第55話 アントニオ vs. フリオ

「オラッ! 死ね! 死ね!」


 フリオは黒い玉を、そしてギルドで見せた黒い槍をトーニャちゃんに撃ち込み、トーニャちゃんはそれをギリギリのタイミングでかわしてはフリオに接近して拳を打ち込む。


 だがフリオの方もトーニャちゃんのあの光る拳以外はダメージが通らないと見切っているのか、通常の拳は身に纏った黒いオーラで受け止め、そしてたまに繰り出される光る拳はしっかりと避けている。


「悪魔の力が馴染んでるわねン」

「あん? このオカマが! これは悪魔の力なんかじゃねぇ! 俺の力だっ!」


 そう叫んだフリオの体から周囲に黒いオーラを迸る。そしてそのオーラは奔流となってトーニャちゃんに襲い掛かる。


 トーニャちゃんはそれを右にステップを踏んで直撃を避けた。そしてステップを踏んでフリオの攻撃をかいくぐってはその懐に飛び込むと光る拳を繰り出す。


「そんな力をっ!」


 ドスン!


 フリオのボディーにトーニャちゃんの重い右の拳がめり込み、その体がくの字に折れ曲がった。


「使えるのがっ!」


 バシッ!


 続いて光る左のストレートがフリオの顔面を捉える。


「ぐ、あ……」


 フリオはうめき声をあげ、トーニャちゃんはトンと華麗なステップを踏んだ。


 そして。


 パチーン!


 トーニャちゃんの光る右のハイキックがフリオのこめかみを完璧に捉えた。


「悪魔の力を使っている証拠よン!」

「あ、がっ」


 人間であれば確実にKOされているであろうその一撃を受けたフリオはそのままフラフラとおぼつかない足取りで数歩歩き、そしてがっくりと膝を、そして両手を地面についた。


 すごい! さすがトーニャちゃんだ!


 悪魔の力をあんなに取り込んで人間とは思えない姿になったフリオを圧倒している。


「く、くそっ。俺が! 俺が! どうして俺が!」


 何とか立ち上がろうとするフリオにトーニャちゃんは容赦なく追撃を加えた。


 立ち上がろうとするフリオの後頭部を思い切り踏み抜き、フリオは顔面から地面に叩きつけられる。


魅惑の聖拳突きラブリー・パンチ


 トーニャちゃんはひと際強く拳を輝かせると倒れたフリオに叩き込んだ。


「まだ元気なのねン」


 そういうとトーニャちゃんはうつ伏せに倒れていたフリオを仰向けにし、そしてその上に馬乗りになると光る拳を顔面に延々と叩き込み続ける。


 およそ一方的に弱いものを攻撃しているように見える光景だが、トーニャちゃんの顔には焦りの色が浮かんでいる。


 どういうことだ?


「ディーノちゃん!」

「ガァァァァァァ」


 トーニャちゃんが俺の名を呼んだのと同時にフリオが叫び声を上げた。


 そしてトーニャちゃんにボコボコにされていたはずのフリオの体から黒いオーラが噴き上がり、馬乗りになっていたトーニャちゃんが大きく吹き飛ばされる。


「あンっ」


 吹き飛ばされたトーニャちゃんは闘技場の壁に叩きつけられると妙な声を上げる。


「グ、ググ。よくも、やってくれたな。この、オカマがァっ!」


 そう言ってよろよろと立ち上がったフリオはトーニャちゃんを睨み付けたが、その顔はトーニャちゃんにボコボコに殴らられたせいか原型を留めないほどにパンパンに腫れ上がっている。


「あらン? 男前になったじゃないのン」


 そう言ってトーニャちゃんはフリオを挑発するが肩で大きく息をしており、おそらくもう余裕はなさそうだ。


『ディーノっ! 今こそ勇者ディーノの出番だよっ!』

「(あ、ああ。だが、あの戦いにどうやって……)」

『大丈夫だよっ! ディーノならきっとできるよっ! 今まで頑張って修行したきたじゃない!』


 それは、そうだが……。


 あの戦いに割って入ってトーニャちゃんの邪魔にはならないだろうか?


「ガァァァァァァ!」


 そんな躊躇をしているとフリオは雄たけびを上げ、そして衝撃波が撒き散らされた。


「!?!?!?!!」


 その衝撃波を浴びた瞬間、突如得も知れぬ恐怖が湧き上がってきた。


「あ、あ……」


 そして言葉にもならない音が俺の喉から勝手に紡がれ、カタカタと奥歯が妙な音を立てている。


「だ、ダメ、ですわ……」

「こんなの、私たちが、勝てるわけ……」


 俺だけじゃない。メラニアさんもルイシーナさんも顔を青くし、目には涙を浮かべてへたり込んでしまっている。


「お、おい。カリスト。なあ、俺は……どうして、震えて……るんだ?」

「僕も……だよ……くっ」


 辛うじて踏み留まっているカリストさんとリカルドさんも顔から脂汗を滴らせ、そしてカタカタと小刻みに震えている。


『ディーノっ! しっかりっ! ディーノ!』


 フラウが俺を励ましてくれているが、俺は恐怖に足がすくんで動けない。


「死ねぇぇぇぇ!」


 そんな俺たちを横目にフリオはトーニャちゃんに向けて黒い槍を放った。


「う、く、ン」


 トーニャちゃんは何とか体をよじって直撃は避けたが、左の肩にその攻撃を受けてしまった。


「はぁ。目が覚めたわン」


 トーニャちゃんはそう言って右手で自分の頬を叩くと一気にフリオに向かって突撃を仕掛ける。


 トーニャちゃんの動きが鈍い。だがかなりのダメージがあるのかフリオの動きもまた鈍い。


 そして拳を光らせたトーニャちゃんとフリオが交錯すると光に包まれた!

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