第50話 異変

2021/03/30 誤字を修正しました

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「あのガーゴイル、絶対に罠でしたよね?」

「そうだね。僕たちは迷宮には罠が無いという常識に囚われてしまっていたよ。君がああ言ってくれなければ危ないところだった。ありがとう、ディーノ君」

「あ、いや、そんな……」


 素直に謝られると俺の方が恐縮してしまう。


「でもどうして罠があったんですかね?」

「きっと、フリオちゃんが設置したんじゃないかしらン。迷宮自体には知能なんて無いんだから、ここを根城にしようとしたフリオちゃんが色々とやったんじゃないかしらン」

「そうかもしれないですけど、俺たちが苦戦したあの通路も罠みたいなものじゃないですか。あんな侵入者を迎撃をするためだけにあるような構造なんて……」

「そうねン。でも、そうするとフリオちゃんは迷宮の構造を自分で弄れるってことになるわねン。いくら悪魔の力を借りたからってそんなことできるのかしらン?」

「それは……」

「そうですね。アントニオさん。普通に考えればあり得ないことですが、罠があるというあり得ないことが起こっていますから、ここはディーノ君の言う可能性も考慮したほうが良いと思います」

「んー、つまりフリオちゃん、いえ、フリオちゃんを唆した悪魔には迷宮をどうこうする力があるってことかしらン?」

「はい」

「そうねン……」


 そういってトーニャちゃんは真剣な表情でおとがいに手を当てた。


「考えても分からないわねン。でも、これから先も罠があると考えて進んだ方が良いわねン」


 ああ、確かに。ここで俺たちだけで考えていても結論など出るはずもない。それならさっさと迷宮の核を破壊して迷宮の脅威を取り除いて、そしてフリオを倒して聞いた方が早いだろう。


「それでトーニャちゃん。先に進むんですか?」

「そうねン。でもその前に後ろの子たちにもこっちのホールを制圧したことを伝えなきゃいけないわン」

「そうですね」


 こうして俺たちはぞろぞろとこのホールの入り口へと向かった。そして入り口をくぐって向こう側に出ようとして俺たちはその異変に気付く。


「どうして真っ暗なんだ?」


 先頭を歩いていたリカルドさんが盾を構えて立ち止まる。リカルドさんの巨体越しに見えるその先には漆黒の闇が広がっている。


 リカルドさんがランプを掲げるがその光をもってしても何も見えないのだ。


「これは……」

「まずいかもしれないわねン」


 そう言ってトーニャちゃんは右手を光らせると魅惑の聖拳突きラブリー・パンチをその闇に向かって打ち込んだ。


 しかしその拳はドシンという音と共に何かにぶつかって止まった。


「んー、これは迷宮の壁ねン」

「じゃ、じゃあ……」

「ええ。あたし達、閉じ込められたわねン」

「そんなっ!」


 トーニャちゃんのその言葉にルイシーナさんが悲鳴にも似た声を上げる。


「仕方ないわねン。今までの全ての迷宮に罠が無かったからと今回も無いと油断したあたし達のミスよン。それなら、先を目指して核を破壊する以外にないわン」

「……」


 トーニャちゃんは明るい口調でそう言ったが俺たちの間には当然ながら重苦しい空気が流れる。


 というのも、地上を行き来することを想定していた俺たちはそんなに長期間潜れるだけの装備をしてきていないのだ。


 一歩一歩退路を確保しながら死者を出さないように進んでいたのだから、食料だって数食分しか持ってきていない。


「戻れない以上は仕方がないよ。僕もアントニオさんの言う通りだと思う。力尽きる前に迷宮を攻略するしかない」

「そう、ですわね。このままここでわたくし達が倒れれば迷宮は大きく成長してしまいますわ」

「そうだな。俺たちはやられるわけにはいかねぇ」

「そうよね。あたしもやるわ」


 リカルドさんの一言をきっかけに『蒼銀の牙』の四人も元気を取り戻す。


「俺も! 俺も頑張ります」


 一足遅れたが俺もそう宣言する。


「そうよン。どんなに大変な状況でも希望を捨てちゃダメよん。必ず乗り切る方法はあるはずだからねン」


 そんな俺にトーニャちゃんもそう言って励ましてくれる。


『あたしもあたしもー! がんばるー!』


 フラウが俺の目の前に飛び込んで自分も頑張るアピールをしているが、一体何を頑張ってくれるだろうか?


「(もしかして、フラウには出口が分かったりするのか?)」

『えー? 無理だよー。でもね。頑張るのっ!』


 そう言ってフラウは力こぶを作るようなポーズをする。


 なるほど。これはきっとフラウなりに俺を励まそうとしてくれているのだろう。


「(ありがとう、フラウ。頼りにしてるよ)」

『えへへー。任せてっ!」


 俺がそう言ってやるとフラウは満面の笑みを浮かべたのだった。

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