第13話 オーバーロード作戦
バルカザロス上空に向け西進する7機の機体、普段ではあり得ない編成であった。右端から仏空軍ダッソーラファールB、独空軍ユーロファイタータイフーン、英空軍トーネードGR.4、米空軍F16、空自F2、露空軍Su-25、中国空軍J-11が横一列に並んで、一見すると航空ショーか何かのようだ。
「メールキャリアより各機へ、目標上空まで3分各機投下姿勢へ」
「Bien!」「Okay!」「Rager!」「了解!」「Хорошо!」「理解!」
眼下にバステリア帝国の皇城と軍艦が並んだ湾、そして帝都バルカザロスが見えて来た。水平線の数十キロに渡って建物が並んでいる。巨大な都市だ。そして帝都のファンタジチックな光景には不釣り合いな7機の甲高いジェットエンジンの爆音が鳴り響く。
「レディ....プロップナウ!」7機が一斉に落とした物は爆弾の類では無い。古典的で殺傷能力など0であるが、7機が落とせる爆弾よりも破壊力のあるものなのかもしれない。それは、"ビラ"である。ドロップタンクを改造した物を投下し、それは空中で2つに分裂しその中に詰め込まれた大量の紙がばら撒かれる。数万枚のビラが空にまい紙吹雪のようだった。ビラと言えば降伏、投稿を呼び掛けるものが多いいが、それは降伏を呼びかけるものなどでは無い。内容はこうだ。
『在バステリア帝国の外国籍人へ、国際連合軍は48時間後にバステリア帝国への上陸作戦を開始する。国外退去を勧告する。バステリア帝国の付近の海域を航行する場合甲板、帆に【N】(:中立の意)の字を描く事。印なき場合の安全は保証しない』内容自体は大した事ないが、翼に描かれた識別マーキングを見せつけ、このビラをばら撒くことにより、国内の混乱を狙ったのだ。そして、戦後の国内外からの批判も回避出来る。これで不審な武装船は片っ端から臨検し、最悪沈める事が出来る。一石いや一紙二鳥だ。
「おぉっと、お伽の国からドラゴンのお出迎えが来たぞ。おお、こわいこわい。喰われる前にとっとと家に帰るか」下から竜騎兵が続々と上がって来ている。首都防衛のためのエリート部隊なのだろうか。他の竜騎兵とは異なる兵装をしている。そして上昇力が一段と高い。
「ジェット機に追いつく気かよ。上からフレア撒いて焼き鳥にしてやろうかハッハッハッ」Su-25のロシアパイロットだ。
「よーし、仕事も終わった事だしドラゴンに落とされたんじゃ笑いものだ、落とされる前に帰るか。特別任務部隊解散だ。それでは御機嫌よう」
「全く、アメリカ野郎は解散まで適当だぜ」スクランブルでしか出会わない仲だ、当たり前に仲は悪い。ここに至るまでもインカムで喧嘩を始める始末だ。
とにかく、当然のごとく迎撃を振り切り特に何事もなくあり得ない攻撃チームは無事任務を達成して各方面の基地へと帰投して行った。
それからのバルカザロスの中は混乱の極みだった。普段からやり合っているムー共和国の飛行機械さえ帝都上空に現れた事がなかったのだ。帝都にいるこの世界の列強の大使館員達は逃げるべきか逃げるべきでないかであたふたし、海外の商人達は我先に少しでもバステリアから離れようとし、それらに紛れて国外脱出を図るバステリア市民、そうかと思えば全く気にも止める様子のない市民、役人、貴族など反応はまちまちであった。
そして、前話で登場した4人は当然ながらかなりのショックを受けた。降って来たビラを掴みその内容を読んで課長2人は叫んだ。
「まずいっ、元帥っ!今すぐにでも軍を動かさなければ間に合いません」
「そうだなシュメック君。すぐに各地の総督府と駐屯地に連絡をしよう。48時間で上陸作戦を開始する....か 確か襲撃を受けた収容所は南北の沿岸だったな。南北の沿岸にとりあえず100個軍集団1000万ずつ配置しろよう、ギリギリ2日で配置できるだろう。メイリア君、シュメック課長、サモン課長君達は先に軍務省に帰って通信球で軍団の移動を部隊に通達してくれ、私は皇帝に裁可を戴いて来る」
「はっ!任されました」そうして各々は各自の目的地へと急ぐのだった。
バステリア帝国上空を未知の国の飛行機械が突っ切った事は間も無く世界が注目する事となった。
ムー共和国 国防局 情報作戦統合司令センター
ここはムー共和国の作戦の立案と情報の収集分析を行うムー共和国の軍事の中枢の部署である。第二次世界大戦後期レベルの文明であるこの国の情報の中枢は機械がかなりの数並んでいる。そこに第三国の大使館を通じて敵対しているバステリア帝国の帝都の空を謎の飛行機械がビラを撒きながら飛んで行ったという報告が暗号電で送られて来た。
情報将校のケルン・ターレット中尉(24歳)彼が1番にこの暗号電に目を通した。彼は2年前にムー共和国一の難関大である国立ムー大学を卒業し、国防局に入局。その後に今に至るまでエリート街道をずんずん進んでいるエリートなのである。彼の丸眼鏡がその経歴を納得させる。
「なるほどなるほど、宿敵バステリア帝国に上陸作戦を宣言した国がいると」これは参謀長に報告せねば!通信書を持って廊下を走り参謀長の部屋に向かった。
「参謀長!これを見てください一大事ですよ」そう言いながら通信書を差し出す。
「全くケルン中尉、元気がいいのはよろしいが、ちょっと落ちつきなさい」そして机の上に置かれた老眼鏡をかける。
「ほう、これは興味深い。その未知の国とやらを特定したいが、あと48時間始まってしまうのか。うーんどうしたものか...作戦会議だ。参謀を招集しろ」立ち上がり作戦会議室へ向かう。
10分後、参謀の全員が集まり会議を始めた。バステリア帝国の近くを正確に記載された地図を囲んで20人の参謀が座っている。
「そもそもビラに書かれていた国についての情報は無いのですか?」
「誰も聞いた事ないだろう」
「これは情報を集めるチャンスじゃないか?」
「潜水艦を派遣するか?」
「甲板に【N】書いて駆逐艦でも送るか?」
「偽装商船ぐらいがちょうどいいんじゃないか?」
「できれば接触したいな」
地図を眺めながら30分程議論が続いたあと、参謀長が立って
「よし君たちの意見は分かった。それでは、下命する。バステリア帝国付近にいるX-16、X-21号潜水艦を帝国北方海域にそして直ちに第10潜水隊を南方海域に出動させて情報収集に当たらせろ。そして偽装商船を2隻指定海域に送りこの国と接触を図れ。それと外交部に連絡を取ってこの件への許可を取れ」
そしてムー共和国の潜水艦が、日仏英米艦隊と中露の艦隊に近づくのは2日後だった。
2日後、北方域総督府のある地点からちょうど北に向かった地点の海岸線、そこには砂浜が広がっていた。大規模な軍が上陸するならここしかないだろうと踏んだ帝国は北の守りの先遣部隊1000万を集結させていた。技術で圧倒的に劣るバステリア帝国がこの世界で列強に数えられているのは、圧倒的な数の暴力のためである。先遣部隊で1000万、恐ろしい数である。しかし、そもそもバステリア帝国市民の多くは兵隊なのだ。社会構造は古代のスパルタに似ている。自分達よりも多いい数の奴隷を押さえつけるためにこのような構造をしているのだ。
北の守りを任されたのはブリタス・ゲメル将軍だった。でっぷりと太った体をもつ20代後半のこの男は貴族出身だ。皇帝が初陣で圧勝させてやろうとこの先遣部隊の将に任ぜた。
「1000万のに対してこの指令はひどすぎないか?」参謀同士が話している。その指令書には
『もし本当に敵が上陸して来た場合は、その圧倒的な戦力を持って迎撃せよ。負ける事は無いだろうが、蛮族相手に負けた場合は貴様の命はない、以上』
「うわ、雑ですね。しかもこれ皇帝直々のサイン入りですよ、皇帝全く気にも留めてませんね。もしかしたら本軍なんて来ないかも」
蛮族相手にそもそも1000万もいるのか?皇帝陛下も幾ら何でも俺の事を心配しすぎだろうと部下のはなしを聞きながら思った。
「情報によると、敵は東の蛮族で遠くから来たから疲れてる....と。全くこれのどこが情報なんだ」
どんな敵が来るんだろうなぁ、同い年の奴らも外地で手柄を立てているから俺も早く蛮族の一つや二つを滅ぼしたいもんだ。まぁ、蛮族相手に1000万負けるわけないか
「蛮族どもの驚く顔が見ものだな。海軍の連中はなんで蛮族の軍を沈めずに攻めてったんだか。怠慢だな。銃なんて初めて見るんじゃないか?」別の参謀が意気揚々と語る。
「将軍、そろそろ宣言された時間です。軍を動かしましょう。
丘の上から砂浜に横数キロに渡って並ぶ1000万の軍隊、マスケット銃手達の間に長槍兵が並び、その両脇を騎兵隊がそして全軍の後ろに砲兵隊が並んでいる。
そして、沿岸には戦列艦が100隻、北方総督府所属の艦が並んでいる
蛮族どもの軍が跡形も無くバステリア帝国の地を踏む前に死にたえる事は目に見えてる。奴らの戦船は砲が一門って言ってたが、ガレオン船か?全く骨董品じゃないか。蛮勇も良いところだ。
ではそろそろ、迎え撃つ準備をするか
「参謀!魔信を全部隊に入れろ、臨戦態勢に入る」
蛮族ども早く来てみろ、列強の力を見せてやる
その時であった、真っ青な空に一つの点が見えた。
「ん?なんだあれは...」それはどんどん近づいて来る。とんでもない速さで飛んで来る。
「矢?なのか」何が起きているのかよくわからない。
そしてそれは先遣部隊の頭上を通り越し内陸の方へ飛んで行った。その後に無数の同じ"矢"のようなものが飛んで来た。そして、砂浜の上で跳ね上がり そしてそのまま下にいる軍団に向けて急降下した。
この瞬間初めてこれが敵の攻撃であることに気付く。
そう、これは遥か先の洋上に浮かぶ駆逐艦群が放った現代戦には欠かせないトマホークによる攻撃だ。
そしてその瞬間無数の大きな閃光を作り出した。トマホークミサイルが着弾すると一瞬紅い炎が上がり、その周りを煙が包む。兵達の断末魔は全く聞こえ無い。
「何が起きたんだぁぁぁぁ、浜が噴火でも起こしたか」叫んでいる間にもその高速の矢は次々と飛んで来る。何が起きているのかは全くわからないが、攻撃を受けているのに間違いはない。
「魔導なのか、爆裂魔法なのか?」
「将軍あれを見てくださいっ!!!竜騎兵団が全滅しています!空の支援を失いましたよ!」そう、見渡して見ると大穴がいくつも空いているが、そこは全て竜騎が翼を休めて待っていたところだった。
「沖合の戦列艦も全て沈められています!!」
「将軍!」他の参謀が将軍を呼ぶ。
「今度はなんだ!!?」苛立ちを隠せない。
「たった今、総督府が攻撃を受けて破壊されたそうです」最初の矢は総督府を狙ったものだったのか....許せない、蛮族風情が小癪な真似を
その時沖合に無数の船が見えた、どれも大きく灰色に塗られていて帆がない。その中に一際大きな船がいる。回頭して腹を見せて来た。
「あれは!ムー共和国の戦艦では無いか!そうゆうことか、この攻撃はムー共和国の仕業か!くそっ、何が蛮族が攻めて来る、だ。こんな二級戦力で対応できるわけがないだろ」将軍は勝てないことを悟り狼狽したが、残念ながら全くの国違いだ。この戦艦はムー共和国の物ではない。アメリカ合衆国で1番最後まで籍を残していた。USS BB-63 戦艦ミズーリ 、バステリア帝国の人海戦術のために3度目の復活を果たし、引っ張り出されてきたのだ。
「ムー共和国装甲戦艦の砲塔が旋回しています!将軍!不味いですぞっ!」参謀の慌てる声が聞こえる。
ムー共和国の戦艦の話は聞いた事がある。本国軍の最新鋭の戦列艦100隻を持ってしてどうにか傷を負わせられると。だから帝国は1隻の戦艦に1000隻の戦列艦で対応する。それがいきなり目の前に現れたのだ。これだけ文明が離れていてもイージス艦は理解できなくとも戦艦の脅威は十二分に理解できる。
「にっ、逃げろぉぉぉぉ」だがすでに時遅く、海から鼓膜が破れそうな程の発砲音がした。
ヒュゥゥゥゥ
風をきる音がして直後、先程のと同等の爆発がいくつもいくつも続いた。
周りにいる日仏英米のミサイル駆逐艦群も砲撃を開始する。すぐに砂浜は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わり、兵が逃げ惑う声、そして飛び散る鉄片と肉片、次々と開けられるクレーター。運良く生き残ってもこの場に居合わせたものは精神的に2度と立ち直ることはできないだろう。
幸か不幸か、丘の上から指揮を執っていたブリタス将軍達はこの光景を余す事無く見る羽目になった。
「ひぃぃぃぃ、なんなんだ。なんなんだ。助けて助けてくれぇぇぇぇ」指揮陣で1番最初に壊れたのは今回が初陣のブリタス将軍だった。
「将軍お気を確かに!」だが、もう元には戻らないだろう。声をかけた参謀は他のものを見て首を横に振った。もう将軍はダメだ と
最初は砂浜の陸寄りの所に砲撃の幕ができ、そこから少しずつ海側へと幕が移動している。1人足りとも生きて返す気は無いようだ。1000万と言へど密集体系を取っていたのが仇となり、最速で1000万の殆どが狩り尽くされた。
砲撃が終わり、生きていたもの達は生き残った、と思ったが、違った。
序盤から参加していた艦艇に加え、参加国の所有している半分以上の強襲揚陸艦が増派されていた。
空から甲高いエンジンの音、巨大な船の脇から次々と現れる何か。それは、空は米空軍のA-10、空自のF-2、ドイツ・イギリス空軍のトーネードIDS、フランス空軍のラファールB総勢60機が横一列に並び、海からは米海兵隊・陸自のAAV-7、イギリス陸軍のFV-430、フランス陸軍のAMX-10p、ドイツ陸軍のSp.Pz2総勢300両が横一列になり、煙幕を張りながら近づいて来る。その壮大な光景は現代のオーバーロード作戦と言える。オーバーロード作戦と言うからには、この程度では収まらない。これは全てが水陸両用車の第1陣である。後ろに控える強襲揚陸艦群のウェルドック内では揚陸船艇に積まれたMBTや歩兵が出撃の時を待っている。
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