第11話 酒はいつでも失敗のもと

「ディーノっ! おっきろー!」


 フラウのけたたましい声と共に俺は目を覚ました。外が真っ暗なところを見るにまだ日は昇っていないようだ。


 ううっ。頭がガンガンする。それと気持ち悪い。


「ねぇ! ちょっと! あたしちゃんと頑張って約束を果たしてきたよっ!」

「え? 約束?」

「何それ! 覚えてないの?」

「ちょっと待って。頭痛い……」

「え? ディーノ大丈夫? 病気? 死んじゃだめっ!」


 フラウが心配して涙目になっているがその声が頭に響く。


「二日酔いだから……ちょっと静かにしてて。頭に響く」


 そう言って俺は再び掛け布団の中に入って眠ろうとするが頭がガンガンして眠れないし、フラウのすすり泣くように俺の名を呼ぶ声が気になって仕方がない。


「ああ、もう。仕方ない。頭痛いから静かな声でな」

「ディーノ大丈夫なのね? ああ、良かった」


 俺がそう言うとあっさり泣き止んだフラウはいつもの調子に戻った。


 ん? こいつ本当に泣いていたのか?


「ほらっ! 見て! ディーノのために特別なガチャが用意されましたー!」


 そしてフラウは自分でパチパチと拍手をしながらスクリーンを開いた。


────

有償チケット限定!「☆5確定 1 枠、☆4以上確定 1 枠 10 連冒険者ガチャ」!

(残り 1 回、有効期限 30 日)


☆5提供内容:

【火属性魔法】【土属性魔法】【水属性魔法】【風属性魔法】【剣術】【体術】【弓術】【槍術】【杖術】【警戒】


[ガチャを引く]


保有チケット:0 枚[チケットを購入する]


・提供割合

・提供元:アコギカンパニー

────

注)提供割合と提供元は非常に小さな文字で書かれている



「マジで! ☆5確定と☆4以上確定!?」


 驚いて起き上がり、そして頭痛に頭を抱える。


「そうだよ。しかも、本来は 3,000 マレのところを割引して 1,000 マレでチケットが買えるの!」

「マジで!? あいたたた」


 またもや驚いて立ち上がっては頭痛に頭を抱えた。


「昨日約束したでしょっ! これを引かなかったらディーノは今後の睡眠時間の半分を対価として差し出すことになるけどね」

「はっ?」

「え? だって昨日契約したじゃない。それに、万が一これを引けなくてもディーノは夜眠れなくなるだけだから大丈夫だよっ」

「なにぃぃぃぃ! なんてことを! あいたたたた」


 更に驚いて立ち上がってまたもや頭痛に頭を抱える。


「でもね。ディーノがこのガチャを引かなかったらあたしは消滅しちゃうの。だから、ね? その、ディーノ、頑張ってね?」

「え……?」


 それを聞いた瞬間、俺はさっと血の気が引いた。


 何? こいつ、勝手に自分の命を賭けたの? 俺にガチャを引かせるために?


****


 それからしばらくして落ち着いた俺はフラウを問いただした。


「何でフラウが消滅するなんて話になってるんだ?」

「だって、昨日約束したもん。ディーノに良いガチャ引かせてあげるって」

「だからって、フラウが死んだら何の意味もないじゃないか! いいか、ガチャってのはやりすぎるとその身を滅ぼすんだ。やっていいことと悪いことがある。もっと自分の命を大事にしろよ!」


 ギフトから出てきたナビゲーターではあるが、それでも一人で生きている俺にとって一番身近な話し相手はフラウなのだ。むやみに課金を勧めてこないし、俺のために心配だってしてくれるし応援もしてくれる。


 そんなフラウは俺にとって少しずつ大切な存在になってきていたのに、それがどうしてこんな話になってるんだよ。


「……ごめん。でもね。あたしはディーノに気持ちよくガチャを引いてもらって、ディーノに成功してもらうために生まれたの。だからね。ディーノがガチャを引いて成功してもらうためなら何だってするよ」

「だからって、フラウが死んで良いなんて話にはならないだろう!」

「えへへ。やっぱりディーノは優しいね。でも、あたしこのままいけばやっぱり消滅していたと思うの」

「どういうことだ?」


 寂しそうな笑顔でそう語るフラウに俺は思わず問い返した。


「だって、ディーノはガチャを引くのは好きだけど、何か理由があって、あまり引かないようにしてるでしょ?」

「う、それはまぁ、そうだけど……」

「だから、このままいけば近いうちにナビゲーターを選ぶガチャがもう一回実装されるはずなの。そうしたら、あたしは捨てられて消滅しちゃうから……」

「え?」

「だって、ディーノに気持ちよくガチャを引かせてあげられないナビゲーターなんて失格だもん!」

「そんなこと!」

「ううん。だからね。ディーノにクビにされるくらいだったら自分から消えたほうがいいかなって」


 フラウはそう言うとポタポタと涙を流し始めた。


「そんなことない! 俺はフラウとガチャを引いてて楽しかった! 今のままでも十分だった! だから、二度とこんなことをするな!」


 俺は頭が痛いのに思わず大声をあげてしまった。


「安心しろ。このガチャは必ず引いてやる。せっかくEランクに上がったんだ。1,000 マレなんてすぐに稼いでやるよ」

「ディーノ……ありがとう!」


 俺が宣言するとフラウは涙声でそう答えたのだった。

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