第二章第12話 誕生日のお祝いガチャ五十連(後編)
妖精たちが箱を運んでくる。銅箱、木箱、木箱、木箱、木箱、銅箱、銅箱、銅箱、銅箱、木箱だ。
順番に開けていくが、残念ながらなかなか変わってくれない。
やがて九つ目の銅箱までやってきた。俺の、いや俺たちの願いが通じたのか画面の中の妖精がパワーを送ると銅箱が光る!
銀箱へと変化し、中から出てきたのは『鉄の盾』だった。
「あぁぁぁ。惜しい。惜しかった。くそっ!」
「あと一歩だったねっ。でも惜しいところまで来てるから大丈夫だよ。きっと引けるよっ!」
「……ああ。そうだな。よし」
最後の木箱からは馬の糞が出てきたのでそれをいつも通りにサクッと処分すると、俺は気を取り直して次の十連を引いていく。
すでに折り返し地点を過ぎており、ピックアップの【召喚術(フラウ)】を引き当てるまでには今回を含めてあと二十連しかない。
平常心を保ちつつも熱い気持ちと気合を入れてこの十連を引き、いい流れからの最後の十連につなげたい。
「来いっ!」
そんな思いを込めて俺は十連を引くボタンをタップした。いつも通り、妖精たちが宝箱を一生懸命運んでくる。
銅箱、銅箱、木箱、銅箱、銅箱、金箱、金箱、木箱、木箱、木箱だ。
ん?
んん?
んんん?
金箱が二つ!?
「まじかっ!」
「すっごーい! ディーノすごーい! 金箱が二つなんて!」
フラウも今までにないくらいに驚いているが、それも無理のないことだろう。俺だって驚いている。
だが、まだだ。まだ笑うには早い。金箱を出しただけではまだなのだ。ここでピックアップを、【召喚術(フラウ)】を引いてこその神引きなのだ。
「さあ、ここからだ。いくぞっ!」
順々に宝箱を開けていく。すると四つ目の銅箱が銀箱へと変化し、【ショートボウ】が出てきた。
「おお。まあ、被り気味だが悪くはないな」
ショートボウを脇に置くと俺はいよいよ二連続の金箱を開ける。金箱を運んできた妖精の、このドヤ顔を二連続で見られるというのは何とも気分が良い。
「さあ、最初はなんだっ!?」
箱が開くのと同時に俺は大きな声でそう叫び、それと同時に箱の中から【槍術】が飛び出してきた。
「お! 槍!」
「おめでとー! やったね!」
「ああ。ありがとう。だが狙いはフラウの召喚術だからな。次の金箱で引いてやるよ」
「ありがとうっ! ディーノっ!」
そう。こうして喜んでくれるフラウを一刻も早く召喚してやりたいのだ。そして、一緒に冒険して、苦楽を共にするのだ。
「さあ! 来いっ!」
今日一番の気合と共に金箱が開かれる。その中から飛び出してきたのは【精霊花の蜜】だった。町の高級店でこれ見よがしに陳列されている蜂蜜のビンとどこか似たデザインの透明なビンに琥珀色の液体が入っている。
「ああああ。ダメかっ! くそっ!」
「わーい。ありがとう! ディーノ」
フラウの召喚術が引けずに落ち込んだ俺に対してフラウは大喜びで俺にお礼を言ってきた。
「え? 召喚術を引けなかったんだぞ?」
「うん。でもね。この【精霊花の蜜】は、あたしの食べ物なの。だからね。ディーノ、ありがとうっ」
「お、おう」
まあ、フラウがそう言って喜んでくれているならいいか。
「あ、でも、ディーノは絶対にこれを飲んじゃだめだよ?」
「いや。フラウの飲み物を勝手に飲んだりしないよ」
俺は他人が楽しみにしている飲み物を勝手に飲んだりするような人間では無いぞ?
「そういう意味じゃなくて、人間が飲んだら危険なのっ。説明にも書いてあるでしょ?」
「ん? 説明?」
俺は言われてガチャの画面から説明を開いてみる。
────
精霊界にしか存在しない特別な花から採れる貴重な蜜。妖精にとってのご馳走であり、この蜜を飲んだ者の力を強化する。なお、妖精以外の者の飲用には適さない。
────
「お、本当だ。飲めないって書いてある」
「でしょっ?」
「ああ。ところで、人間が飲むとどうなるんだ?」
「え? 知らなーい。でも、絶対ダメっていうのは精霊界の常識だよ?」
「ふうん? まあ、いいか。じゃあこれはそこの棚に置いておくよ」
俺は棚の上にそのビンを置いた。
「フラウも、あまり食べすぎるなよ?」
「うんっ! 妖精だって一度にたくさん食べすぎるのは良くないの。だから大丈夫だよっ」
「そうか。よし。じゃあラスト十連、行ってみるか!」
「おーっ!」
こうして、気を取り直して引いた最後の十連は完全なる爆死だった。馬の糞に腐った肉まで出てくる最悪の外れっぷりではあったものの、七月という今の季節を考えると虫よけ草が二つ出たのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
ま、大半を迷宮の中で過ごすであろう俺が使うかどうかは不明だがな。
────
今回のガチャの結果:
☆5:
精霊花の蜜
槍術
☆4:
STR強化
ショートボウ
鉄の盾
☆3:
テント(小)
堅パン
石の矢十本×3
虫よけ草×3
銅の剣
皮の袋
木の食器セット×2
薬草×3
旅人のマント
☆2:
ただの石ころ×3
枯れ葉×2
糸×5
小さな布切れ×4
薪×2
動物の骨×2
馬の糞×3
皮の紐
腐った肉×3
藁しべ×4
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おかげさまで3/15発売の拙作「町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい」の書籍化作業は一段落しました。ご理解、ご協力いただきありがとうございました。
本作は平常運転に戻り当面の間、隔日更新となります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
なお、次回の更新日は 2/27(土) 21:00 を予定しております。
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