第11話 解放戦
2020年7月2日 午前2時
エルフの村との接触から一週間経った日の夜、シュワルツバルトの村から20Km程内陸のシュワルツバルトの森、外縁のバステリア帝国官営大規模農場近く。
そこには、第1小隊と近くの村からも集まった1万人のエルフの戦士達が集結していた。ドイツ連邦軍の面々はナイトビジョンを装備していたが、エルフ達は夜目が効くので何もつけていない。
「それでは、我々の行動を確認する。午後3時第313降下猟兵大隊が降下を開始。それまでに東側の見張りを無力化そして我々第1小隊が誘導。そして、アメリカ合衆国空軍AC-130ガンシップの支援の下、敵収容施設に突入、兵舎をガンシップが砲撃、313降下猟兵大隊と合流後敵戦力を掃討、並行して、エルフのチームが捕虜を救出、午前5時に本隊の迎えが来る。以上だ。何か質問がある者は?」
小隊長が周りを見渡したが、全員理解しているようだ。
「ジークフリート将軍、そちらの方々に先日お渡ししたIRマーカーの装着の確認お願いします。それと捕虜の救出と護衛はお任せしましたよ」
「しかと任された」彼は、まだエルフ達が何者にも支配を受けていなかった時代にエルフ独自の共同体があった時代に軍団を率いていた将軍だ。
「そろそろ本部から連絡が入る、それを合図に行動を開始する、各自位置につけ!」空挺部隊の部隊員は基本的に単独での行動が可能なように訓練されている。今回はスリーマンセルで動く。
ヨーゼフもロルフとマルクと共に行動する。班長はヨーゼフだ。
「チャーリー、位置についた」準備完了を伝える。他の班も位置についたようだ。畑の中で隠れるのにはもってこいだ。どうやら綿花畑のようだ。
「こちら国連軍統合作戦本部、現在時刻2時30分を持って作戦を開始する。各目標地点の先遣隊は行動を開始せよ。諸君らの検討を祈る。オーバー」
「よしっ、行くぞ」まずは現在位置から200メートル先の見張り要員2人の無力化。サイレンサーをつけたG36Cを使って仕留める。
パスッ 空気が抜けるような音がした。と、同時に見張りの2人が声を上げる事なく倒れた。
「目標2クリア」マルクが確認をとる。
「よし次のポイントへ移動だ」畑の中を暗闇に紛れながら移動する。次はマルクの出番だ、今回はバレットではなく、G22狙撃銃を携えている。これはイギリスでL96A1と呼ばれているものだ。やはりこれにもサイレンサーが装着されている。
次のポイントは、先ほど無力化した見張り台だ。ここを抑えれば、全ての目標を狙撃することができる。
スリーマンセルでヨーゼフとロルフはG36を構えながら、マルクはMP7を構えながら周囲を警戒しながら進む。
見張台の中を確認する。あるのは先ほどの2人の死体だけだ。
「ルームクリア!」見張台の中の安全が確認された所で、マルクはG22のバイポットを立て狙撃の体勢に入りヨーゼフがスポットの準備をする。
「目標ブラボー、正面800m 風北西2mタイミングは任せる」
「ラジャー、目標捉えた」
バスッ、と同時にまた1人、棒のように倒れた。すぐにマルクはボルトを引き次弾を装填する。
「ブラボー無力化確認、続いて目標チャーリー、距離同じく800、風変わらず」
「確認した。」
バスッ、そして2人目の目標もまた、倒れた。
「ナイスショット!担当エリアクリア」
直ぐに小隊長に無線で状況を報告する。
「小隊長へ、チームチャーリー。担当エリアの目標を全て無力化した。」
「了解、そろそろ他のチームも仕事を終える。それまでその場で待機」
「了解しました。オーバー」
ふうっ、とため息をつき周りを見渡すと。敵の武器が転がっていた。先込め式の銃にバイヨネットがつけられていた。それを手に取ってみた、かなり重い。
「ロルフ、これみてみろよ。マスケット銃だぜ。」
「全くこいつらこんな装備でよくアメリカに喧嘩ふっかけたよ。まだ、ゲリラのAKの方がよっぽどましだな」
「あぁ、全くだ、奴らの気が知れねぇ。他にも槍兵とかもいるらしいぜ。だけどこいつらやたらと数が多いいらしいからな」
「こちら、第313降下猟兵大隊。降下開始まで5分。状況送れ」
「こちら、先遣隊第一小隊、小隊長。降下地点の敵は掃討した。降下地点のは確保した」
ヨーゼフの無線が小隊長と大隊の交信を傍受した。誰が何を言ったわけでも無いが、静かに移動の準備を始める」
ヨーゼフとロルフはG36をマルクはMP7を持ちあげた。
「小隊各員へ、直ぐに本隊が降下を開始する。頭の上のIRストロボの作動を確認し速やかに、所定の位置に移動せよ。」
「よしっ、2人共、行くぞ」見張台を降りて畑の中を走っていると空からジェットエンジンの音がした。どうやら米軍のグローブマスターのようだ。その近くでパラシュートが開いた。降下を始めたようだ。また一つ、また一つとパラシュートが開き列を成して降りてくる。事前に決めれれていた位置に走っていると他の隊員達も走って集まっている所だった。
これだけの人数が動いているにも関わらず、農場は光一つない闇の世界だった。
「313降下猟兵大隊降下完了し、各小隊ごとに集結まですでに終わったようです、そしてガンシップも到着し待機しているようです」
ヨーゼフ達第一小隊が全体の動きの調整を担当しているのだ。
「分かった。」
「こちら第27降下猟兵大隊第二中隊第一小隊、313降下猟兵大隊無線入っていますか?」
「こちら313降下猟兵大隊、降下地点の掃討感謝する。これ以後貴隊を先遣第一小隊と呼称する」
「了解、現在時刻03:00、先戦を開始してもよろしいか」
「こちら313降下猟兵大隊、いつでも突入できる」
「了解、作戦を開始します」
小隊長は大隊との通信を終えると、顔をあげ
「作戦開始だ、第一分隊はガンシップとの調整をとれ」ヨーゼフとロルフが指名された。
無線をエアバンドに合わせ、ガンシップとの通信を開始する。
「こちら、ドイツ連邦陸軍大隊27降下猟兵大隊第一小隊。アメリカ空軍ガンシップへどうぞ」
「こちら、USエアフォース、コールはレッドスリー。今日はよろしくなっ、とっとと仕事を教えてくれ」
「こちらこそよろしく。早速砲撃をリクエストしたい。煉瓦造りの三階建てのでかい建物が5つ見えるか?」
「バッチリ見えるぞ」
「そいつらをできるだけだけ早く派手にやってくれ」
「承った!105mm砲をお見舞いしてやるぜっ、目標!眼下に見える洒落た煉瓦造りのでかいの5つ。石材に戻してやれ」
ドッコォォォン、今までの静寂を破る轟音が鳴り響いた。突入の合図だ。兵舎のうちの一つに105mm砲が命中し、砲撃に遭った部分が崩壊した。その後6発の砲弾が撃ち込まれやっとの事で兵舎一つが完全に崩れた。それまで40秒足らずだった。この兵舎にいたものは何が起きたかも知る前に絶命した。
「こちらレッドスリー、敵の兵舎に動きあり。中央の兵舎入り口付近に集結を開始した模様」農場の建物があるエリアが騒がしくなりだした。
「了解、レッドスリー、兵舎への砲撃と並行してこれを掃討してくれ、中央エリアへの本隊の接近は止めておく」
「了解、40mm機関砲でこれを掃討する」
直後に、兵舎の建物では大きな爆発が、そして敵が集結している付近では小さな爆発が小刻みに起こった。
他のエリアの見張りの兵が爆発を聞きつけて集まってきたのだろう。周辺でこれを排除するためにアサルトライフルを撃つ音が聞こえ始めた。
爆発音が鳴り続けて5分ほどだった頃、
「レッドスリー、敵兵舎の破壊を完了した。敵兵の残存が確認される。どうするか?」
「あと詰はこちらでやる。引き続き上空で警戒に当たってくれ」
大方の目標は消滅したようだ。しかし、運良く生き残ってる兵、駆けつけてきた見張りなどがまだいる。これを掃討せねばならない。
「313降下猟兵大隊へ、こちら先遣隊第一小隊。兵舎の破壊は完了した。直ちに掃討戦に移ってくれ」
「了解した。掃討戦に移行する」
そしてここから本作戦の目標である。虜囚の解放だ。
「小隊長!そろそろ頃合いではないでしょうか?」
「そうだな、将軍に伝えろ。安全は確保した いつでも仲間を助けに行ってくれ と」
その頃、ジークフリート将軍達、エルフの戦士はガンシップの砲撃を見て、やはり何が起きているのか理解できなかった。何も知らない者から見れば、突然建物が爆発したようにしか見えない。この国の住人からすれば"魔法"以外では片付けられない。いや、魔法でも片付けられない光景だろう。
「この世の終わりか?それとも大地が噴火でも起こしたか?彼らは神なのか、それとも悪魔の化身なのか?」そこへ、ドイツ兵が走ってきたので、一瞬足がすくんだ。
「ジークフリート将軍、出番です。直ぐにでもお仲間を助けに行かれて下さい」言葉は丁寧だが、それでも多くのエルフの戦士達は畏怖の念を隠しきれていない。
「わ、分かった。直ちに我々が駆けつけよう、行くぞ者共!今までのバステリア帝国に囚われ、奴隷のように扱われて来た仲間達を今直ぐ助け出すのだ!走れっ!」前衛に剣を持った者が5000、後衛に弓を持った者が5000だ。殆どの女戦士は後衛に回されている。無論、この中にはカミルも含まれている。
目の前で理解不能な光景を見せつけられたと言えども、やはりバステリア帝国に抵抗しようを志しを一つにした戦士達だ。士気を持ち直し、"仲間を助ける"唯その想いで畑を走り抜け仲間が捕らえられている建物がある中央のエリアにたどり着いた。
しかし、着いてみるとどうだ。敵兵など殆ど残っていない。瀕死の兵士か、運良く傷を負っていない兵士も既に捕虜となっている。問題はそれだけではないんそれまで兵舎があった場所は瓦礫の山と化していた。そして、そのまわりには、赤く染まり、手足や、肉片が転がっていた。空から砲撃を受けたのだから当然と言えば当然なのだが、見て耐えられるものではない。ナイトビジョンを通して見ているドイツ兵達は鮮やかな紅が見えないので、そこまで心にダメージを抱える事は無かったのだが。
この光景を目にしたエルフの戦士達は実戦経験がある者はなんとも無かったが、初めて見た戦場がこの戦場だった者は胃の中の物を空になるまで吐き続けた。彼らは、ここで初めて格好良い戦場など無いことを知るのだ。戦場とは残酷であり、残虐であり、戦死に美しい死はあっても美しい死に方など無いのだ。
ジークフリート将軍はこの光景に別の違和感を覚えた。
「戦場が酷いのは常だが、この光景は異常だ。バステリア人が抵抗した跡が殆どない。というか、ドイツ兵が傷ついているのをまだ一回も見ていない。これほど一方的にこの数を殺すとはどんな手段を使ったんだ」この光景を横目に、煉瓦造りの洒落た外装の兵舎とは対照的な、木で作られた粗末な建物が乱立している所に向かった。
一つの建物の扉を開けると、そこにはエルフ達が押し込められていた。彼らは小さく端っこに縮こまり体を震わせていた。ガンシップの砲撃の音に怯えたのだろう。
「怖がる事はない。私たちは貴方達を助け出しに来たのだ。さぁ、この地獄から抜け出そう!」
囚われているエルフの1人が将軍の方を向いて
「ジークフリート将軍か、どうやってここまで来たか知らないが、バステリアの兵隊達から逃げ切ることなんてできるわけないだろ。今まで何人もの仲間が逃げようとして家族諸共殺されたんだ」と疑問をぶつけた。
「外を見てみると良い。もうこの農場に貴方達を苦しめる者はいない。」
囚われていたエルフの達の死んだ目が少し輝いた。
「本当か!?」外からも歓声が聞こえて来た。
扉の外に出ると、他のエルフ達も自由を心に焼き付けている所だった。
ジークフリート将軍は全ての仲間が出て来たのを見計らい、小屋の一つの屋根に登り声を張り宣言した。
「バステリア抵抗に囚われていた同志諸君、君たちは解放されたのだ。もう労働を強いられる事も犬以下の扱いを受ける事もない自由の身になったのだ。さぁ元いた場所に帰ろう!」そう言い、戦士達に護衛をさせ、一足先に彼らを故郷に向かわせた。一方、ジークフリート自身はドイツ兵が集まる方向に足を向けた。
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