第35話 カミングアウト

 ガチャの事をカミングアウトすることにした俺は意を決して口を開く。


「わかりました。その、他の人に言うと多分頭がおかしいと言われそうなので絶対秘密にしておいてほしいんですが……」

「ああ。わかったわかった。元々守秘義務があるから大丈夫だ。説明しろ」

「はい。実は俺のギフトは『ガチャ』というのはご存じですよね?」

「ああ。入会の書類には書いてあったな。効果が不明と聞いていたが」

「実は、この鎧はそのギフトから出てきたものなんです。そして、今話をしていたのはガチャの妖精です。一応、ここに居るんですが……」


 俺が指示した場所を三人はじっと凝視した。


『やだー。いくらあたしが可愛いからってそんなに見つめられたら照れちゃうー』

「何も……いないように見えるな。兄貴、何か見えたか?」

「見えないわねン。それから、あたしの事はお姉ちゃんって呼ぶように言っているでしょン?」

「いや、勘弁してくれ」

「は? 兄貴? あ、すみません」

「いいわよン。あたしとハビエルちゃんは双子なの」


 な、なるほど。それで似ていたわけだ。


「セリア。お前には何か見えるか?」

「いえ。私にも何も見えません」

「妖精もガチャも俺以外には見えないそうです」

「そうか。それで、鎧が手に入るかどうかという話はどうなんだ? 金で済むならそれで済ませてしまいたい」

「それが、その妖精が言うには無理なんだそうです」

「そうか。それほどの品だ。そう簡単に量産することはできないという事なのだろう。じゃあ、その鎧を売ってもらうことはできないだろうか?」

「え?」


 いやいや。せっかくの神引きした装備を売るというのは考えられない。それに、俺が討伐されるよりも先にフリオに会ってしまったら確実に殺されてしまうだろう。


「お前のようなひよっこが装備していても宝の持ち腐れだ。十分な金は支払うので悪魔に魅入られたフリオを倒せる実力のある奴に譲ってほしいんだ。頼む」


 支部長はそう言って何と俺に頭を下げた。


 たしかに、俺にはあのフリオと戦えるだけの実力があるわけではないのだから支部長の言っていることが正しいという事はわかる。


 それに高い値段で買い上げてもらえるなら、普通のガチャを大量に引いてステータスやスキルを上げる方が長い目で見れば良いのではないか?


 そう考えた俺は申し出を受けることにした。


「わかりました。ただ値段は――」

「おおそうか! なら早速――」

『売ってもいいけど、その鎧はディーノにしか装備できないからトラブルになると思うよ?』

「え?」


 俺が支部長の話を受けようとしたところに食い気味で支部長が話を進めようとして、そこにフラウが割り込んできた。


「何だ? またその妖精か?」

「は、はい。ええと、何でも俺しか装備できないから売ったらトラブルになるって」

「はぁ? 使い手を選ぶなんて神話に出てくるような代物じゃねぇか。それが何だってこんなひよっこに……」

「すみません。ギフトの効果だと思います」

「ギフトか……」


 支部長はそう言って少し考えるそぶりを見せた。


「そのギフトはどうやって使うんだ? どうすれば装備が手に入る?」

「お金を払うんです」

「金? 店から買うような感じか?」

「いえ、そうではないです。お金を払うと貰えるアイテムがたくさんあって、その中からランダムに貰えるんです」

「何? 金を払ったのに欲しいものが買えないのか?」

「はい。それがガチャです」


 支部長の眉間にしわが寄った。


「あの、よろしいですか?」

「はい。なんですか? セリアさん」

「もしや、立派な鉄の盾や毒消しポーションをお持ちだったのはそのギフトのおかげなのでしょうか?」

「はい。その通りです」

「そのギフトを使うにはどのくらいお金がかかるものなのでしょうか?」

「一回 300 マレです」

「300 もかかるのですか」

「おい。その鎧を手に入れるのにいくらかかったんだ?」

「二百連を引いたので六万くらいですね。割引があったのでもう少し安いですが」

「「「六万!?」」」


 三人とも驚いた表情を浮かべている。


「そんな大金を……ディーノさん。無理にお金を使うのはいけませんよ? しかも今のお話ですと鎧が買えるかどうかはわからないのですよね?」

「んふふ。たったそれだけで神話に出てくるようなアイテムが買えるなら安いわねン」

「ひよっこのお前がどうやってそんな大金を手に入れたんだ?」


 なるほど。どうやら三人とも驚いてはいるものの気になるポイントは全員違うらしい。


「お金の出所はブラッドレックスの素材と魔石の売却代金です。なのでセリアさん、収入の範囲で課金しているので無茶はしていません。それに、運が良ければ聖剣も出てくるのでそれを狙っているんです」

「「「聖剣!?」」」


 三人が目をむいて驚いていた。


「はい。断魔の聖剣という武器なんですけど――」

「断魔の聖剣だと!? あの伝説の!? おい! そいつを買うことはできるか? 金ならギルドが払うから売ってくれ」

「買う事はできるとは思いますけど……」


 俺が言葉を濁すとフラウをちらりと見た。


『うん。聖剣もディーノ専用だよっ!』

「俺しか装備できないみたいです」

「そうか……いや、やってみないとわからん。装備できる者がいたら売ってくれるか?」

「はい。ただ俺は今ガチャを引くお金が無いんでしばらくは無理です」

「いや、ギルドが金を出そう。そうだな。依頼内容はフリオの討伐で、アントニオとお前で共同受注する形にしよう。それで聖剣をギフトを使って買う金は前金として支払おう。どうだ?」

「そうですね。ただ、いくらかければ聖剣が出るかはわからないんですが……」

「わかった。じゃあその分は全て経費として請求できるようにしておこう。俺のサインがあれば問題ない。セリア、依頼書を作ってくれ。どうせその費用は領主に請求するからな」

「かしこまりました」

「で、どこに行けばその聖剣は買えるんだ?」


 おっと。やはりガチャというものは理解されていないようだ。


「ギフトですのでどこでもできます。この場でもできますけど……」

「そうか。じゃあちょっとここでやってみろ。ああ、金が必要なんだったな。確か 60,000 と言っていたな。よし、ちょっと待ってろ」


 支部長はそう言って執務机へと歩いて行き、そして山のような金貨を持ってきたのだった。

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