第14話 ゴブリン討伐結果

「あ、ディーノさん。お帰りなさい」

「ただいま。セリアさん! ゴブリン、狩ってきましたよ」


 俺は今日狩ってきたゴブリンの魔石の入った皮の袋をセリアさんの担当している受付カウンターの上に置いた。


「それはお疲れ様でした。それと、魔石の提出はあちらの解体カウンターですのでまずはそちらへ行ってください」

「あ、はい」


 しまった。頑張ったところを見せようとして少し恥ずかしいことをしてしまったらしい。


「ふふ。大丈夫ですよ、ディーノさん。魔物討伐依頼をはじめて達成された方は皆さん同じことをなさいますから」


 そう言ってセリアさんはニッコリと微笑んだ。


 うう。恥ずかしい。


『ちょっとー! ディーノ浮気はダメだよ! ダーリンにはあたしというものがいるでしょ?』


 う、ここで話しかけるな。セリアさんにはフラウが見えていないんだからここで反論したら完全な不審人物じゃないか。


『えへへー。ディーノったら照れてるー』


 こいつめ。好き勝手言いやがって。


「えっと、それじゃああっちの解体カウンターに持って行きますね」

「はい。そこで受領証を受け取ったらもう一度ここに来てくださいね」

「はい」


 俺はそうしてそそくさとセリアさんのカウンターから解体カウンターへと移動する。買い取りカウンターでは灰色の髪の四十くらい少し腹の出たおっさんが俺を出迎えてくれた。


「おう。何の買取だ?」

「ゴブリン退治の依頼を受けてきたので魔石の引き取りをお願いします」

「ははーん。ということははじめての討伐依頼達成で受付の嬢ちゃんのところに持って行ったな?」

「なっ、それはっ」


 おっさんはニヤニヤと笑みを浮かべている。


「いいってことよ。新人は大抵みんなやるからな。それにセリアは特に美人だしな。討伐依頼を受けられるようになった奴は今まで全員同じことしたんだぜ」


 おっさんはからかうような口調でそう言うと豪快に笑った。


「おい、いいから受領証を発行してくれよ」

「おいおい、すねんなって。わかったから見せてみろ」


 俺がむすっとしながらも革の袋を解体カウンターに置くと、おっさんは中身をカウンターの上に並べた。


「おお、はじめてのくせにやるなぁ。ええと、ゴブリンの魔石が八個か」


 そう言うとおっさんは受領証を発行してくれた。


「ほい。これが受領証だ。それじゃあ愛しのセリアお姉ちゃんに報告に行って来い。坊主」

「一言余計だし坊主じゃねぇよ。おっさん」

「おや。ちょっとからかいすぎたか? まあいい。俺はホセだ」

「……ディーノだ」

「そうか。そいじゃあディーノ、頑張れよ。期待のルーキー」

「え?」

「ほら、さっさと行け。次が並んでる」

「あ、はい」


 俺は解体カウンターから追い出されると再びセリアさんの受付に座った。


「セリアさん、受領証です」

「はい。あら? いきなり八匹なんてすごいですね。それじゃあ、森はどんな状況だったか教えてもらえますか?」

「え? どういうことですか?」

「ディーノさんに限らず、Eランクになったばかりの冒険者の皆さんには毎回こうしてヒアリングをしているんです。いくらランクアップしたとはいえ、まだまだ新人さんですからね。日々の状況を教えて頂いて、冒険者として末永く活躍して頂くためのアドバイスなどもさせて頂いているんです」


 セリアさんはそう言ってニッコリと微笑んだ。


「そ、そうだったんですね。ええと、俺は普段の森の様子とかはよく分かりませんけど、ゴブリンは割と広範囲に点々といた感じでしたね。最初に倒した奴は一匹だけで、草むらで何かを探しているみたいでした」

「草むらで、ですか。この季節だと草の芽を探していたのかもしれませんね」

「芽ですか?」

「はい。今の季節であればゴブリンの食べる草の芽がたくさんありますので。ご存じの通りゴブリンの主食は人間や家畜ですが、それ以外にも草や木の実、更に根っこまで食べられるものは何でも食べてしまうという習性があるのです。放っておくと大変なことになりますから、領主様のご依頼でこうして冒険者の皆さんに駆除をお願いしているのです」

「そうだったんですね」


 ゴブリンの駆除を領主様が依頼しているとは知らなかった。


「はい。それで、他のゴブリンを倒したときの状況はどうでしたか?」

「その他の時も大体同じ感じでした。一番多く固まっていた時も三匹でしたし、次を見つけるのには結構苦労しました。二時間くらいずっと見つからない時もありましたし」

「まあ。三匹同時にお一人で相手にしたんですか? ディーノさん、お怪我はありませんでしたか?」

「はい。ほら、この鉄の盾のおかげです。ゴブリンも木の棒しか持っていませんでしたから」

「それはそれは。立派な盾ですね。失礼ですが、変なところから借金などされてはいませんね?」

「え? ああ、大丈夫です。これはその、元々家にあったものですから」


 ガチャの事を話すのが何となくはばかられた俺はつい嘘をついてしまった。


『ちょっとー! なんでちゃんとガチャのおかげだって言わないのよっ!』

「そうでしたか。大事な品なのですね」


 フラウは騒いでいるがセリアさんは良いように受け取ってくれたらしい。


「それではディーノさん。今日冒険をされていて困ったことや不安に思ったことはありますか?」

「そうですね。今はまだ大丈夫です」

「かしこまりました。何かお困りのことがあったらいつでも相談してくださいね」


 そう言ってセリアさんは極上の笑顔を浮かべたのだった。


****


「ちょっとディーノっ! ガチャをどうして秘密にするのよっ」

「みんなガチャなんて知らないんだから仕方ないだろ。それに金で引くとあんなに高いんだなんて知られたら余計に心配されるじゃないか。絶対、どこから借金したんだって話になるじゃないか」

「むーっ」


 そう言ってむくれるフラウを横目に俺は家路を急ぐのだった。

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