第36話 他人の金で引くガチャは蜜の味?(前編)

「こいつでやってみろ」

「わかりました。あ、でもまとめ買いしたほうが安く済むんですが……」

「どのくらいだ?」

「十回分で 100 マレ、百回分で 3,000 マレ安くなります」

「……そうか。鎧を買うのに二百回かかったという事は、同じくらいかかるという事か?」

「わかりませんが、うまくいけばそうなると思います」

「なら百回分まとめて買っていいぞ」

「はい」


 俺はスクリーンを開くと金貨を投入していく。


「なっ!? 金貨が消えた!?」

「不思議なギフトねン」

「何も無いのに、ディーノさんには何かが見えているのですよね?」

「そうですね」


 どうやら本当にスクリーンは見えていないらしく、不思議そうにスクリーンあたりを見つめている。それに対してフラウはニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべている。


『えへっ。これでまたいっぱいガチャが引けるね』


 たしかに。しかも他人の金で引けるとか、これってもしかして最高なのでは?


 そう考えるとテンションが上がるのだが、ここではいつもみたいに騒げないのが難点だ。


 だが、しっかりとガチャと向き合わなければ神引きなどできないだろう。


 課金し終えた俺は大きく息をついて集中する。


「す、すごい集中力ですね」

「そうねン。きっと、ギフトを使うにはああいう風に集中する必要があるんじゃないかしらン?」


 さすがはトーニャちゃん。その通りだ。集中して気合を入れるからこその神引きなのだ。


「行きます!」


 俺はタイミングを見計らってスクリーンをタップして十連を引いていた。するといつも通り妖精たちが箱を一生懸命運んでくる。


 木箱、銅箱、木箱、木箱、木箱、銅箱、銅箱、木箱、木箱、銅箱だ。


 そして最初の木箱が開いて中からアイテムが飛び出してきた。


『☆2 馬の糞』


「あ」『あはは』


 俺とフラウの声が被った。初っ端からとんでもないモノが出てきたものだ。


 そして馬の糞が支部長室の床に転がって悪臭を放つ。


「え?」

「くせぇ!」

「ちょっとディーノちゃん? これはなんなの?」

「すみません。これ、外れのやつです。他にも腐った肉というのもよく出てきます」


 俺の答えにセリアさんの表情が引きつった。支部長は床を汚されてこめかみに青筋を立てている。


「その馬の糞、ちゃんと持ち帰って掃除もしろよ?」

「はい」


 支部長の気持ちは分かるが馬の糞がでるのはいつもの事なのでその程度は全く気にならない。そんな事よりも今やるべきことはガチャに真剣に向き合うことだ。


 その後全ての箱を開けると銅箱のうちの一つが銀箱へと変化して『魔術師の杖』が出てきた。


「ほう。入門用としては十分な杖だな。こいつは普通に買えば 700 くらいはするだろうな」


 魔術師の杖を手に持った支部長がそう感想を漏らした。


「ですが、他の商品がひどすぎるのではないでしょうか?」


 セリアさんは周りに転がる小さな布切れや石ころを指さしてそう言った。


「そうねン。どう考えても赤字だわン」


 トーニャちゃんはそう言いつつもどこか楽しそうにしている。


「次! いきます!」


 俺はそう宣言して次のガチャを引くが、残念ながら爆死した。


「見事にゴミばかりねン」

「食べ物も出てくるのですね」


 トーニャちゃんはそう言って楽しそうに笑い、セリアさんは堅パンを手に取り不思議そうに眺めている。


 俺は間髪入れずに次のガチャを引いていく。すると今度は銀箱が二つ出てきた。


 残念ながら金箱へは変化しなかったが、中から出てきたのは『VIT強化』と『AGI強化』だった。


「あらン? 数が少ないわねん。何も出ないこともあるかしらン?」

「いえ。何も出てこなかったのは俺のステータス強化です」

「何!? ステータス強化だと?」

「はい。といっても上がるのは 1 だけですけど」

「いやいや。1 上げるためにどれだけの鍛練が必要になると思っているんだ? お前のそのギフト、実はとんでもない可能性があるんじゃないのか?」

「たしかに、それはそうですね」


 ただ、お金がかかりすぎるのが問題なんだよな。借金だけはしないように注意しないと。


 それから二回爆死が続き、その次の十連で金箱が運ばれてきた。


「おっ! 金!」

『おおーっ! やったね!』

「何だ? どうしたんだ?」


 支部長がいぶかしげな表情を俺に向けてきた。


 そうだった。支部長達にはスクリーンが見えていないんだった。


「あ、すみません。良いのが引けそうだったんで」

「何!? 聖剣か?」

「聖剣かどうかはわからないんですが……」


 そして金箱が開くと、中から出てきたのは『断魔の宝冠』だった。


「あっと。惜しい!」

『でも持ってないやつだから良かったね』

「そうだな。コンプに近づいた」

「おい。その手に持っている宝冠は何だ?」

「これはこの鎧のセット装備です」

「よし。それもアントニオに装備させてみろ」

『無理だよー! ディーノ専用だもん!』

「妖精は無理だって言っていますが」

「いいからやってみろ」

「わかりました」


 俺はトーニャちゃんに宝冠を差し出した。その宝冠を握ろうと手を伸ばした次の瞬間、パチンという音と共にトーニャちゃんの手か弾かれた。


「あらン。やっぱり無理みたいねン」


 そう言いながらトーニャちゃんは手のひらを振っている。どうやら結構な痛みがあったようだ。


「チッ。やはり聖剣もダメか? いや、やってみるまではわからんな」


 支部長がそんな事を呟いているが、このまま引き続けられるようだ。聖剣を引く前に他のものを色々と引ければいいのだが……。


 そう思ってガチャを引いていくが爆死が続いてしまい、その後チケットが無くなるまでに引けた☆4以上はショートボウが一つだけだった。


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初っ端に馬の糞を引くあたり、ディーノはモッているなと思いました(笑)

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