第10話 歓迎の宴
「私たちはこの村の長老をやっているものだ。遠いい所をよく来られた。 早速だが君たちについてもっと教えてくれ」
「では、祖国についてお話ししましょう。ここから遥か東にある大陸の一つのヨーロッパという地方にあるドイツ連邦共和国と言う国です。とても空気が綺麗で、街には美しい建物が並んでる素晴らしい国です。バステリア帝国のような皇帝は存在せず、ドイツ国民のリーダーはドイツ国民が選びます。大まかな所はこんな所でしょうか。今回はドイツが直接バステリア帝国に攻撃された訳では無く同盟国が隷属を求められたので共に戦っているのです。」
「そうか、あなた達も連合を組んでバステリアに抗っているのだな。我々もバステリアの手から逃れた者達で結束している。しかし今までにもそのような者達を見て来たが皆等しくその強大な軍隊の前に為すすべなく敗れ国を丸ごと根絶やしにされている。我々の一族の多くは殺されることを恐れ農奴に身を落としている。我々が行動を起こし失敗した時には彼らも見せしめに殺されるだろう。失敗は許されないのだ。あなた達はそれを知っても戦うのか?勝算はあるのか?」
「すでに我々の同盟は戦いの準備を進めています。そしてすでに同盟国の艦隊がバステリア帝国の艦隊の一つを破っています。信じがたいでしょうが、これは事実です。」
「それは真か!?にわかに信じがたい。だがもしそれが事実なら囚われている我々の仲間も助かるやもしれんな。真実であって欲しいがやはり信じがたい。」
「もし我々がバステリア帝国に対し有利に戦っていると言うのが事実だったら共に戦いますか?」
国連として彼らの戦力が欲しいのではない、アメリカが嘗てイラク戦争でやってしまった、政権を潰したばっかりに国の中が内戦状態に陥ってしまったという失敗を繰り返させないためだ。そのために、抑圧されている民族を敵に回さず彼我の圧倒的な差を見せつける為に"共闘"という形で実際にこちらの力を目の当たりにする必要があるのだ。もちろん最終的には独立してもらうのだが。
「もちろんじゃ、しかし.....」
「どうすれば信じて頂けますか?」
「囚われている我々の仲間を解放してくれれば信じよう」
「なるほど...我々だけではなんとも言えないので時間を頂きたい」
「分かった、それではこの村でゆっくりして行ってくれ、宴の準備をと言いたい所だがこの時間じゃし、宿は用意した取り敢えず休んでくれ。改めて今晩あなた方の歓迎の宴をしたい。」そう、もうすぐ日が昇る時間である。隊員達もそろそろ寝たい時分である。
ヨーゼフとロルフが案内された家は普通の一戸建てほどの2階建の家でやはり木の上に建てられたは6人家族の家であった。内装は木を中心としたシンプルな作りであったが、一通りにの家具も揃い生活はしやすそうだった。父親と母親、そして4人の娘達である。父の名はエグモント、母の名はユーリアそして長女がカミラ、次女がレーア三女がクラウディア、四女がリーゼといった。娘達は見たところヨーゼフと同じくらいの歳だろうか。
「お名前はなんと言いますの?」そう話しかけて来たのは長女のカミラであった。金髪の腰の高さくらいまで伸びたロングヘアを持ち、やはり耳は尖って長かかった。そして言うまでもなく美人である。
「名前はヨーゼフ・アッカーマンだ。ヨーゼフって呼んでくれ。そしてこいつは俺の幼馴染のロルフ・フリーゲルだ。ちょっとばかり騒がしいやつだがうまくやってやってくれ」とロルフを指差して笑いながら言った。
「おいおい、その紹介は無いだろう。カミラさん、俺のことはロルフって呼んでくれ。それとヨーゼフには彼女がいないんだ、なかなかいいやつだから貰ってやってくれないかな」冗談めかしながら言っていると、まだ脱いでいなかったヘルメットをコツンとヨーゼフに叩かれた。
「カミラさん困っているじゃ無いか」
2人の様子を見てカミラはクスッ笑いながら
「お二人は仲がいいんですね」と言った。
そして来客の為の寝室に案内された。
「ではごゆっくりお過ごしください。今晩はみなさんの歓迎の宴を開くそうなのでそれまではご自由にして頂いて構いませんから」
そう言って、カミラは静かにドアを閉め部屋を離れた。
「ふー疲れたなー、取り敢えず寝ようぜ」ロルフはプレートキャリアをそそくさと外しなが身軽になった。そして二つあるうちの一つのベッドにダイブしそのまま夢の世界にインした。
5時間程経った頃だろうか "コンコン"ドアを叩く音がした。
「ヨーゼフさん、ロルフさん、仲間の方がお呼びですよ」カミラだった。
慌てて飛び起き装備を元のように着け直し、玄関を出ると木の下に分隊のメンバーがいた。
「ヨーゼフー!、ロルフー!早く降りてこーい。車両をここに移動させるぞ!そしてその後本部と連絡を取る。」ロルフ達は梯子を降りて、分隊のメンバーと元来た道を戻り車に乗り込み村の広場まで移動させた。戻るとそこには小隊全員が揃っていた。そして小隊長、分隊長がベースとの交信を始めた。
「新世界基地司令部へ第27降下猟兵大隊第二中隊第一小隊。」
「こちら新世界基地司令部、司令にお繋ぎします。少々お待ちください」
まるで、電話のやりとりのように聞こえるかもしれないが、実際にこれは衛星電話だ。電波が通じるところどこにでもクリーンな通信を与えてくれる便利な代物なのである。
「ビュッセルだ。第一小隊の諸君ファンタジー世界で冒険はいかがかな?」
「はっ、いくつか報告したいことがあります。まず、我々第一小隊はバステリア帝国内にて、レジスタンスに相当する集団と接触をいたしました。後ほど画像を送信いたしますが、驚くべき事に彼らは人間ではなく神話に出てくるエルフだそうです。そして、バステリア帝国に囚われている仲間を解放して欲しいとの支援要請を受けました。これが成功した場合には彼らを含む帝国内に散らばるレジスタンス達との共闘が可能になりそうです。」
「そうか、分かった。支援要請の話だが、他の国の先遣部隊でも同様の報告が上がっているようで既に作戦の実行は確定している。今は全体像を把握して襲撃地点を集計しているところだ。これは上陸作戦に先行して、各国連動して行う事になるだろう。だから先方には前向きな返事をしておいていいぞ。それと、まだバステリアに関する情報が足りていない。人口の細かい割合、分布と国交商業活動についての情報が欲しい、できる限り集めてくれ。以上だ。またに何かあったら報告してくれ」
「了解いたしました!それでは第一小隊小隊任務に邁進いたします」
その夜、村の広場に村人全員が参加しての歓迎の宴が催された。エルフは基本的に狩猟民族であるので、この日の料理も肉が中心であった。広場では隊員と村人が交流する風景も見られた。ヨーゼフ、ロルフもカミラの家族と一緒に食事をした。さながらホームステイのホストファミリーのような感じだ。
「ヨーゼフさん達の軍隊がバステリア帝国の艦隊に勝ったって本当なのかな?」カミラの父エグモントの質問だ。
「あー本当ですけど戦ったのはドイツじゃないですよ。実際に勝ったのは日本とアメリカって言う同盟国の艦隊ですよ。確かこっちは一隻も沈んでないとか」
「あのバステリア相手に?その国には強力な魔道士が沢山いるとかですか?」カミラもそうでも無ければ信じられないという顔をしている。
「魔道士?この国にはそんな者がいるんですか?我々の世界には魔法は存在しませよ。俺たちの武器は科学技術だけですから」
「ヨーゼフさん達の国には魔法がないのっ?」カミラが驚いて言った。
「魔法でしたら私でも扱えますよ。しかし全く、魔法も無しでどうやってあの有名なバステリア帝国の人海戦術に無傷で打ち勝ったというのですか?バステリア帝国の宿敵でムー共和国という国も魔法を持たず高度な科学技術で文明を維持しているのですが、数年前だったかな。バステリア帝国の本国艦隊と戦ってお互いに甚大な被害を出して引き分けたと聞きましたが。あなた方の技術はムー共和国をも凌ぐというのですか!?」父エグモントも驚いているようだ。
「ムー共和国を見たことが無いのでそれはわかりませんねー。それより、その魔法を是非見て見たいです」
「それなら多分この後の余興で観れますよ。歓迎の宴では必ずお互いの武術を見せ合うのです。その時に魔法を使いますから」
「宴にお集まりのみなさん!お待ちかねの武術を披露するお時間ですがその前に、ドイツの方々からお知らせがあるようです」
小隊長が広場の中心に進み出た
「シュワルツバルトの村のみなさんこんばんわ!我々の為にこのような場を開いていただきありがとうございます。ここでみなさんにお知らせがあります。たった今我々の司令部からみなさんの囚われている仲間を救出する作戦が正式に決まりました。この中にはご家族、ご友人が囚われている方がいるかもしれません。この作戦ではエルフのみなさんの力が必要不可欠です。 力を合わせバステリア帝国に立ち向かいましょう。詳しい資料がありますので宴会が終わった後お見せします。」エルフの力が必要なのは本当である。解放された人々を連れて帰るのはかなり手間だからだ。
しかし、村の人の殆どはバステリアに喧嘩を売って勝てるとは思っていない。反応も微妙である。
「それでは遥かかなたドイツからいらした皆さんに、我が村一の弓の名手の技を見ていただきましょう。それでは我が村一の弓の名手オーラフの入場!」広場は歓声に包まれ、ロングボウのような大きな弓を持った青年が現れた。
「それでは、遠くに並ぶ人の大きさほどの的を射抜いていただきましょう。」200メートル先に五つの人型の木の板が並べられていた。
青年が静かに弓を引くと会場は静まり返った。静かに狙いを定め、弓を放った。何かしらの魔法をかけられているのだろう。弓は放たれると同時に青く光り物理的には考えられないが、加速しながら的に向かって真っ直ぐと吸い込まれて行った。
広場は再び歓声に包まれ、オーラフコールが起こった。
「オーラフの技を持ってすれば、バステリアの鉄砲よりも遠くから彼らを射ぬけるでしょう!そして、お次はドイツの方々一体どのような技を見せてくれるのでしょうか?」
広場の中心にいた小隊長が
「じゃあマルク!、マルクそれ持ってこっち来い」
それを聞いた小隊は驚きを隠せなかった。"それ"と言って指差したものは、G82 バレット 米軍ではM82A1と呼ばれている対物ライフルである。このライフルは車両なども撃ち抜く事もできるが、何と言っても射程距離である。実際に2km先から目標を撃ち抜いたという記録も有る。そして、指名されたマルク伍長は隊内の狙撃手である。
「こちらは、村の方に頂いたものですが。光る魔石でいいんでしょうかね?とても硬くいつでも光る便利なものだと聞きました。そんなに貴重なものでは無いと聞いたので、我が隊の狙撃手がこれを破壊いたしましょう。それではみなさんどれくらいの距離から当てられると思いますか?」その光る魔石を高く上げながら言ってみた。
「銃だろー80メートルくらいじゃ無いか?」
「鉄砲って全然当たんないんでしょ、20メートルくらいじゃ無い?」
様々な声が聞こえてきた。全体的に銃は当たらないという認識らしい。それは正しく、バステリア帝国の使っているマスケット銃というものは、絶望的に当たらない。熟練した銃手でも50メートル先から無風で人に当てられるのは50%程度だ。
「それではこれを1000メートル先から当てたいと思います。では、村の方、誰かこれを置いてきてくれますか?」子供が元気に手を上げたので。その子に渡し、置いてきてもらった。行って帰って来るだけで10分程度かかった。その間は小隊長の雑談力で場を盛り上げた。夜であるので1キロ離れていても村の端に煌々と光魔石がしっかり見える。
「司会の方、準備できました。」
「それでは、ドイツ代表のマルクさん。あんなに遠いいですが自信の程はありますか?」
「もちろんですっ!」マルクはガッツポーズとともに答えた。会場は、無理だろうという声が殆どを占めていた。そして弓術を披露したオーラフもまた無理だと思った。
マルクは伏射の姿勢でスコープを覗き、レティクルの中心に魔石を捉えた。息を静かに吐きながら、引き金を引いた。 村の広場に雷鳴に近い銃声が轟き、それと同時に光が消えた。
広場は、奇跡を目の当たりにしたかのように騒然とした。そして数秒経ってから歓声が湧き上がった。予想と現実のギャップに頭がついて行かなかったのだ。
「な、なんと本当にこの距離から硬い魔石を割ってしまうとは...、以上ドイツ代表マルクさんでした!マルクさんに大きな拍手を!」
この後、村人たちが仲間を解放する戦いに参加したいと申し出てきた事は言うまでも無い。
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