第二章第25話 再会

2021/03/30 誤字を修正しました

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迷宮攻略を再開して二週間が経った。メラニアさんが前線に出てきてくれたおかげで多少の怪我であれば気にする必要がなくなった影響は大きく、効率が大幅に上がった俺たちはついに第三階層の魔物を排除することに成功した。


 この勢いで第四階層の攻略を、と言いたいところだがさすがにみんなの疲労はピークに達している。


 そこでしばらくの間は第三階層に聖水を塗りこんで魔物が湧かないようにする処置をお願いすることになった。


 その間は第四階層から上がってくる魔物を食い止めるだけで良いため、俺たちは交代でお休みを取ることになった。まず休むのはカリストさんとメラニアさん、そしてルーキーである俺という割り当てだ。


 リカルドさんとルイシーナさんのほうが長く迷宮で戦っていたのだから俺が休むのは気が引けると申し出たのだが、リカルドさんに「冒険者になって一年目のルーキーが馬鹿を言うな」と笑い飛ばされてしまった。


 そんなわけで、後ろ髪を引かれる思いではあるが俺はリカルドさんとルイシーナさんを迷宮に残し、サバンテへと戻ってきたのだった。


「ディーノ君はどうするんだい? 家を引き払ったんだろう?」

「はい。まずはギルドに顔を出していい宿を紹介してもらおうと思います」

「うん。そうすると良いよ。僕たちはこのまま行きつけの宿に行くからここでお別れだね」

「はい」

「それじゃあ、ゆっくり休むと良いよ」

「ありがとうございます。お疲れ様でした」

「お疲れ様」

「ディーノ様。どうぞ良い休暇を」

「メラニアさんこそ。ゆっくり羽根を伸ばしてください」


 こうして俺はカリストさんたちと別れ、ギルドへとやってきた。


「あ、ディーノさん」


 扉を開けて中に入るや否やセリアさんに呼ばれた。


「はい。どうしましたか?」


 そう返事をすると、俺はセリアさんの座るカウンターの前へやってきた。


「第三階層の制圧、お疲れ様でした」

「いえ。俺だけの力じゃないですから。皆さんで協力して戦ったおかげです」


 俺の返事にセリアさんは満足そうに頷いた。


「ところでディーノさん。フラウちゃんはいますよね? 今日はディーノさんが戻ってらっしゃると聞いて、クッキーを焼いてきたんです」


 セリアさんはそう言うとピンク色のリボンの掛けられた小包を差し出してきた。


『うわぁ! やったー! クッキーだ! セリア、ありがとうっ!』


 横から覗いているフラウが満面の笑みを浮かべている。


「フラウちゃんにあげるなら可愛いリボンも一緒にあると良いかなって思いまして」

『うん。嬉しいっ! ありがとうっ!』

「ありがとうございます。フラウもすごく喜んでいますよ」

『ねぇ、ディーノ。早く召喚してよっ!』

「え? ああ、そうだな。それじゃあ召喚しますね」


 そう言って俺がフラウを召喚しようとしたところでまさかの声が聞こえてきた。


「ちょっと! あんた! ディーノ!」

「え!?」


 驚いた俺が振り返ると、何故か顔を真っ赤にしたエレナがこちらへとずんずん歩いてくる。


 やばい。これは殴られるやつだ!


 俺は反射的に顔面を守るべく両腕を上げてガードを固めたが、いつまでたっても拳は飛んでこなかった。


「ちょっと! どういうことよ! なんであんたがディーノにプレゼントをあげようとしてるのよ!」

「え?」

「はい?」


 エレナの攻撃の矛先は何故かセリアさんに向いており、しかも完全に意味不明なことを口走っている。


「あんた! よくもあたしにディーノの行方を教えなかったわね! ディーノが新しくできた迷宮で戦ってるなんて!」

「申し訳ありません。ですが規則ですので」

「何よ! 何よ! ディーノは弱っちいからダメなの! そんな危険なところ行ったら死ぬに決まってるじゃない! 大体ね! ディーノも何を考えているのよ! 弱っちいくせに冒険者をやるなんてバカなの!?」

「え? ああ? ええ?」


 エレナが何を言いたいのかさっぱり理解できない。基本的に俺の都合など考えずに暴れ回ってすぐに手が出るやつだが、ここまで意味不明なことをいうようなやつではなかったはずなのだが……。


「もう! ディーノのバカー!」

「がっ」


 考えていたせいでガードの反応が遅れ、俺は見事に顔面にパンチを受けた。だが、今までであれば大きく吹っ飛ばされてしまっていたであろう一撃を受けたにもかかわらず、何故か多少よろめくだけで踏み留まれている。


 あ、あれ? 俺、実は強くなってる?


「え? どういうこと? 何でディーノ、吹っ飛んでないのよ。あんた、もしかして偽者?」

「エレナ。お前、俺を何だと思ってるんだ?」

「フリオごときにも負ける弱っちい幼馴染よ」


 フリオ、か。


 その名前が出て俺は一瞬迷ったが、正直に答えることにした。どうせすぐに分かることだし、隠す必要もないだろう。


「……フリオにはさ。勝ったよ。俺たちで倒した」

「へ?」


 エレナは心底意外そうな顔を向けてきたが、すぐにニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。


「ふうん。そう。ってことは、手加減しなくて良いってことよね?」


 いやいやいや。どうしてそうなる? その思考回路はどう考えてもおかしい。


 って、ん?


「ちょっと待て。お前、今まで手加減してたのか?」

「してなかったらあんたは毎日死んでたわよ」


 し、知らなかった。こいつ、感情のままに俺を殴っているように見えて実は手加減してくれていたのか。


 あれ? 手加減してくれていたなんて、実はエレナっていい奴なんじゃ……。


 はっ!?


 そんなわけない。そもそも殴ってくるようなやつがいいやつなわけがないじゃないか!


「手加減じゃなくて、そもそも殴るのをやめろ。迷惑だ」

「うるさい! ディーノのくせに!」


 エレナの体が少し沈んだかと思うと一瞬にしてその姿が消えた。


 殴られる!


 再びそう感じた俺は顔面をガードすべく再び腕を上げる。


 しかしまたもや予想していた衝撃は来ず、久しぶりの声が聞こえた。


「あらン。ダメじゃないのン。ギルドでの暴力行為は禁止よン?」

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