第二章第11話 誕生日のお祝いガチャ五十連(前編)

「ねぇ、ディーノ。あたしからも誕生日プレゼントがあるよっ!」

「え? フラウからも?」

「うん。あたしからの誕生日プレゼントはガチャチケットだよっ。新実装のチケットと、それから誕生日の特別ミッションも用意したんだ。ディーノ、立派な召喚士になってね!」

「フラウ……」


 やっぱりフラウは俺の事をいつも応援してくれる。ああ、本当にパートナーがフラウで良かった。


「ありがとう。ずっと迷宮の中で余裕なかったけど、昨日から新ガチャが実装開始だったもんな。早速引いてもいいか?」

「うんっ」


 俺はスクリーンを開いた。するといきなりメッセージウィンドウが開き、『フラウからのプレゼントが届いています』と表示された。


 俺は受け取るボタンをタップすると『召喚士入門ガチャチケット 50 枚を受けとりました』とメッセージが表示された。


「ありがとう、フラウ。大切に引くよ」

「うんっ」


 フラウは俺の言葉にニッコリと微笑み返してくれた。


「よし!」


 俺は気合を入れるとガチャの一覧画面を開いた。久しぶりに開いた一覧からは断魔装備ガチャが消えて召喚士入門ガチャが新しくリストに加わっている。


 俺はその中からもちろん召喚士入門ガチャを選んだ。


────

ピックアップあり! 召喚士ガチャシリーズ第一弾「召喚士入門ガチャ」!

(有効期限 60 日)


ピックアップ:

【召喚術(フラウ)】【精霊花の蜜】【MP強化(大)】【MGC強化(大)】


☆5提供内容:

【召喚術(フラウ)】【精霊花の蜜】【MP強化(大)】【MGC強化(大)】【火属性魔法】【土属性魔法】【水属性魔法】【風属性魔法】【剣術】【体術】【弓術】【槍術】【杖術】【警戒】


[ガチャを引く][10 連ガチャを引く]


保有チケット:50 枚[チケットを購入する]


・提供割合

・提供元:アコギカンパニー

────

注)提供割合と提供元は非常に小さな文字で書かれている


 なるほど。前もって聞いていた内容通りだな。よし!


 俺は早速ガチャを引いていく。今回のガチャもいつもと同じように妖精たちが宝箱を運んでくる。


 銅箱、木箱、銅箱、銅箱、木箱、木箱、木箱、木箱、銅箱、銅箱だ。


 まあ、最初の十連ならこんなものか。


 大丈夫。まだ慌てるような時間じゃない。


 銅箱のどれか一つでも銀箱に変わってくれれば期待したが、さすがにいきなり変わってくれるほどガチャは甘くはなかった。


 いくら俺の誕生日だからといっても、そんな甘えた期待をするような軟弱な精神では神引きなどできるはずがない。


「よし! 次!」


 俺は気合を入れると次のガチャを引いていき、そんな様子をフラウはニコニコしながら見守ってくれている。


 そう、フラウは俺を信じてくれているのだ。俺が神引きをしてフラウを召喚できるようになることを!


「どうだ! 来い来い来い来いッ!」


 妖精たちが運んできた箱は木箱、銅箱、木箱、木箱、木箱、木箱、銅箱、木箱、木箱、木箱だ。


「あー、ヤバい! さっきよりも木箱が多い!」

「ディーノっ!」


 一瞬絶望に囚われかけたがフラウの一言で目が覚めた。


 そうだ。こんなところでうつむいている暇なんてないのだ。


 一つ目の木箱からは『腐った肉』が出てきた。すぐにゴミ箱行きだ。


 そして次の銅箱だ。この銅箱は信じれば変わるはず!


「さあ! 来い! 来い! 行ける! 俺は変えられる! 変われっ!」


 だが、俺の叫び声も空しく箱は銅箱のままで、中からは『薬草』が出てきた。


「まぁまぁまぁまぁ。次の銅箱を変えればいいんだろ?」


 俺はその後の木箱を開けていく。それぞれからは『小さな布切れ』『藁しべ』『ただの石ころ』『馬の糞』が出てきた。


 よし、次は銅箱だ。これが銀箱に変わってステータス強化が出ればよいのだ。


「来い! 来い! 変われ! 変われ! 変われぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 渾身の俺の叫び声が届いたのか、妖精のパワーのおかげか、銅箱は銀箱へと変化する。


「よーし! ステータス強化! ステータス強化! ステータス強化! 来い!」


『☆4 STR強化』


「やった! よし! よし! よぉぉぉぉぉぉぉぉし!」

「おめでとうっ! さすがの気合だったね」

「ああ。気合で引いてやったぞ」

「うんっ! さすがディーノだねっ!」

「ありがとう、フラウ」


 しかし興奮しすぎて息切れしてしまった。ちょっと一息つこう。


 俺は残りの三つの木箱をさっさと開けると汲んでおいた水を飲む。


「ふぅ。なんか、魂を全て注ぎ込んだ気分だよ」

「さっきのディーノ、すごかったもんね。あたし、びっくりしちゃった」

「まあ、全力だったしな。せっかくのフラウの誕生日プレゼントを爆死で終わらせたくはなかったからな」

「もう。ディーノったら」


 フラウは照れくさそうにそう言うと俺の頬をツンツンとつついてきた。


「だが、俺はこんなくらいで終わる気はないぞ?」

「ディーノ……がんばって!」


 フラウの応援を背に俺は再びガチャと真剣に向き合う。


 こいつは俺とガチャの真剣勝負なのだ。


 多少神引きしたところで調子に乗ってはいけない。今まではそうやっていつも失敗してきたのだ。


 冷静に、落ち着いて。


 そう、平常心で引くことが大切なのだ。


 俺は再びガチャを引くボタンをタップするのだった。


====

拙作「町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい」の書籍化作業が大詰めをむかえているため、次回の更新は 2/25 21:00 を予定しております。どうぞご了承ください。

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