第49話 ガーゴイル討伐

 ガーゴイルはそこそこの広さがあるこのホールの中を飛び回りながらルイシーナさんの放つ水の矢をひらりひらりと躱している。


 しかしあの厄介な石化のブレスを撃ってくる様子はない。


「メラニアさん。どうしてガーゴイルは石化のブレスを撃ってこないんですか?」

「そう、ですわね……。きっと、あのガーゴイルのブレスは射程が短いのだと思いますわ」


 なるほど。つまり、お互いに必殺技は接近戦なため、こうやって隙ができるのをお互いに待っているということか。


「ということはできればルイシーナさんの魔法で倒したいですね」

「ええ」


 とは言ったものの、ガーゴイルの動きは素早く命中する気配が全くない。


 するとルイシーナさんが早々にギブアップ宣言をした。


「ちょっと……無理ね。あれは動きを止めてもらわないと私の魔法じゃ当てられないわ」

「そんな!」

「そうだね。となると、あのブレスを盾で受けて斬るしかないけれど……」

「ディーノちゃん。あなたの出番よン」

「え? 俺ですか?」

「ええ。今までの動きを見ていて分かったけれど、あいつはディーノちゃんの事を一番警戒してるわン」

「そうなんですか?」

「そうよン。ルイシーナちゃんの魔法を避ける時もずっとディーノちゃんが飛び込んでこないか警戒してたわン」

「どうして俺を?」

「もう一匹のガーゴイルを一撃で倒したからに決まってるじゃないのン」


 ああ、確かに俺の実力は別にして装備だけは良いしな。


「だから、警戒されているディーノちゃんが突撃して、ブレスをその盾で防ぎなさい。そうしてあいつがディーノちゃんに気を取られている隙にあたし達で攻撃するのよン」


 なるほど。つまり俺は囮ってことか。それなら適任だろう。


「わかりました。行きます!」

「ディーノ様、お気をつけて」

「はい!」


 俺は空中に浮かぶガーゴイルに向かってゆっくりと歩き出す。


 ただ、正直言えばかなり怖い。あの石化のブレスだって運が悪ければ俺は石にされていたのだ。怖くないわけがない。


 だがこうして自分で決めてここまで来たのだ。やるしかない!


 そして絶対に依頼を達成してまたガチャを引くのだ。


『ディーノ! 気を付けてっ!』

「ああ、まかせとけ」


 俺は少しずつガーゴイルへの距離を詰め、そしてガーゴイルは距離を詰められないようにゆっくりと下がる。


 どうやらトーニャちゃんの言う通り、ガーゴイルはかなり俺の事を警戒しているようだ。俺はガーゴイルを壁際に追い込もうとしているのだが、ガーゴイルはホールの端に追い詰められないように右へ右へと回る様に移動するため簡単に距離を取られてしまう。


 そして俺がもう一歩近づいた瞬間、右へと移動したガーゴイルの移動する先にルイシーナさんの水の矢が撃ち込まれた。


 とっさにそれを躱したガーゴイルだが体勢が崩れ、高度が一気に下がった。


 今だ!


 俺は駆け出すとガーゴイルをめがけて突撃する。そして一気に距離を詰めるとブレスが来ることを予想して盾を前に押し出してそのまま盾で体当たりを食らわせた。


 しかしガーゴイルはそれをひらりと躱すと上空へと再び舞い上がった。


 そして上からブレスではなく右腕で俺の顔をめがけて攻撃してきた。


 しまった! 完全に予想外だった。


 俺は攻撃を食らう事を覚悟してカウンターで断魔の聖剣を当てようと無理矢理踏ん張って体勢を整えようとするが間に合わない!


 しかし次の瞬間、ルイシーナさんの水の矢がガーゴイルに命中した。


「ギギッ」


 初めてガーゴイルがうめき声を上げ、そしてルイシーナさんの方を睨み付けた。


 今だ! 今度こそ!


 体勢を戻した俺は一気に断魔の聖剣を振り抜く。


 再び豆腐を斬るかのように真っ二つにスパっと切れたガーゴイルは地面に落下すると魔石だけを残して塵となって消えたのだった。


「や、やった、のか?」

「やったじゃない、ディーノちゃん! ディーノちゃんならできると思っていたわン。これで文句なしにDランクに昇格ねン」


 呆然と魔石を眺める俺にトーニャちゃんがそんなことを言ってきた。


「え? どういうことですか?」

「ディーノ様。ガーゴイルの討伐依頼を受けるためには最低でもCランクが必要な魔物なのですわ」

「Cランク!?」

「ええ。ルイシーナの魔法でのサポートがあったとはいえ、正面から戦ってガーゴイルを討伐したのですから、そのような方がEランクのはずがありませんわ」

「俺が……」


 確かにルイシーナさんの助けがあったとはいえ、それに断魔の聖剣というぶっ壊れチート装備のおかげとはいえ、あれほどまでに厄介な魔物を倒してしまったのだ。


 そう、ハズレギフトと言われ、エレナには召使いになれと殴られ、そして散々フリオにハズレ野郎と馬鹿にされていたこの俺が、だ。


「ディーノくん、良かったわよ」

「ルイシーナさん……」

「おめでとう、ディーノ君。アントニオさんの厳しい修行に耐えたおかげだね」

「やったじゃねぇか。やればできるじゃねぇか」

「カリストさんにリカルドさんも。ありがとうございます。でも皆さんのおかげです」

「ははは。君は本当に謙虚だね」


 カリストさんはそう言って爽やかに笑うのだった。

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