第二章第10話 誕生日プレゼント

2021/02/26 誤字を修正しました

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俺が悪魔の迷宮に潜り始めて六日が経った。今日は狩ったホブゴブリンの魔石がまってきたので入り口前の拠点へと報告にやってきた。


「あ、『蒼銀の牙』に断魔さん。お疲れ様です。状況はどうです?」

「まだまだかな。ただ、もう通常のゴブリンは見かけないしEランクはいよいよ立ち入り禁止にしたほうが良いかもしれない。それと、教会にお願いして治癒師を派遣してもらうようにお願いできないかな。緊急事態だから協力してきたけど、メラニアをそっちに取られては迷宮の攻略など不可能だからね」

「分かりました。支部長には報告しておきますね」

「よろしく頼むよ。僕たちはなあなあで済ます気は無いからね」


 カリストさんは珍しくゾッとするような冷たい口調でそう言った。


 たしかに、メラニアさんなしだと戦っていて怪我をすることを極力避けなければならないため無理ができないというのはあるけれど、そんなに怒るほどの事なのだろうか?


 いや、でもあの温厚なカリストさんがここまで言うという事はやはり何かあるのだろう。


「は、はい! あ、そうだ。断魔さん。Dランクへの昇格手続きが終わっているそうなので、サバンテの支部にタグを取りに顔を出してほしいそうですよ。その時に今のタグを忘れずに持ってきてください」


 冒険者ギルドの事務員の人が慌てて俺の方に話を振ってきてた。


「わかりました」

「じゃあ、ディーノくんはいったん町かな?」

「そうなりますね。カリストさんたちは?」

「こんな状況だからね。とりあえずは第二階層に戻って拠点防衛の手助けかな」

「わかりました。それではまた」

「ああ。一日くらいはゆっくりしておいで」

「ありがとうございます」


 こうして俺はサバンテの町へと戻るのだった。


****


「それではディーノさん。こちらが新しいタグとなります。無くさないように注意してくださいね」

「はい。ありがとうございます」


 俺はセリアさんからタグを受け取るとそれを懐にしまう。今までの粗末な木のタグから金属製のしっかりしたタグに変わっており、そこにはDと新しいランクが刻まれている。


「それから、ディーノさん」

「はい?」

「これ、受け取ってください」

「え?」


 セリアさんはそう言ってニッコリと笑うと俺に小さな袋を渡してくれた。


「お誕生日おめでとうございます!」

「あ! そうでした! ありがとうございます」


 なんと! 完全に予想外だった。こんなお祝いなんて誰にも貰ったことが無かったからすっかり忘れていたが、今日は俺の誕生日だった。


「えっと、開けて良いですか?」

「もちろんです。と言っても、中身はクッキーですけどね。悪くなる前に食べてくださいね」

「ありがとうございます!」


 きっと義理でお祝いしてくれたのだろうが、それでもあんなに綺麗な女性からお祝いのプレゼントを貰えるなんて嬉しすぎる!


「ちゃんとお返ししますからね」

「はい。楽しみにしていますね」


 そう伝えると俺は久しぶりにウキウキな気分でギルドを後にしたのだった。


****


 久しぶりの我が家に帰宅すると、フラウが俺に笑顔で話しかけてきた。


「ディーノ、良かったねっ!」

「ああ。俺もすっかり忘れてたからな」

「食べないの?」

「食べるよ。フラウも食べるか?」

「いいのっ!? ありがとう!」


 俺が袋を開けて木の小皿に貰ったクッキーを移すと、一口サイズで形の揃ったクッキーがさらさらと乾いた音を立てた。


「わーいっ!」


 フラウはクッキーを口の中に放り込む。


「あまーいっ!」


 幸せそうにフラウは食べているのにつられて俺もクッキーに手を付ける。


「お、うまい。これはいけるな」

「おいしいねっ!」


 そう言いながらフラウはパクパクとさらに盛られたクッキーを食べていく。


 俺はそれに負けじとクッキーを口に運び、あっという間に最後の一枚となってしまった。


「ねぇ、ディーノ? 甘いものは女の子に譲るべきだよね?」

「いやいや。これは俺が貰った誕生日のプレゼントなんだ。最後の一枚は俺が食べる」


 そして俺とフラウの視線が交差し、バチバチと火花を散らす。


 甘いものを前に仁義なき戦いが繰り広げられる。これが世界の真理だ。いくらフラウと言えども、ここは譲れない。


 俺とフラウは慎重に間合いを計り、お互いに手出しができないように牽制しあう。


 そう。少しでも隙を見せれば最後の一枚を失うのだ。


「あっ! トーニャちゃんが全裸でこっちに向かって走ってきているよ!?」

「えっ!?」


 俺は思わず振り向いて窓の外を見てしまった。だがトーニャちゃんの姿は影も形もない。


「しまった!」

「おいしーっ!」


 フラウにはかられた!


 まさかいつも応援してくれるあのフラウがこんなからめ手を使うなんて!


 しかし時すでに遅しだ。クッキー最後の一枚はすでにフラウの口の中だ。


「おい! ずるいぞフラウ! 正々堂々、やり直しを要求する!」

「えっ!? やり直してもいいの?」

「やり直せるのか?」

「だって、その袋にまだ一枚入ってるよ? まだ一枚あるからこうして遊んでもいいかなって思ってたんだけど。あ! もしかしてその一枚もあたしにくれるの? ディーノったら優しーねっ」

「え? あ、ほんとだ……」


 袋を確認するとたしかにまだ一枚残っていた。


「いや、その。ありがとう」

「どういたしまして」


 フラウを疑ったことを恥ずかしく思いつつも最後の一枚を口に入れた。


 うん。甘くて美味い。


 最後の一枚はよく分からないが、特別な味がしたのだった。

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