第41話 はじめての迷宮探索(前編)

 迷宮らしき洞窟から脱出した俺たちは急ぎギルドへと戻り報告を行った。


 その後、俺はトーニャちゃんに当面の間は自主練をしているようにと命じられた。どうやら迷宮に挑むにしても俺を連れていくかどうかは決めかねているようだ。


 恐らく本心では連れて行くのはまだ早いと思われていると思う。ただ、フリオを倒すという依頼がある以上無視することも難しいため対応に苦慮しているといったところなのではないだろうか。


 それから一週間が経過し、いつも通り自主練の結果を報告をするためにギルドへとやってきた俺はセリアさんに呼び止められ、奥の個室へと案内された。


 そこにはトーニャちゃんの他に『蒼銀の牙』の四人も揃っていた。


「あらン。来たわねン」

「はい。今日の分のメニューを消化してきました」

「そう。偉いわン」


 トーニャちゃんはいつもと変わらずにウィンクをしてきた。


「あの、それで俺が呼ばれたのは……」

「今日はディーノちゃんにお話があるの。カリストちゃん達とも相談したんだけどねン」


 トーニャちゃんはそうして話を切り出してきた。


 ああ、どうやら今回は俺は探索メンバーから外されるのだろう。


「申し訳ないけれどねン」


 悔しいが仕方がない。俺が実力不足なのはよく分かっている。


「今回はディーノちゃんにも一緒に来てもらいたいの」

「はい。わかっていますよ。覚悟してましたから」

「あらン? そうなのン? なら丁度よかったわン。明日の朝出発よン。寝坊しないようにねン」

「はい。……うん? 一緒に行っていいんですか?」

「そう言ったのよン。じゃあ、よろしく頼むわン」


 そう言うとトーニャちゃんは席を立つと足早に個室から出ていった。


「あ、あれ? ええと?」

「何だか話が噛み合っていないみたいだけど、アントニオさんが君を連れて行くって言ったんだよ。正直に言えば僕たちは反対だったんだ。迷宮は危険だからね。君のような子を実力に見合わない場所に連れていって最悪の事態になることだけは避けたいんだ」

「そ、そうですよね。俺なんてまだまだ修行中の身ですし」

「ただ、君のその武器と防具が悪魔に魅入られてしまったフリオ君に対抗する力になるからって。それに、毎日欠かさずに、しかも弱音も一切吐かずにトレーニングをしている君ならば大丈夫だってアントニオさんが言ったんだ」

「トーニャちゃんが……」

「そう。だからね。僕たちもアントニオさんに認められたディーノ君のその努力を信じてみようと思ったんだ」

「カリストさん……」

「それじゃあ、明日の七時にギルドに集合だから今日はゆっくりと休むと良いよ」

「は、はい!」


 こうして俺はトーニャちゃん率いる迷宮攻略部隊の一員として迷宮に潜ることになったのだった。


****


 翌日、俺たちはトーニャちゃん、『蒼銀の牙』の四人、そしてさらに二十人ほどの冒険者達と共に迷宮へとやってきた。迷宮の入り口は領主軍が入り口に門を築いて封鎖されている。


「アントニオ殿か。攻略隊はそれで全員ですな?」


 入口の門を警備している兵士の人がトーニャちゃんにそう尋ねてきた。


「そうよン。出来立てのはずだからそれほど深くはないはずだけれど、しっかりと一層ずつ攻略していく予定よン」

「では退路の確保は我々で責任を持って引き受けましょう」

「頼んだわよン」


 こうして俺たちは迷宮へと足を踏み入れる。俺の役目はヒーラーであるメラニアさんを守ることだ。前線に出ても他の人達の邪魔になってしまうのはわかっているのでこの役割に異存はない。


 それからばらく歩いているとすぐにゴブリンが襲い掛かってきた。ゴブリンは昼行性で夜目は利かないはずなのに暗がりを全く恐れずにこちらを目指して走ってきたようだ。


 だが俺たちは数もいるためこの程度であれば何の問題もない。ランタンの灯りを頼りに襲ってきた十匹ほどのゴブリンをあっさり倒すと先を急ぐ。


 俺は遅れないように急いで残された魔石を拾うと皮の袋に入れた。


 と、まあ見てわかる通り俺のもう一つの役目はドロップした魔石の回収だ。


 単なる荷物持ちだと思われるかもしれないが、これはこれで実はものすごく大切な役目なのだ。


 というのも迷宮内の魔物を倒すということが迷宮の力を削ぐことに直結しているらしく、その際に魔石を回収しなければあまり意味がないらしい。


 何でも魔物を倒した後に残る魔石には迷宮の貯め込んだ魔力が凝縮されており、それを放っておくと再び迷宮に吸収されてしまうのだそうだ。


 そのため、せっかく倒した魔物の魔力が迷宮に戻らないようにするためにこうやって全ての魔石を回収するということが重要なのだ。


 ちなみに迷宮内で死んだ人間の遺体も迷宮の糧として吸収されてしまうそうなので無理だけは絶対にしてはいけない。


 それから俺たちはマップを作りながら迷宮内を慎重に探索し、そして襲い掛かってくるゴブリンを倒しては少しずつ迷宮を攻略していく。


 もちろん魔石はしっかり回収しており、既に持ってきた皮の袋のうち三袋がいっぱいになっている。残りはあと二袋しかないのでそろそろ外に運び出したいところだ。


 そんなことを考えていると、俺たちはかなり広いホールのような場所に出た。


「ゲギャギャギャギャ」


 そしてそこにはゆうに百匹はいるであろうと思われるほどの大量のゴブリンたちが待ち構えており、そいつらは一斉に俺たちに襲い掛かってきた。


「ディーノちゃん、メラニアちゃんを連れて通路まで後退よン。他の子たちはメラニアちゃんにゴブリンが行かないように食い止めてン」


 トーニャちゃんの指揮に従って俺たちはメラニアさんを守る陣形を取った。そして俺はその隙にメラニアさんを先導して通路まで下がると冒険者の皆さんも隊列を整えて通路まで戻ってきた。


 そして俺たちを追いかけて通路にやってきたゴブリンたちを槍を持った冒険者が横一列に並んで槍衾やりぶすまのようにしてまとめて串刺しにした。


 さすがだ!


 そう思った瞬間、俺の視界の端に動くものの姿が飛び込んできた。


 そう、ゴブリンはホールからだけではなく通路の方からも迫ってきていたのだ。

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