第42話 はじめての迷宮探索(後編)
「挟み撃ちです!」
俺は大声で叫ぶと持っていた皮の袋を地面に置いて断魔の聖剣を抜き放つ。そしてひと月近くの間特訓していた事を思い出して剣を振り抜いた。
俺の剣はゴブリンの体をしっかりと捉え、ゴブリンはまるで豆腐でも切ったかのようにあっさりと真っ二つになった。
「「え?」」
俺とメラニアさんが同時に声を上げた。俺は斬ったはずなのにあまりに手応えが無さ過ぎた驚きの方が大きいが、メラニアさんはきっとゴブリンがあまりに綺麗に真っ二つになった事が予想外だったのだろう。
俺が斬り捨てたゴブリンはあっという間に魔石になって地面に転がる。
「よし、やれる!」
そして俺は襲ってくるゴブリンを次々に斬り捨て、気が付けば全てのゴブリンを魔石へと変えていたのだった。
「しかし凄い切れ味だな……」
『そりゃあ、聖剣だよ? すごいに決まってるじゃない。よっ! さすが断魔の聖剣に選ばれし勇者ディーノだねっ!』
「うわっ! っと……」
急に現れたフラウに驚いき俺は思わず声を上げてしまった。
「(フラウ、今までどこに行ってたんだよ?)」
『えへへー。ちょっと迷宮を探検してたら迷子になっちゃった』
そう言ってフラウはてへぺろと舌を出してウィンクをした。
全く。この妖精は。
「ディーノ様。助かりましたわ。こんなに腕を上げるなんて、きっと想像を絶するような努力をなさったのですね」
そう言いながらメラニアさんが魔石を拾ってくれている。
しまった! これは俺の仕事だ!
「あ、いえ。すみません。魔石を拾って頂いて」
俺はそう言うと慌てて魔石を回収し、どうにか迷宮に吸収される前に全ての魔石を回収することに成功した。
「お、おい。ディーノ。お前、いつの間にそんなに強くなったんだ?」
そう声を掛けてきたのはリカルドさんだ。
「アントニオさんのご指導のおかげです。あとはこの剣が凄いんですよ。普通の剣ではあそこまではできなかったと思います」
「それはそうかもしれねぇが……まあいい。こんだけ頼りになるなら後ろは任せたぞ!」
リカルドさんはそう言うと盾を構えてホールの方へと向かって行く。気付けば一度通路に後退していたはずが再び押し返して戦闘の舞台はホールへと移っていた。
俺はメラニアさんを守りつつ地面に転がる魔石をメラニアさんと二人で回収していく。
「すみません。手伝ってもらって」
「構いませんわ。魔石が迷宮に吸収される方が問題ですもの」
「ありがとうございます」
それからしばらくの間戦闘をした後、ホールのゴブリンは全て魔石となって地面に転がったのだった。
こちらの死者はゼロで、かすり傷を負った冒険者が数名いたがそれもメラニアさんの治癒魔法のおかげで実質的な被害はゼロだ。
「みんな、よくやったわン。ディーノちゃんもメラニアちゃんをちゃんと守って偉かったわねン。魔石の量はどうかしらン?」
「もう袋の空きがほとんどないので一度運び出したいです」
「そう。それじゃあ撤退よン」
こうして俺たちは大量のゴブリンの魔石を土産に一度迷宮を脱出するのだった。
****
俺たちが迷宮から出てくると既に日が傾き始めていた。
「おお、戻ってきましたな。アントニオ殿。いかがでしたかな?」
「そこのディーノちゃんが持っているだけのゴブリンを倒してきたわン。予想していたよりも随分と数が多いわねン」
俺が魔石のたっぷり詰まった皮の袋を見せると兵士は顔をしかめた。
「それほどですか。まだ若い迷宮だと思っていましたが……」
「そうねン。実は人知れず昔からあったのかもしれないわねン。あとは悪魔の力が何か悪さをしている可能性もあるわねン」
「そうですな。悪魔についてはわからない事が多すぎますからな」
俺にはよく分からない会話をしているが、この迷宮の状況が想定とは違うという事は間違いなさそうだ。
「ああ、ディーノちゃん。魔石は兵士に渡して受領証明書を作ってもらってちょうだい。お願いできるかしらン?」
「はい」
「わたくしもご一緒しますわ」
「ありがとうございます」
俺はトーニャちゃんと話をしていた兵士の人に聞いて担当者を紹介してもらい、近くに張られていた天幕へと入った。
「ああ、随分とたくさん倒しましたね。溢れる前に見つけられて良かったです」
「そうですわね」
担当者の人にメラニアさんがそう相槌を打った。
「あの、俺は迷宮は初めてなんですけど、この状況っておかしいんですか?」
「おかしい、というよりは想定と違っていたという事ですね。この辺りに迷宮はなかったはずなのでできたばかりの迷宮だと想定していたんですよ。ただ、できたばかりの迷宮は規模も小さく魔物の数も多くないのが普通なんです。だから、たった半日でこれだけの魔石が回収できるということはあり得ないんです」
そう俺に説明をしてくれながら袋の中の魔石をテーブルの上に並べていく。
「そうなんですか。知りませんでした」
「新人さんはあまり教わらないでしょうからね。それじゃあ数えますよ」
こうして俺たちは魔石を数えた結果、その数はなんと五百個にも上っていたのだった。
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