第34話 事後処理

 フリオが暴れてから一夜が明け、諸々の状況が少しずつつまびらかとなってきた。


 まずはフリオの行方についてだが、町の目撃者の話によるとトーニャちゃんに撃退されたフリオは北の方角へと飛び去ったらしい。


 どこに逃げたのかは不明だが、トーニャちゃんのあの拳で受けたダメージがある間は襲ってこないはずだとのことだ。


 そしてフリオが暴れたことでサバンテの町は小さくない被害を被った。


 まず俺たちの冒険者ギルドの被害だが、その建物はエントランスホールの壁、それに天井が大きく破壊されてしまった。


 ただ、冒険者ギルドでは死者は出なかったことは幸いだった。『蒼銀の牙』のカリストさんとリカルドさんはかなり危険な状態だったが、メラニアさんが懸命に治癒魔法をかけたおかげでどうにか命を落とさずに済んだのだ。


 一方、町ではフリオが何らかの逆恨みをしていたのかそれとも無関係なのかはわからないが店の人や通行人など数十人の単位で一般市民が犠牲になったそうだ。


 そして最後に領主様の軍だが、ここの被害は甚大だった。まずフリオが捕らえられていた詰め所は建物が全壊し、中にいた人間は全員殺されたそうだ。


 他にもフリオを止めようとした町の警備の兵士などもことごとく殺されてしまったらしい。Cランク冒険者である『蒼銀の牙』が束になっても勝てなかったのだから一介の警備兵ではさすがに荷が重すぎたのだろう。


 しかしその結果としてサバンテの町は実に数百人の兵士を一気に失う事になったのだ。あまり大きくないこの町にとっては痛すぎる損害だ。


 さて、そんな状況ではあるのだが領主様と冒険者ギルドが喧嘩をしている状況らしい。


 領主様はフリオがFランク冒険者であることを理由にギルドの監督責任を問うているそうだ。それに対し、ギルドは町の外に出ることを禁じているFランク冒険者を勝手に傭兵として雇用して討伐に連れ出したのだからこちらに責任は一切ない、と主張している。


 そのため、今ギルドは全ての冒険者に領主様絡みの依頼の受注をストップさせているのだが、セリアさんによるとこれは単なるプロレスらしい。


 一応、日本とは違いサバンテの町は領主様が法律といった側面が多分にあるため本気で領主様が命じればギルドの支部長を解任するくらいはできるはずだ。


 だが、冒険者ギルドはサンマーレ王国中にネットワークのある巨大組織でもある。そのためあまりやりすぎると王族や他の貴族から圧力がかかって逆にサバンテの領主様の立場が悪くなってしまうそうだ。


 だからこうしてプロレスをしながら自分たちだけが悪いのではないという体面を取りつつ冒険者ギルドから譲歩を引き出そうとしているらしい。


 そして冒険者ギルドとしても領主様は最大の顧客でもあるため無下にはできず、そのうちどこかで落としどころが見つかるだろう、とのことだ。


 まあ、俺にはそのあたりの政治的な話は関係ない。


 俺がまずやるべきことは金を稼いで断魔装備を一セットコンプすることだ。


 なぜならフリオはトーニャちゃんや冒険者ギルドだけでなく俺やエレナにまで殺害対象として挙げていたのだ。


 そして悪魔に魅入られたフリオは普通にやればどう逆立ちしたって俺が勝てる相手ではない。


 となれば、あの時に俺の命を守ってくれた断魔装備を強化して武器と防具に守ってもらうのが最も確実な手段だと俺は考えたのだ。


 二百連で二種類出たという事は、五点ピックアップの残りは三点だ。あと三百連ほど回せば出るのではないだろうか?


 そう考えた俺はこうして朝早くから壁と天井の破壊された冒険者ギルドにやってきて依頼を受けようと思ったのだ。そして俺の姿を見つけたセリアさんに建物の奥の支部長室へと案内され、事の顛末を説明されて今に至っている。


 ちなみに俺の目の前には支部長だけでなくセリアさんとトーニャちゃんまでもが座っている。


 しかし、こうして並んでいるところを見るとトーニャちゃんと支部長はよく似ているな。


「さて、お前には聞きたいことがある」

「はい。何でしょうか?」

「お前のその鎧の出所だ。俺はもちろんアントニオとセリアにも守秘義務が課せられているからその情報をよそに漏らすことはない」

「え?」


 いつかは聞かれるだろうと覚悟してはいたがこんなに早くこうなるとは思っていなかった。


「言いにくいことはわかっているがどうしても必要なことだ。教えてくれ」

「ええと……」

「その鎧の事は『蒼銀の牙』の奴らから聞いた。フリオの一撃をくらってもダメージがなかったそうだな。ひよっこのお前がそうならもっと強いやつが着ればより安全にフリオを倒せるはずだ」

「……」


 何て答えれば良いんだろうか? 素直にガチャから出てきたといっても大丈夫か?


『ちょっとー! もうガチャ引いてるって言おうよっ! そうすれば変な目で見られずにすむよ?』


 それはそうかもしれないがな。でも、どう説明すればいいんだろうか?


「わかった。じゃあ、質問を変えよう。その鎧を更に手に入れることはできるか?」

「え? あ、お金があればできるかも?」

「おお! そうか! それなら――」

『無理ー! もう一回引いても自動的に限界突破されちゃうよっ!』

「え? そうなの?」

『そうだよっ!』「あん? お前、何言っているんだ?」


 しまった! フラウが割り込んできたのでついそのまま返事をしてしまった。


「あ、ええと、その」

『ほらー! 早く言っちゃえ!』

「いや、だから。って、あ!」

「何だか、俺と話しているのに別の誰かと話していそうな態度だな」


 ああ、もう! こうなったら仕方ない。取り繕うのも難しそうだし、洗いざらい話してしまおう。

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