第15話 灯台下暗し
それから連日のように俺は北の森へと向かい、ゴブリンどもを狩って回った。ゴブリン狩りを始めた初日は八匹と好調だったのだが、俺が毎日狩ったおかげで数が減ったのか一日に狩れる数は日に日に減少していき、そしてついには一匹も見つからないという日が続くようになってしまった。
ガチャの有効期限が切れるまであと十日しかない。これまでのゴブリン退治で稼げた金額は 800 マレだ。しかし生活費がかかる上に狩りに行くための装備の手入れの費用もかかるため、稼がなければいけない金額はあと 500 マレほどだ。
このままではまずい。
そう考えた俺はゴブリン狩りを中断してセリアさんに相談してみることにした。
****
「そうでしたか。北の森ではゴブリンの姿を見かけなくなったんですね。ありがとうございました」
「いえ。ですがあと十日で 500 マレ稼ぎたいんです」
「ええ、そうですね。ですがグラスウルフも買い取り上限に達してしまいましたし……。すみません。探してきますので少々お待ちいただけますか?」
「はい」
セリアさんは事務所の奥へと入っていき、そしてしばらくすると少しくらい表情で戻ってきた。
「申し訳ありません。やはり今は月末も近いという事もあって大型の新しい依頼は出ていません。ディーノさんにご紹介できる依頼ですと、食用のイノシシやウサギ、野ネズミの捕獲といったものになってしまいます。ただ、あまり報酬はよろしくありませんので残念ながら十日で 500 マレを稼ぐことは少々難しいかと……」
「そうですか……」
「あの、差し支えなければ、どうしてそれだけの大金がそんなにすぐに必要になるのか教えて頂けませんか?」
「それは……」
「やはり、その盾を買うために良くないところに借金をしているんじゃ……」
「え? いや、そんなことはないです。借金はないです。本当に!」
「それじゃあ、どうしてそんな……」
セリアさんの表情は本当に心配してくれているものだ。それを騙すのも何となく気が引けるが、だからといって信用してもらえるものだろうか?
『ほらー、ちゃんと言っちゃいなよー。どうせいつか話す事になると思うよ?』
うーん、そうは言ってもなぁ。
『ほら。この人心配してるんだよ? ほら、ね? 心配してくれている人に嘘を
そうか。それもそうだな。よし!
「セリアさん、実は俺のところの妖せ――」
「おい! 誰か治癒魔法と解毒魔法を使える人はいないか! ポイズンスライムにやられた!」
俺がセリアさんに真相を伝えようとしたちょうどその時だった。ギルドの扉が開かれ、大声でそう叫ぶ男の声が聞こえてきた。
「え? カリストさん? ディーノさん、すみません。ちょっと緊急事態のようなので申し訳ございませんが少々お待ち頂けますか?」
「はい」
セリアさんは大慌てで受付から飛び出して行った。俺もセリアさんを追いかけてエントランスの方へと歩いて行く。
すると褐色の肌に金髪と緑の瞳のワイルドなイケメンが神官服を着た女性をお姫様抱っこしている。お姫様抱っこされている女性の顔色は随分と悪く、浅く苦しそうな呼吸をしている。その後ろにおそらくパーティーメンバーと思われる男女が心配そうな表情で見守っている。
「カリストさん! どうされましたか? あっ! メラニアさん! なんてこと……」
「すまない。ポイズンスライムが大量発生してポーションを全て使い切ってしまった。メラニアも MP を使い切ったところを後ろからやられて毒を受けてしまったんだ」
「ポイズンスライムという事は、毒消し草では無理ですね。解毒魔法かポーションでないと。あ、私はポーションの在庫を確認してきます!」
そう言ってセリアさんは受付の方に大急ぎで走っていった。
「ええっ? 解毒ポーションはもう残っていないんですか? しかも神官様の出張でいない? そんな!」
セリアさんの悲痛な叫び声が聞こえてくる。
『ねぇ、解毒ポーションって、ディーノ持ってなかったっけ?』
「ん?」
フラウに言われて俺はこの前のガチャの結果を思い出してみる。
「あ、そういえば、解毒ポーションあったかも?」
「おい! 君! 本当か? 言い値で買う! だからそのポーションをメラニアに譲ってくれ! 頼む!」
「はい。わかりました。家にあるので急いで取ってきます」
「すまないが時間が無いんだ。一緒に行っても良いか?」
「は、はい」
「ありがたい。おーい、セリアさん! ここの彼が毒消しポーションを持っているそうなので彼の家まで行ってくる」
「え? カリストさん? え? ディーノさん? え? どういうことですか?」
「さあ、頼む!」
「わかりました。ついて来て下さい」
こうして俺はカリストさんたちを連れてギルドを飛び出すと自宅へと急行し、そしてメラニアさんを俺のベッドに横たえた。
「はい。これが毒消しポーションです。多分低品質のものですけど……」
「おおっ! これはたしかに毒消しポーションだ! ありがとう! ありがとう!」
カリストさんはポーションの封を切るとベッドに横たわるメラニアさんに少しずつ飲ませていく。すると徐々にメラニアさんの表情が穏やかなものに変わっていった。
「ああ、メラニア! よかった! よかった!」
カリストさんたちはそう言って安堵の表情を浮かべたのだった。
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