将ビュッセルどうされました?」

「確か事前要項では、最終作戦発動前には首脳陣が降伏勧告の声明を出すんじゃなかったか。その辺の調整は大丈夫なのか?」

今までの事を鑑みてもこのタイミングで降伏勧告を出してもバステリア帝国が受け容れるとは到底考えられない。これは唯の政治的なショーの側面が強い。ただ一方的に殲滅戦をしている訳では無いですよ...という意味合い程度だ。もちろんかなりハードルの高い要求をする。ほぼ無条件降伏に近い。しかも皮肉なことにそれをバステリア帝国に伝え、世界に拡散するのは日本に降伏勧告をしに来たエーリッヒ公国なのだから。

「その辺については問題無いでしょう。国連安全保証理事会が3日後に開かれますから。この場で承認が得られ次第参加国に準備を促す予定です」

「分かった、続けてくれ」

「はい、それでは、大まかな作戦を確認いたします...」


こうして対バステリア戦はに最終段階移行する事が決定した。

『作戦名 怒りの鉄槌』と命名されたのだった。




一方、バステリア帝国の皇都ではニホン、アメリカへの対抗策会議ローデン元帥達の秘密裏の会議から皇帝と軍幹部、大臣達が参加する御前会議まで発展していた。

「ローデン元帥!蛮族に神聖なバステリア帝国の土を踏ませるとは何事だっ!」

今元帥を糾弾しているのはバステリア帝国独自のの宗教団体、レルヌフ信教の大司祭だ。レルヌフ教の大司祭は大臣と同等の扱いを受ける。この教団は代々の皇帝を神とし、教団の名前も初代皇帝からとったものである。

「大司祭殿、貴方も確かニホン、アメリカ討伐戦に反対はされませんでしたよね?」

ローデン元帥が返す。

「もちろんだ、神国に喧嘩を売った悪魔は滅するか改宗させねばならん。それと蛮族どもの上陸を許した事と何の関係がある?」

「盟国のエーリッヒ公国が日本に降伏勧告文書を届けに行ったのはご存知ですよね?」

「もちろんだ。だが、奴らは我々の慈悲すら拒絶したようじゃないか」

「その責任者のシェーク代将の報告書によると、日本という国の技術力はムー共和国を優に超え、経済規模では比べ物にもならないと書かれています。これがもし本当なら、我々はとんでもない化け物に喧嘩を売った事になります。ましてや殲滅戦を吹っかけるなど以ての外だった、という事です」

「ほう、何だ?貴様は神である皇帝のご判断を批判するつもりか?皇帝、この者の首を跳ねるべきでは?」

そう言い、当たり前の様に皇帝に斬首の指示を求めた。

「まぁ、良いではないか。ローデン元帥の事だ。何か考えが有るのだろう。申してみよ」

大司祭は思う通りの答えを得られずに悔しそうな顔をする。

「はっ、エーリッヒ公国の報告書と今までの戦果を鑑みて現在バステリア帝国のほぼ全ての兵力約8000万の800個軍団これを4個の集団に分けてを敵の進撃ルート上に展開させています。、これを以ってすれば普通であれば敵は跡形もなく消えるでしょう。しかし、今回については確証を持てません。そこで、我々には二つの選択肢があります。一つは、最後の一兵になるまで戦う、もし失敗した場合はこの世界からバステリア帝国が消えてなくなります。そして、もう一つ」

そういうと、ある資料を配布した。

「こちらは、本日の世界新聞の朝刊の一面です。エーリッヒ公国経由でニホン、アメリカとその盟国が国際連合という名で我々に講和を持ちかける声明を発表しています」

「この講和の条件は何だっ!?無条件降伏じゃないか!帝国の解体と占領を受け入れろだと!?屈辱だ!我々の総戦力を以って奴らの国を火の海にするべきだ!」

一番に激昂したのは、人民農業大臣だ。聞こえは立派だが、農奴を働かして利益をえる専門の機関のトップだ。

「農業大臣、素人の貴方でも分かるほど切迫した状況のはずですが、ご理解頂けませんか?ここ数日、この帝都の上空に敵の巨大な飛行機械が飛来しています。あまりにも高過ぎて我々にはそれを止める術すらが有りません。つまり、空は敵の手に落ちているも同然です。今私がしているのは帝国の存亡を賭けた話をしているのです」

次に、国務大臣が手を挙げた。

「元帥、貴官の言うことは分かる。もしここで彼らに譲歩した場合、今まで力で押さえつけていた近隣諸国や帝国内少数民族が一斉に叛旗を翻したりはして来ないかね?」

「何の手も打たなかった場合は間違いなく、講和が成立しても内部崩壊するか近隣の国々に攻め滅ぼされるでしょう。何せ、総兵力の1/5を既に失っているのですから。奇跡的に講和が上手く行ったとして近隣諸国は我々の手から離れ、ニホンやアメリカ側に付くことは明白です。軍部の味方は、講和を選ぶとしても大方反乱で国が滅ぶないし大幅に領地を失うと見立てています。また、現在のバステリア帝国は経済活動が大きく低下しているので長期の継戦能力は失われています」

「ローデン元帥よ、このまま戦い続けたらどうなる?」皇帝が口を開いた。

「はっ、このまま戦い続けたら場合を今までの戦果とかき集めた情報を元に100回机上演習を行いました。ただ、絶対的な情報不足のため信頼性には欠けます。結果は2勝98敗で内、28戦は2ヶ月でバルカザロスが灰塵になっています」

絶望的な数字にその場が静まり返った。

「2ヶ月....勝つ見込みは薄い....か。して、敵の進行はどの程度進んでいるのか?」

「はっ、本土中央部の南北から上陸した敵は1日で地域の総督府を陥落させ、その後本隊はどうやら東進しているようです。中央部以西は解放した農奴と国内に潜伏していた少数民族と協力して侵攻しているようです。現在、陥落した農場は全体の4/7、解放された農奴は約7億3400万人。東進していた本隊はここバルカザロスまで馬で1週間の位置まで来ていましたが2日前に突然侵攻が停止しました。恐らく、内部で何らかのトラブルが発生したものと思われます」

恐らく次、皇帝が口を開けばこの国の運命が決まる。その場にいる一同は固唾を呑んで皇帝の方を向く。

「我が帝国が東の蛮族相手に苦戦しているのはよくわかった。しかし、これまでバステリア帝国は幾度の苦難を払いのけ東洋世界1の国にまで成りあがった。これも、天が与えた試練に違いない。余は蛮族にこの栄えあるバステリア帝国が屈する事は認めん。今ここに、この地を汚した不浄の輩を殲滅する事を宣言する。各人各々の仕事を全うし、共に苦難を乗り越えようぞ」

この後直ぐに御前会議は解散となり、大臣たちはそれぞれの仕事場に戻っていった。

この時ローデン元帥はこの皇帝の聞こえはいいが実際のところ国民の命よりも自分の見栄と命を優先した決断に少しばかり失望した。そして、メイリア秘書官達ニホン・アメリカ対策課がいる軍務省の一室に戻り、4人でエーリッヒ公国にいるある人物と連絡をを取った。


その日の世界新聞の一面の見出しは

『バステリア帝国 講和視野に無し 「東の未開地ニホンとアメリカと追従する勢力は火の海になるだろう」と殲滅戦を宣言』であった。この知らせはムー共和国とエーリッヒ公国を通じて、地球圏の国々にもたらされた。

その他、この世界に存在する列強国の一部はこの戦いに興味を示した、だが残念な事に国交があるバステリア帝国は劣勢である事が判明、優勢であるアメリカ、日本とは国交が無く観戦武官を派遣するわけにもいかないのでバルカザロス沖合に共同で船を出し観戦武官を派遣するのであった。


2020年7月8日水曜日

対バステリア戦最終フェーズ『怒りの鉄槌作戦』決行まで2日 国連軍 新世界基地では出撃に向けて準備が着々と行われていた。基地の中心部にあるアメリカ軍司令部兼統合作戦司令部の建物の一室で最終シュミレーションが行われていた。

オペレーターらしき女性がモニターに合わせて淡々と動きを確認して行く。

「当作戦の火蓋は、沖合の艦艇からの巡航ミサイルに依る陸上で待機している敵航空戦力の打撃となります」

モニター上に日米英仏のミサイル駆逐艦が陸上の竜騎兵に向かってミサイルを撃ち込むアニメーションが流れる。

「これを皮切りに、合衆国空軍のB52-H戦略爆撃機36機とB-1B戦略爆撃機24機がF-16戦闘機 F-15戦闘機を同数を伴いMk-82通常爆弾を用いて4集団の内米英仏日独担当エリア内の2集団の敵陸上戦力を同時に打撃します」

ディスプレイには攻撃機目標の位置がサークルで表される。

「これらの残敵は既に地上にて待機中の英米仏独地上部隊と当基地に配備されているA-10近接支援攻撃機50機、トーネード戦闘機攻撃機23機によって掃討します。

この先制打撃のタイミングは中露と合わせ、中露もTu-160戦略爆撃機、H-6戦略爆撃機を以て敵陸上戦力を叩きます」

南部から飛びだち爆撃する流れが矢印で表される。

「バステリア中央部の敵主戦力の全滅判定が出た後、バステリア帝国首都バルカザロスを海上戦力が豊富な日本軍、アメリカ軍で強襲します。この時、空挺部隊は固定翼機にてバルカザロス西部の平地に降下。ヘリボーン部隊は直接皇宮を強襲・奪取。強襲揚陸艦からの上陸はバルカザロス北東部の砂浜から上陸します。そして海上からの上陸にあわせて戦艦ニュージャージーとミサイル艇20が湾内に突入し湾内の敵艦艇を殲滅、無力化します。このエリアの制空権奪取、近接航空支援に3個空母打撃群と当基地から、AC-130ガンシップとF-2支援戦闘機が出動します」

次にディスプレイにはバステリア帝国の10の中域都市がマークされた。

「次はバルカザロス以外の都市、と制圧、占領についてです。バステリア帝国にある10の地方都市の内2つは総督府を陥落させた際に入城こそしてませんがいつでも制圧は可能な状態です。バステリア中央部以西は現地人協力者の部隊が我々の航空支援の下で都市、総督府を襲撃します。それ以外の地方都市については独、仏軍が制圧。以上が『怒りの鉄槌』作戦の流れです。現在、作戦準備は予定通り滞り無く行われています。何か確認がある方は?」

問題ない様だ。

「それでは、これで最終確認を終了します」


2020年7月10日早朝

新世界基地の3本の滑走路と誘導路にはB-52HとB-1Bが列を成して出撃の時を待っていた。






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